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お嬢はやけにぐいぐい来る  作者: 狐白雪
第二章 暇だったゴールデンウィーク
18/79

18.GW4日目──喫茶店バイトも楽じゃない(1)

 バイト二日目は頼れる先輩である楠木(くすのき)に加えて意外と接客の手際が良いことが判明した傍武(はたけ)が初めからいたため素人である咲希(さき)は本格的に雑用しか仕事が無くなっていた。


「あー⋯⋯じゃあやってみる?オーダーとか」


 (かすみ)に雑用だけでいいのかとそれとなく尋ねたところ、思わぬ提案が降ってきてしまったため咲希は少し身構えた。


「⋯⋯でも、僕がやって大丈夫ですかそれ」


「やりたいって言ったのは河館(かわだて)くんでしょ。⋯⋯というかそもそも雑用以外は出迎えと見送りとオーダーくらいしか無いんだけど。調理は私がやるし」


「ですよね⋯⋯」


 もう一度ホールの方を見るが、やはり今は咲希の力が必要とは思えない。


「『でも逆に言えば今ならミスしてもフォローして貰えるんじゃないか』」


「っ!?」


 まるでこちらの思考を読んでいるかのような完璧な霞の言葉に目を見張る。


「まぁ実際その通りだからさ、やってみなよ。自分で言うのも何だけど、折角執事喫茶なんてお洒落なとこでバイトしてるんだから他じゃできないことをしなきゃ。⋯⋯ということで、GO!!」


「え、ちょ、」


 霞に背中を押され、丁度来店してきた年配の女性客の方向に飛ばされる。


 慌てて助けを求めようと周りを見るが、スタッフは皆「自分で頑張れ!」と目で言っていた。


(やるしかないか⋯⋯)


 脳裏に浮かぶのは堂々と接客をする楠木と傍武の姿。大事なのは自信を持つこと。


 ゆっくりと深呼吸をして心を落ち着かせる。


「──いらっしゃいませお嬢様。お席へご案内いたします」





 初めて出迎えた客を席まで案内し椅子に座ったのを見届けると、注文に関して軽く説明してから頭を下げてその場を去る。


 上手くいったのかは分からなかったが、少なくとも一番近くで咲希の言葉を聞いていた女性客は嬉しそうに笑っていた気がした。


「中々様になっとったな」


「カッコよかったよ河館くん!」


 カウンターまで戻って来ると傍武と霞に激励される。どうやら良かったらしい。


 微妙にむず痒い感覚を感じていると、咲希とは別で接客をしていた楠木が帰ってきた。


 すれ違いざまに小さな声で「しっかり自信、持ててましたよ」と言われ、咲希は困惑と驚愕の入り交じった顔で楠木の背中を見つめることとなった。


 まさかと思いとある人物に向かって視線を飛ばす。


「⋯⋯都築(つづき)さん」


「知らないなー?」


「⋯⋯⋯⋯」


 この人絶対勝手に伝えたなと確信し、ため息をつく。


(まぁ、いいか)


 過程はどうであれ結果的に尊敬する人に認められたのだ。少なくとも感謝はした方がいいだろう。


「じゃあ河館くん、この流れでヨロシク!」


 いつの間にか近くまで歩いてきていた霞はそう言いながら咲希の方へ拳を突き出した。


「⋯⋯え?」


 その状態で固まった霞に困惑の声を漏らすと、呆れたように息を()かれた。


「私の真似して腕出して。こうするの」


「⋯⋯?」


 言われた通りに腕を出すと、こつんと拳をぶつけられる。


「ふふーん、友☆情!」


 なにやら嬉しそうにドヤ顔をする霞を見てようやく思い至った。そういえば彼女は昨日の閉店後に友情が〜みたいななことを言っていたような気がする。


「友情⋯⋯」


 自分に対してそんなものを感じるものなのか、と言いかけたがやめた。流石に失礼になるだろう。


「改めて、ヨロシク!」


 今度こそ拳をぶつけた霞の笑顔に咲希は少し躊躇(ためら)いながらも小さく頷いた。





「なんか⋯⋯お客さん多い気が⋯⋯」


 雑用係からホールスタッフに昇格(?)した咲希は、昨日に比べてお昼時を過ぎても客の出入りが激しいことに疑問を抱いていた。


「そうだねー。見た感じ、うちにしては珍しく女子高生とか女子大生とかが多いねー何でだろーねー」


 霞はカウンターに置いた腕に頬を乗せたまま呑気にホールを眺めている。


「都築さんも手伝ってくださいよ⋯⋯」


 どこからどう見てもサボっている店長に向かってバイトが救援要請をしてみるが、当の霞にやる気は見られない。


「いやー私には調理という重大なミッションがあるのだよ。というか今の状況は君のせいなんだからさ、責任とってよ」


「ぼ、僕のせいですか⋯⋯!?」


 若干不機嫌らしい霞にジト目で睨まれるが、何を言っているのかいまいち理解できない咲希は首を傾げるだけだ。自分のせいと言われても特に思い当たる節は無い。


「⋯⋯まぁ、深くは言うまい。分からないなら分からないなりに頑張ってくれればいいから」


 そう言い残して厨房へ戻っていく霞に、咲希は「えぇ⋯⋯」と(こぼ)すしかなかった。

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