29話 肉壁
翌日。
俺たちはマザマージたちが出発したのを確認してから、少し時間を置いて出発した。
場合によっては『最強の矛』、『天翔』と一悶着起こすことになるかもしれないが、まぁその時はその時だ。
「何人か『最強の矛』じゃないやつらがいるが、アレは誰だ?」
「ああ、マザマージに心酔している部下の人たちですよ。すぐ後ろについて回っているのがスィエンで、そのあとに続くのがスィエン率いるパーティーのNo.2です」
「どこにもでも同じような輩はいるものね……。見る目がないと言うか、何というか……」
気取られないよう十分に距離をとった上で、前を行く一行を見てなんとも言えない表情を浮かべる三人。
「なんだかんだ言っても、マザマージはあの『天翔』の副クランマスター……いや、今は副クランマスター候補だったか。なんにせよ幹部クラスだからな、一緒にいるほうが得をすることも多いんだろ。お姉ちゃんたちの店では、マザマージの名前を出すだけでモテモテらしいし」
へぇ~と意味ありげな視線を向ける三人に、慌てて首を振る俺。
そんな話を聞いたことがあるだけで俺はしたことないと必死に弁解し、なんとか信じてもらうことができた。
そんなこんなでブレルS級ダンジョンへと到着し、先に潜行していったマザマージたちを見失わないように尾行すること数時間。
度々行われる目を疑いたくなるような光景に、我慢の限界が近づいていた。
「バセイ、しっかり前線を維持しろよっ!」
「う、うッス!!」
すでに8層だと言うのに、バセイと呼ばれた青年が一人で陣形の前へと突びだし、盾を叩いて音を出すことで敵意を引いている。
マザマージたちはバセイに群がる魔物を後方から攻撃することで、楽々と討伐しているようだ。
回復役の少女が必死にバセイを回復するが、まったく間に合っていない。
合間合間に回復薬を飲むことでかろうじて耐えているような状況で、どう見ても真っ当な方法とは思えなかった。
「盾の扱いがめちゃくちゃだ……。アイツ、本職の盾役じゃねぇぞ」
「回復役の子も、まだS級ダンジョンへ来るようなレベルじゃないです……。おそらく、つい最近まで治療院か何かで働いていた子じゃないかと……」
「索敵もメチャクチャよ。誘導しているというより、目に入った魔物と戦闘している感じね」
三人は顔を顰めたまま、ようやく戦闘を終えてボロボロになったバセイたちを見つめて呟く。
「えげつないが、よく考えられた方法だな……。あれなら、敵の動きを読む必要がない。マザマージたちでも簡単に攻撃を当てられる訳だ。火力だけはあるからな、あいつら」
仮に思いついたとしても、それを本当に実行するあいつらには寒気がするけどな。
「なんでバセイはあんな目にあわされてもパーティーを抜けねぇんだ? それほど、最強の矛に魅力があるっつーのか?」
「抜けられない理由があるんじゃないでしょうか……? 例えば、あの回復役の子を守るためとか……」
「それなら二人で抜ければ良いだけよ。何か弱みでも握られているのかしら?」
再び進み始めた一行の後を追いながら、様々な仮説を立てていく三人。
確かに何かしらの事情があるのであれば、俺たちが首を突っ込んだところでまったく意味がないからな。
今の俺たちにできるのは、万が一に備えて見守る事だけ。
そう割り切らないと、頭が沸騰しすぎておかしくなりそうだ。
「余計なお節介なんだろうが、勝手にさせてもらうか……」
この場を一度リュミナスに任せ、一人離れた俺は適当な魔物を見つけては眷属化していく。
10体眷属化できたところで合流し、再びあいつらが戦闘を始めたところで眷属たちを参戦させた。
「新手だ! コラプス、かけなおせっ!」
「りょ、了解ガス! 『狙いの標的』!」
コラプスがバセイに向けて手をかざすと、スキルを発動。
バセイの身体がぽうっと淡く輝くと、眷属たちが一斉にバセイへと敵意を向けた。
「あいつら、あんなことまでしてやがったのか?!」
リュミナスは思わず大剣の柄に手を伸ばし、今にも飛び出して行きそうなほど怒りの形相を浮かべている。
陣形から出ていく前にかけていたせいで気づかなかったが、ここまでくると本当に肉壁と代わりない扱いだな……。
「大丈夫だ、支配は解けてない。あいつらがバセイを攻撃することはないから、安心しろ」
「くっ……」
ギリッと奥歯をかみしめ、なんとか踏みとどまるリュミナス。
アリスとメルシーもこらえてくれたようで、俺は眷属たちの支配により集中し、マザマージらに感づかれないようバセイを攻撃するフリをしつつ、支配下にない魔物たちの足を引っ張るよう念話で細かな指示を出し続ける。
その甲斐あって、マザマージたちは先ほどまでより圧倒的に早い時間で魔物を一掃することに成功した。
討伐までの時間が早まれば、それだけバセイが受ける攻撃も減るからな。
眷属たちは頃合いを見計らって逃亡に見せかけて撤退させることで、被害が出ないようにしている。
「……? 敵が弱くなった……?」
回復役の少女が訝し気に周囲を見渡していたが、頭を振って思考を切り替えたのかバセイに駆け寄っていった。
「見事なものね……。こんな芸当、テイマーでもできないんじゃないかしら?」
「さすがはロードさんです! でも、限界が来るのも時間の問題ですよね……」
避けられない未来を前に、三人は表情に陰りを見せる。
8層だからまだ眷属化することができているが、さらに下っていけばいずれできなくなるだろう。
そうなれば、この方法は使えなくなるからな……。
良い考えは浮かばないまま、同じ作戦でバセイの負担を減らし続けること2時間ほど。
すでに10層へと足を踏み入れた俺たちは、徐々に焦りを募らせていた。
「いっそのこと、ロードの眷属たちをけしかけてあいつらに深手を負わせるか……?」
怒りも相まってのことだろうが、リュミナスが物騒なことを言い始める。
「この場は凌げるだろうが、今度は盾役の敵視を引くスキルが効かない魔物が現れたって大騒ぎになるぞ?」
「だーーーーっ! 八方塞がりじゃねぇか……」
「いえ、待って……。その作戦、いけるかもしれないわ」
何かを考え込んでいたメルシーは、神妙な面持ちでそう告げると作戦の概要を俺たちに耳打ちした。
「……私は大丈夫です。ロードさんのお陰で、魔力には余裕がありますから」
「オレも問題ねぇ。いつでもいけるぜ」
「周囲の索敵は任せて。ネズミ一匹見逃しはしないわ」
三人は決意に満ちた表情で頷く。
「よし……。いっちょ、憎まれ役でも買って出るとしますかね」
こうして、俺たちはとある作戦を決行することを決めたのだった―――。




