26話 計画の成就
俺が悪徳商法に引っ掛かってしまった日から、およそ一ヶ月が経過した。
あれから色々あったんだ。
ついには悪魔のようなやつらが突き付けた要求を、いくつも無条件で飲むはめになったこと。
その条件というのは、以下の通りだ。
1.パーティーとしての観点からも共同生活を送るほうが望ましいため、『竜の住処』の敷地を一部買い取り、一緒に暮らすこと。
2.敷地の購入代金、及び維持費は俺が支払っていくこと。
3.離れの建て替えが必要なため、男として責任を取るべき俺がほとんどの費用を負担すること。
4.ミーナを専属受付嬢として指名し、また親睦を深めるべく彼女も同居することに同意すること。
5.彼女たちの許可なく人間に吸血を行わないこと。
ざっと並べるとこんなところか。
あまりにも一方的すぎると思いはしたが、これからのことを考えれば取るに足らないことだった。
俺の中で着々と計画は練られていき、共同生活の始まりを今か今かと待ちわびているほどだ。
家の完成までは宿屋に泊ることになった訳だが、その間にもパーティーとしての活動は始めており、依頼をこなしたりダンジョンに潜ったりと充実した毎日を送っている。
そして昨日、ついにマイホームが完成したんだよな。
今日からすぐに住むことができるとあって、俺たちは朝から引っ越し作業に追われていた。
ちなみに、全ての支払いを終えると俺の貯金がほとんと消え去ったのは言うまでもない。
「ここでロードさんと一緒に暮らすんですね……!」
引っ越し作業を終えて、改めて外から家を眺めていると、満面の笑みを浮かべたアリスが目を輝かせながらそう呟いた。
敷地が竜の住処の裏手ということもあり、素材は竜の住処に合わせてレンガ造りにし、1階部分に生活に必要な機能を詰め込んだ。
2階部分をそれぞれの個室など居住スペースに、屋根裏と地下を倉庫として利用できるようにしてある。
「へへっ、良い家じゃねぇか。立地も良いし、ほんとおやっさんには感謝しないとな」
リュミナスも嬉しそうに笑いながら、何度も頷いている。
「ロードにもよ? 半ば無理やり建てさせたようなものだったから、まさかこんなに立派な家を建ててくれるなんて思ってなかったわ。本当にありがとう」
俺を見つめながら、フフッと笑うメルシー。
「なに、気にすんな。どうせ暮らすなら満足できる家のほうが良いし、今後のことを考えれば広いに越したことはないだろ?」
意味深な言葉に首を傾げるリュミナスとメルシーだったが、タイミング良くおっさんが現れたことで追及されることはなかった。
「なかなか男気を見せたじゃねぇか。俺としては、うちよりも立派なもんを建てやがったからむかつくけどな!」
そう言って、ハッハッハと笑うおっさん。
「おっさんが広めに敷地を譲ってくれたお陰だよ。感謝してるぜ」
「ま、俺も若いころに無理して広々とした敷地を買ったは良いが、結局離れ以外手付かずにしてたからな。お前たちに有効利用してもらえるなら、そっちのほうが良いだろ。なぁ、リーエン」
「これでようやく庭の手入れに時間を割く必要がなくなって、むしろ助かるくらいよ。臨時収入があったお陰で、あたしもお小遣いたくさんもらえたし」
ニッと笑って指で輪っかを形作るリーエンに、おっさんが苦笑いしている。
「おっと、そろそろ仕込みに戻らねぇとやべぇ。新居の完成祝いに明日は豪勢なもん作ってやるから、夜にでも食いにこいや」
「ああ、そうさせてもらうさ」
仕事に戻っていった二人を見送った俺は、いよいよ計画を実行に移すときが来たとうずうずした。
残念なことにミーナは仕事に出ているため戻るのは夜になるが、それまでは三人に頑張ってもらうとしよう。
「さて。三人とも、ちょっと良いか?」
こちらを見て首を傾げる三人に、ついてきてくれと伝えて先導し、二階にある一室の前まで到着。
扉を開けて中へ入るよう促し、最後に自分も入って扉の鍵をしめた。
この鍵は特注のもので、登録済みの魔力を流し込まないと開かないようになっている優れものだ。
「おいロード、暗くてなんも見えねぇぞ」
「明りはどこでしょう……」
「ベッド……?」
メルシーだけはスキルのお陰か、暗闇の中でもある程度見えているみたいだな。
まぁ、そんなことはどうでも良い。
俺はキョロキョロと周囲を見回しているアリスとリュミナスの背中を押すと、二人のすぐ目の前にあった特注サイズの巨大なベッドへと押し倒した。
「なんだっ?!」 「きゃあっ」
「ロード、なにを?!」
唯一見えているメルシーを後ろから羽交い絞めにしたところで、ポケットに忍ばせていたスイッチを操作して明りをつけてやる。
「くくっ……俺は今日この日を今か今かと待ちわびてたんだよ。お前たちに復讐する、この時をなぁ……!!」
「な、何を言ってるんですか……? ロードさんが復讐だなんて、そんなことするわけ……」
「らしくねぇことしてんじゃねぇ! 早くこの状況を説明しやがれ!!」
とても信じられないといった様子のアリスと、どこか必死な様子のリュミナス。
「とりあえず、そろそろ離してほしいのだけど? その、二人も見ているし恥ずかしいわ」
「離すわけねぇだろ? お前たちにはこれから、ミーナが戻るまでの間たっぷりとその身で償ってもらうんだからなぁ……!」
メルシーを抱く腕の力を強めると、ビクッと一瞬身体を震わせる。
くくく、いまさら怖がったって遅いんだよ……!
「お前たちは俺に言ったな? やったことには責任を取るべきだ、と。なら、お前たちにも責任を取ってもらわなきゃなぁ。俺のことを散々良い様に使ってくれた、その責任を……!」
ようやく俺が冗談でも遊びでもないことに気づいたのか、必死に神に祈りを捧げ始めたアリスと、ベッドの上で後ずさりするリュミナス。
メルシーもハァハァと息を荒くし、なんとか逃げ出そうと抵抗を試み始める。
「さてさて、時間はたっぷりとあるからな。せいぜい頑張ってくれよ……??」
俺はメルシーを抱いたまま、ゆっくりとベッドの方へ歩き出した――。
◇
「ただいま戻りましたー! あれ、いないのかな……」
夕暮れ時に業務を終えて戻って来たミーナ。
「ああ、おかえり。みんな上にいるから、ついてきてくれ」
悟られぬよう平静を装いながら、例の部屋へと案内した。
「えへへ、今日からここでロードさんと一緒に……」
嬉しそうに笑うミーナを横目に、三人がいる扉を開けて中へ入るよう促す。
当然、中の明りは消してあるので見えないはずだ。
「あれ、みなさん寝てるんですか?」
「ああ、実はそうなんだ。ほら」
扉の鍵を閉めてから明りをつけてやると、ミーナはすぐにベッドの上で着衣が乱れた状態で動かない三人に気づいた。
「えっ……?」
「あいつらには、俺を良いように使ってくれた責任をとってもらってるんだ。もちろん、ミーナにもとってもらうぞ……?」
「ロ、ロードさん……?! は、話をしましょう! ねっ?! 話をすれば、きっとわかりあえると思うんです!」
「ああ、そうだな。たっぷりと話し合おうじゃないか。責任を取った後でな……!!」
こうして俺の計画は見事果たされ、実を結んだのだった―――。
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