24話 side最強の矛《ゲイボルグ》6
くそっ! くそっ!! くそがっ!!
どうしてこうなったのか、一体なにがいけないというのか。
何度考えてもまったくわからないまま、内心で悪態をつくマザーマジとその一行は、またもやブレルS級ダンジョンから逃げ出そうと必死に走っている最中だった――。
◇
ギルド本部からの、回答という名目の非難文が『天翔』に届いた日から数日後。
副クランマスター候補へと降格したマザマージへ、クランマスターであるイツツシより正式に命令が下された。
<至急ブレルS級ダンジョンを探索し、報告に上げたブレーンスケルトン、またはその進化個体を発見。もしくは、存在するという確かな証拠を探し出すように>
というものだ。
マザマージらがスケルトンの亜種個体であるブレーンスケルトンを発見、並びに撤退を余儀なくされるほどの連携した攻撃を受けたと報告してからというもの、ブレル領主が雇った私兵や冒険者ギルド・ブレル支部から依頼を受けた冒険者たちが、休みなく周辺の捜索に当たっていた。
リュミナスとしてはその存在に否定的なものの、万が一――否、億が一の可能性を否定するだけの材料がないため、やむなくといった形ではあるのだが。
実際にはリュミナスの読み通り、マザマージらのとんでもない勘違いの産物を探しているので当然と言えば当然なのだが、大規模な捜索を行っているにも関わらず痕跡の1つすら発見できない状況が続いていた。
そこへブレル支部より上げられたドラグオーガ進化個体討伐部隊による報告書、次いで『天翔』名義でマザマージらからの信じがたい抗議文が届いたことで、ギルド本部は本格的に『最強の矛』へ懐疑的な視線を向け始め、国へと勅命を出してもらえるよう働きかける。
結果として、
<最強の矛が報告に上げた件のスケルトン亜種個体について、その個体の捜索、及び発見を天翔へと命ず>
という、直訳すれば"お前たちの報告が嘘ではないことを、自らで証明せよ"という、『最強の矛』への不信感を顕にした内容の厳命が下ることになったのだが、当の本人たちがそんなことを考えるはずもなく。
「なんで俺たちが……。こんなの、下っ端の仕事だろうがっ!」
ダンジョンへと向かう道中、もう何度目かもわからない不満を口にした。
「あたいたちのような、トップクラスの冒険者にやらせる仕事じゃねぇよなぁ」
「それは同感ね。でも、逆に考えれば悪くない話よ? S級ダンジョンなら実入りは良いし、稼ぐついでに探せばいいのだから」
「さすが姐さん、考えが深いですね!」
ヒリテスの言葉に、即座に反応して持ち上げるスィエン。
そんな一行に続く、どこか緊張した様子の二人の若者。
バセイという18歳の青年と、エレノアという17歳の少女だ。
バセイは数日前に天翔への所属が決まった斥候役であり、エレノアは聖天教会に頼み込んで派遣してもらった回復役。
失敗が許されないマザマージは新たにこの二人を『最強の矛』に加入させ、今回は念を押して子飼いのスィエンも連れて来るという、盤石の体制を整えた。
「安心しろ、バセイ、エレノア。今日は3階層までしか潜らないし、連携を確認しつつ肩慣らしをするだけだ。そんなに緊張していると、いくら浅層とはいえとんでもないミスをするぞ?」
「は、はいッス! 頑張るッス!!」
「わ、わたくしも、精いっぱい頑張ります!!」
余計に力む二人に初々しさを感じつつ、マザマージは笑顔を向けているフリをしながらエレノアの肢体を眺める。
アリスと一緒で緩めの法衣を着ているため体型はわかりづらいが、良く手入れされた金糸のロングヘアはとても美しく、くりくりっとした碧眼はとても愛らしい。
背の低さと人形のような整った顔立ちも相まって、非常に庇護欲がくすぐられた。
マザマージはこの可憐な少女を今後も手元に置いておくためにも、今日は自身の雄姿を見せつけようと強く意気込んだ。
ほどなくしてダンジョンへ到着すると、潜行する前に改めて陣形を確認。
バセイ、シルストナ・マザマージ、エレノア・ヒリテス、スィエンの順で◇に展開したまま進み始めた。
「て、敵影っ! 数7、ハイゴブリンウォーリアーッス!」
一般的な子供ほどの身長しかないゴブリンとは違い、大人よりもやや低い身長にたくましい身体、鉄の胸当てに片手剣を携えるハイゴブリンウォーリアー。
S級ダンジョンに潜るような冒険者たちならまったく問題ない相手ではあるが、並みの冒険者だったら壊滅させられかねない力を持つ魔物だ。
「よし、まずは二人に俺たちの力を見てもらうとしよう。バセイ、エレノア、スィエンは待機。俺とシルストナ、ヒリテスの三人で片づける」
そう言ってニッと笑ったマザマージは、シルストナと共に陣形を飛び出し、グギャー! と不快な声で叫ぶゴブリンウォーリアー目掛けて剣を振り下ろす。
鉄の剣などマザマージにとっては棒切れに等しく、受け止めようと掲げた剣ごと身体を縦に一刀両断。
そのまま横に剣を走らせ、反応できてない二匹目を上下で真っ二つにして見せた。
それはシルストナも同様であり、振るわれた鉄剣をあっさりと拳で砕くと、グギャッ?! と驚く顔に裏拳を叩き込んだと同時、二匹目の顔へも回し蹴りを叩き込む。
あまりの威力に耐え切れなかった首の骨が折れ、二匹は顔が真裏を向いたまま力なく崩れ落ちる。
ヒリテスは待機中の三人より少し前に歩いて出ると、無詠唱で火槍を発動。
仲間の敵討ちと言わんばかりに二人目掛けて飛びかかった三匹に向けて発射すると、空中で動けない三匹は見事に火槍に貫かれて黒墨と化した。
「す、凄いッス……。これがあの、『最強の矛』の力ッスか……」
「1層とはいえS級ダンジョンにも関わらず、たった3人であんなに余裕そうに……」
畏怖と畏敬の念が混じったような視線を向けたまま、口をぽかんと開けて硬直する二人。
「凄いだろ? あれがブレルのNo.1パーティーと名高い『最強の矛』、その根幹を支え続ける三人だ」
得意気に笑うスィエンの言葉に、こくこくと頷く二人。
そのやり取りは待機組の元に戻ろうと歩いていたマザマージとシルストナ、近くにいたヒリテスの耳にも届いていた。
そうだ、これだよこれ。
俺さまたちに向けられるべきは、あんな視線なんだ。
そんなことを思いながら、久しぶりの優越感に浸るマザマージ。二人も同様のことを思い、満足そうに笑みを零した。
気をよくした一行は、その後も1層の魔物たちを相手に無双。
意気揚々と下層へと降りていくのだった―――。
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