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21話 針の筵

誤字報告や評価など、いつも本当にありがとうございます……!!


 あれから大変だった。

 それはもう、とても大変だった。


 無言で立ち去ろうとするカイエンに必死に弁解したり。


 ようやく我に返ったと思ったアリス、リュミナス、メルシーの三人が頬を紅潮させながらもじもじし始め、突然神に祈りを捧げ始めたり、ちらっと俺に視線を向けては頭をかきむしったり、恥ずかしそうに上目遣いで見つめてきたり。


 全員が落ち着きを取り戻すまで、俺は非常に居た堪れない気持ちだったのは言うまでもない。


「あー、なんだ。ほら、あれだよ。今日あったことは忘れようぜ、な?」


 責任放棄なのは十二分に承知しているが、俺はあくまで命令されただけで、別に俺のせいじゃないよな……?


「お、お前……! 自分がどれだけひでぇこと言ってるのか、わかってんのか?!」


「そうですよ!! 一度吸ったらもう満足で、用済みの私たちはポイなんですか?!」


「身体にしっかりと刻み込んで覚えさせたくせに、いまさら突き放すの?! 次もしてほしければって、あたしたちを脅すつもり?!」


 まるで今にも捨てられそうなペットのような、大切にしているおもちゃを取り上げられそうになっている子供のような。


 とにかく必死な雰囲気で、今にも泣きだしそうな表情を浮かべる三人。


 なんかこれじゃあ、俺が完全に悪者じゃねーか……。


 いや、悪者なのか……? 悪いのは俺なのか……??


「その、あれだ。俺が悪かった。もう言わないから、落ち着いてくれ」


 両手を上げて降参の意を示すと、ほっとした様子で胸を撫でおろす三人。


 俺の吸血には強い依存性でもあんのか……?


 結局その日はそのまま解散することになり、翌日ギルドに顔を出すとリュミナスが一週間後にギルドマスター代理を辞職し、一冒険者に戻るという張り紙がしてあった。


 すでに周囲の冒険者たちはざわざとあれよこれよと憶測を口にして、活発な議論を行っている。


「あ、ロードさん! 凄いですね、あのリュミナスさんとパーティーを組むなんて!」


 俺を見つけたミーナが小走りで近寄ってくると、開口一番に爆弾を投下しやがった。


「おい、あの話まじかよ……?」

「ばかやろー、ミーナちゃんが言ってんだぞ?! 本当だろ!」

「なんであんなやつと……。天翔と最強の矛(ゲイボルグ)追放(クビ)になったやつだろ?」

「っていうかあいつ、アリスちゃんともパーティー組んでるよな……? ってことは、まさか……?!」


 などなど、今一番気になっていたであろう答えを知ったことで、ギルド中の視線といっても差し支えないほどの視線が俺に集中する。


 そこへ――。


「あら、ロードも来てたのね。ちょうど良かった、これから貴方のところに向かおうと思ってたのよ。正式なパーティーとしての活動は少し先だけど、今のうちに打ち合わせとかをしておきたくて」


 故意か無意識かはわからないが、更なる爆弾を投下しにきたメルシー。


「まさかメルシー様まで、あいつのパーティーに……?!」

「これは夢だよな?! ブレルの誇る美女たちが次々にあいつのもとに集うなんて、あるわけねぇよな?!」

「清純系アイドルのアリスちゃん。勝気な美女リュミナスの姉御。みんなのドSお姉さまメルシー様。俺の推し達がなんで……」

「誰か頼む、いくらでも払うからあいつを海の藻屑にしてくれ……」


 崩れ落ちるやつ、恨みの篭った視線を向けてくるやつ、虚ろな瞳で酒を飲みだすやつ。


 反応は多種多様だが、誰も彼もが決して軽くないダメージを負っているようだ。


 それに比例するように、痛いほどの殺気を至る所から感じる。


「もう、ロードさんてばどんどんと女の人を増やすんですから……。ぼ、ぼくの存在も忘れないでくださいね?! 一緒に冒険には行けませんけど、いつでもロードさんを想いながら帰りを待ってますから……!!」


 顔を真っ赤にし、耳をピクピクと上下に揺らしながら走り去っていくミーナ。


「ミーナちゃんまで……」

「終わった。俺の人生は今、ここで終わった」

「もう仕事なんてする気起きねぇよ。帰ろ」

「酒だ! もっと酒を持ってきてくれ! 今日だけは好きなだけ飲ませてくれーー!!」


 ついには泣き出すやつまで現れ、その原因たる俺はまさしく針の筵状態だ。


「なんだか大変そうね??」


 そんな中、メルシーだけは非常に楽しそうに笑っている。


 こいつ、やっぱりさっき現れたタイミングといい発言といい、わざとだったんじゃあ……。


「そんなに怖い顔をしないでちょうだい。あとでいくらでもお仕置きしていいから、ね??」


「よし、お前は今すぐに俺と来い。これ以上喋るんじゃねぇ」


 ブワッと跳ね上がる殺気から逃げるように、俺はメルシーを連れて急いで宿へと戻ったのだった。


「あれ、ロードさん? もう帰って来たんですか?」


 宿へと戻ると、もはや見慣れた光景になりつつある室内を掃除するアリスの姿が。


「これはどういうことかしら……? なんでアリスちゃんがここに??」


「あれ、伝えてませんでしたか? 私とロードさんは、ここで一緒に暮らしてるんですよ?」


「なっ?! ほ、本当なの?!」


 狼狽えた様子のメルシーは、事の真偽を俺へと確かめてくる。


「ああ、本当だぞ。といっても仕方なくであって、望んでという訳じゃないが。それに、それも今日明日までの話だ」


「えぇ?! ど、どういうことですかっ?! 私、そんな話聞いてませんよ?!」


 今度はアリスが狼狽え始め、あっちもこっちもワタワタとしだした。


「何言ってんだ? アリスがここにいた理由は、泊まる場所がなかったからだろ? 騎士団の派遣もひとまず中止された今、宿屋なんてどこでも空いているはずだ」


「そ、それはそうかもしれませんけど……! でも、私がいた方が何かと便利でしょう?! ねっ?!」


「ああ、そうかもしれないな。だが、その便利さ以上にデメリットも多いんだぞ。諦めろ」


「そ、そんなぁ……」


 全身でガッカリ度合いを体現するかの如く、ひどくうなだれた様子で負のオーラを纏うアリス。


 ったく、こんなおっさんの何がいいんだか……。


「ここは宿屋でしょう? 別の空き部屋に泊れば良いんじゃないの?」


「それが――」


 見かねたメルシーが助け舟を出すが、アリスが以前おっさんに言われたことを伝えると、目をぱちくりとさせる。


「そうねぇ……。アリスちゃん、ちょっと良いかしら?」


 何かを思いついたといった様子でこちらを見てニヤリと笑ったメルシーは、アリスを連れて部屋を出ていってしまった。


 おいおい、なんだか凄く嫌な予感がするんだが??


 そんな予感とは裏腹に二人は夜まで帰ってくることなく、いくらなんでも疑いすぎたかと反省しだした頃。


 事件は起こるのだった―――。

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