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16話 なにをするつもりだ


「おい……あいつは何してるんだ? オレの勘違いでなきゃ、血を飲んでるように見えるんだが……」


「……」


 傷が完全に癒えているにも関わらず、あまりにも異様な光景にその場から動けないリュミナスがアリスに問いかけるが、アリスは黙ってロードの姿を見つめるだけだった。


 先ほどまで避けるだけで精いっぱいだったはずのロード。


 それが嘘のようにハイドラグオーガを圧倒しているが、驚くべき回復力で瞬く間に傷が癒えるハイドラグオーガもまた、まったくと言っていいほど動きが鈍る様子はない。


 魔物に心というものがあるのならば、そちらはどうだかわからないが。


 何も答えないアリスに不満そうな表情を浮かべるリュミナスだが、気持ちを切り替えると冷静に現状を分析し始める。


「チッ、まぁいい。現状では決定打に欠けるが、あいつが時間を稼いでくれればいずれ救援が来るだろう。何をしているのか、その答え合わせはあとでも構わないしな」


「ダメ……ダメです! お願いします、今すぐにロードさんを止めてください!」


「あぁ?! 確かに不気味だが、あいつの今の状態はオレたちにとっちゃ好都合だろ?!」


「それでも、ダメなんです! あのままじゃ……ロードさんがロードさんでなくなっちゃいます!!」


「訳のわからねぇことを言うんじゃねぇ! ちゃんと説明しろ!!」


 一心不乱にすがりつくアリスの必死さに、並々ならぬ何かを感じ取ったリュミナス。


「私には、『神眼』というエクストラスキルがあります」


「なっ?!」


 アリスの告白に、目を見開き驚くリュミナス。


 エクストラスキル――。


 極ごく稀に発現するとされる、第二のスキル。


 本来1人に1つであるはずのスキルになぜ2つ目が現れるのかは解明されていないが、このエクストラスキルを発現した者には決まって1つの共通点があった。


 善か悪かは別として、必ずと言っていいほど歴史に名を刻む何かを成し遂げるという点だ。


 総じて破格の能力を有したものが多いエクストラスキルならば、当然と言えば当然なのかもしれないが。


「……それで?」


「今のロードさんは負の感情に呑まれ、スキルに心を支配されています。早く止めないと、戻ってこれなくなっちゃうんです……!」


「ああくそっ、訳わかんねぇっ!! とりあえず止めりゃいいんだな?!」


 頭をひとしきりかきむしったリュミナスは、考えることを放棄して駆けだした。


 どうやって止めればいいのかもわからないが、とりあえず一発殴れば正気を取り戻すだろ。


 そんなことを考えながら。


「ヴォォオオオオオオッッ!!」


「うるせぇ、お前は今お呼びじゃねーんだよ! 大人しくしてろ!!」


 威嚇してきたハイドラグオーガにリュミナスが叫ぶと、まるでその意を汲むかのようにロードが腹部へと殴打を叩き込み、よろけたところを思い切り蹴り飛ばした。


「お前、意識があんのか……?」


 恐る恐るリュミナスがロードへと近づくと、突然がばっとリュミナスを抱きしめたロード。


「な?! ななな?! ななな、なにしてんだお前?!」


 激しく動揺しながらもなんとか引きはがそうと暴れるリュミナスだが、ロードはびくともしない。


「おい、離せっ! ちょ、ちょっと待て……! な、なにをするつもりだテメェ?!」


 ゆっくりと顔を近づけてくるロードに、頬を紅潮させ乙女のような反応を浮かべながら固まるリュミナス。


 あと僅かで唇同士が触れる、その瞬間強く目をつむったリュミナスだが、予想していた感触が襲ってこないことに疑問を覚え目を開けた。


「……?」


 先ほどまで目の前にあったはずのロードの顔は、いつの間にかリュミナスの首元に移動していることに気づいた時には時すでに遅し。


 カプッと柔らかい首筋に歯を突き立てたロード。


「んっ……や、やめろぉっ……。んんっ……んーーーッッ!!」


 甘い声を響かせたままビクビクと震えたリュミナスは、ロードの腕の中でぐったりとしたまま動かなくなった。


 そこへ、ゆっくりと歩み寄るアリス。


「ロードさん……? 何をしているんですか……?? うふふ、私というものがありながら……」


 極寒だと錯覚するほどの冷気を纏い、光を宿していない暗い瞳のまま微笑むアリスを見て、ハッと我に返ったロード。


「お、おぉ……?! って、リュミナス?! おい、大丈夫か?! ま、待てアリス……! 話せばわかる、そうだろ?! なっ!?」


 現状から自分が何かをやらかしたことだけは理解できたロードは、ゆっくりとリュミナスを地面に降ろしながら必死に懇願するが――。


「問答無用!!」


 ロードの頬にアリスの拳が突き刺さり、それはそれは見事なアッパーがさく裂。


 身体が宙に浮くほどの威力を見せた。


「ん……? オレは一体……」


 意識を取り戻したリュミナスは目の前の光景にすぐには理解が追いつかなったものの、次第に先ほどのことを思い出していき、見る見る顔を赤く染めていく。


「みんな! 救援を連れて戻って来たわよ! だいじょう――あなた達は一体何をしているのかしら?」


 タイミング悪く戻って来たメルシーは、ここが死地だということも忘れて真顔で本音を口にした。


 地面に仰向けに転がったまま動かないロード。

 そんなロードを冷ややかな視線で見下ろすアリス。

 顔を真っ赤にしてへたり込むリュミナス。

 

 とてもつい先ほどまでの決死の覚悟がなかったかのような、旗から見れば修羅場にしか見えない光景に思わず眩暈がした。


「おい、メルシー! ドラグオーガの進化個体はどこだ?! ギルドマスターたちは無事なのか?!」


 そんなことになっているとは露知らず、真剣な表情で後ろから状況を尋ねるカイエン。


 あらかじめメルシーが無暗に突っ込まずに私の指示を待ってと言っていたのが幸いし、このカオスとも言える状況を見られずに済んだのは不幸中の幸いと言えよう。


「ちょ、ちょっと待っていてくれるかしら? 今こちらが狙われると壊滅しかねないから、あたしが先に合流して合図を出すわ。良い? 決して気取られぬよう、息をひそめて隠れていてね」


「ああ、わかった! 無茶はするなよ?!」


 なんとか平静を装い、カイエンたちに悟られぬよう場を後にしたメルシーは、急ぎロードたちの元へと向かう。


「ちょっと!! どういう状況なのこれ?!」


「あ、メルシーさんおかえりなさい」


「ただいま……って違うわよ!! 進化個体はどうなったの?!」


「ああ、それならロードさんがフッ飛ばして……」


 ちらりとアリスが視線を向けた先を見れば、一本角を深々と壁に突き刺したまま沈黙するハイドラグオーガの姿が目に入る。


「えぇー……。そ、それで当のロードはなぜこんな状態に?」


「私が殴りました」


「そう、アリスが殴ったの……って、どうして?!」


 アリスとメルシーのやり取りに、ようやく我を取り戻したリュミナスは、さも何事もなかったかのように立ち上がるといつもの勝気な態度を取った。


「おう、メルシー悪かったな。まだあいつは生きている、救援に来たやつらと一緒に止めをさずぞ」


「ええ……それはそうなのだけど、リュミナスはどうして顔を真っ赤にしていたの?」


「見間違いだ」


「いえ、そんなはずは……」


「見間違いだ!! いいな!!! この話は終わりだ!!!」


 カイエンたちに聞こえないよう、声のボリュームを落としつつ語気を強めて叫んだリュミナスは、寝ているロードの腹部を蹴り叩き起こす。


「いつまで寝てんだ! さっさと起きろ、このカスが!!」


「いってぇっ?! 何すんだコラ!」


「あぁ?!」


 鬼神を彷彿とさせる表情に、反論する気力を刈り取られたロードは飛び起きると背筋を正す。


「ヴ……ブァァァァアオオオオオオオオッッ!!!!!!!!!!」


 ダンジョンが揺れたかと思うほどの大声量で、怒りに満ち満ちた瞳をロードたちに向けて叫んだハイドラグオーガ。


 気を引き締めなおした一同は、再び戦闘態勢に入るのだった―――。



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