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13話 進化個体との遭遇


 あれから数度のスケルトン種との戦闘を経て、俺たちは5層へと降り立った。


 5層を慎重に進んで行くが特に異常は見当たらず、その後も6層、7層と順調に下っていく。


 なんだかんだでこのパーティーのバランスは非常に良く、後衛がいないとはいえ今のところ苦戦らしい苦戦もしていない。


「お前たち二人は、地上(うえ)に戻ったらA級試験だな」


 幾度目かの戦闘後、リュミナスが急にそんなことを言いだした。


「あぁ? 万年B級止まりの俺が、いまさらA級試験なんか受けられるわけねーだろ」


「アタシもまだA級になるほどの実績はないから、しばらく先だと思うわ」


「おいおい、忘れてんじゃねぇだろうな? オレは代理とはいえ、ギルドマスターだぞ? そんくらい、オレが推薦すりゃ関係ねーに決まってんだろ」


 ハッと鼻で笑いながら、それが当然とでも言いたげに真顔で言い放つリュミナス。


 俺は呆れて言葉もなく、メルシーに至っては茫然としてしまっている。


「いくらギルドマスターとはいえ、規則を無視というのは越権行為じゃ……」


 アリスの冷静な指摘に、リュミナスはキョトンとした表情を浮かべた。


 詳しく説明しだすとめんどくさいから省くが、B級からA級に上がる試験を受けるためには基本的にこの2つの条件の達成は必須だ。


 1.国が指定しているA級以上の魔物を、個人なら7体以上。パーティーなら20体以上討伐


 2.依頼の成功率が7割以上、かつB級以上の依頼達成度が300件以上


 例外としてS級以上の魔物を討伐した場合には条件を無視してA級へと昇格することがあるが、これは非常に稀なことでまずありえないと言っていいだろう。


 なにせ、S級というのはたった一体でA級の魔物数十体以上の力を持つ化け物で、言わば個でありながら天災に匹敵しうる1つの災厄なのだ。


 S級の魔物が1体現れると、国1つが容易に滅びるとも言われているほどだからな。


「真面目だねぇ。だが、別に越権行為でもなんでもねぇんだぜ? ギルドマスターには、任せられた支部のある区域を守るという義務があるからな。埋もれている原石を放置しておくとか、それこそ許されねぇ行いだと思わないか?」


 屁理屈のような気もするが、言っていること自体はおかしいことじゃない。


 ただ、そんな話を聞いたことないから考えてみても、そう易々とできることではないんだろうな。


「ま、俺は別に急いでA級になろうなんて考えちゃいないし、話半分に聞いとくわ」


「アタシも同じくよ。実力を認めてもらえるのは嬉しいけれど、周りからやっかみを受けたくもないし」


「無欲だねぇ……。どうせ時間の問題だから、別にいいけどよ」


 やれやれと首を横に振ったリュミナスは、俺たちを無理にA級推薦することを諦めたようだ。


 確かにメルシーの言う通り、今の俺が突然A級試験なんて受けた日には、それこそ真っ先にリュミナスとの関係を疑われそうだよな。


 素材がいいのは認めるが、この女と噂になるのはちょっと……。


 アリスの前を行くリュミナスの背に冷めた視線を向けていると、突然振り返ったリュミナスからギロリと睨まれた。


 アイツ、やっぱり心を読むスキルとか持ってるんじゃねぇか……?!


 幸い何も言わずにまた前を向いてくれたから良かったが、これからは口に出していないからと油断しないように気をつけよう。


 ほどなくして8層へ降りる階段へとたどり着いた俺たちは、短い休憩を挟んでから階段を降り始めた。


 だが――。


「嫌な気配がピリピリ漂って来てるな。これはちょっとヤバいんじゃないか?」


 俺が足を止めて声をかけると、リュミナスも8層へ続く階段の先を見つめたまま口を開く。


「ああ、何かしらの異常が起きてるのは間違いなさそうだな。件の進化個体か、はたまた別の個体か、それ以外か……。原因を調べない訳にもいかないから進むが、いざとなったらオレが殿を務める。お前らは何がなんでも情報を持ち帰れ。いいな?」


「そうならないよう最善を尽くすのが、あたしの仕事よ。何が起きてるかさえ解ればいいのだから、そんなことは言わないでちょうだい!」


「そ、そうですっ! いくらなんでも、その命令は聞けません……!!」


 声を荒げて憤りを顕にするメルシーと、今にも泣きそうな顔で睨みつけるアリス。


 短い付き合いにも関わらず、ここまで感情移入できるなんていいやつらだよな、ほんと。


「ったく、俺はしみったれた空気が苦手なんだよ。いいじゃねぇか、ハッピーエンド。誰かを犠牲にって考えるより、どうすれば全員で生きて帰れるかを考えようぜ」


「お前まで……。わーったよ、オレが悪かった! だが、それでもあえて1つ言わせてもらう。世の中、そんなに甘いことばかりじゃねぇんだ。もちろんオレもそんな未来が訪れないよう最大限の努力はするが、覚悟だけはしとけ。じゃないと、辛いのは自分(テメェ)だぞ。何より、そのせいで()()に死んでほしくはねぇだろ?」


 降参だと両手を上げていたリュミナスは、真面目な表情とトーンでそう語って聞かせた。


 俺も本音を言えばリュミナスと同感だが、二人の甘い考えも嫌いじゃないからな。


 ま、できることは何でもやってやるさ。


 二人もリュミナスの言葉に考えさせられたのか、それ以上反論することはなかった。


 そして、問題の起こっているであろう8層に降り立った俺たちは、ほどなくしてこの異様な雰囲気を漂わせている原因であろう対象の気配を感じ取る。


 斥候であるメルシーは当然のこと、アリスですら肌で感じ取れるほどのプレッシャーを放つ存在。


 近づけば近づくほど存在感が増し、冷や汗がとめどなく流れ落ちていく。


「……何かを捕食しているのか、こちらにはまだ気づいていないようね。確認するなら今しかないわ」


 メルシーが曲がり角の先をちらりとのぞき見、いたと無言で合図を出す。


 俺たちもそっと顔を半分だけ出して覗き見ると、30mほど先の開けた空間の中央で魔物を捕食する異形の姿が目に入る。


 額から伸びる一本角。

 目測で5mはあろうかという筋骨隆々の巨大な人型の体躯。

 身体をびっしりと覆う赤黒い鱗。

 背中から生える竜の翼。

 

 オーガ種と竜種の特徴を合わせもつ魔物、ドラグオーガ種。


「あれはヤバいな……。こんなところにいる魔物じゃないはずなのに、なぜ……」


 思わずそう呟いてしまった。


 ドラグオーガ種は本来、ブレルS級ダンジョンの25階層付近に出没する魔物だ。


 つまり――。


「超異常事態、もしくは呪縛から解き放たれて下層から上がって来た個体……。おそらく後者、ドラグオーガ種の進化個体だろうな」


 俺と同じ推測をリュミナスが口に出したことで、俺たちの緊張感は一気に高まった。


 切羽詰まった様子のリュミナスは、踵を返すと急ぎこの場を去るべく気配を押し殺しながら来た道を引き返すよう指示。


 だが、実際のところは俺たちはあいつの気まぐれで泳がされていただけで、すでに狙われていたのだと気づいたのはそれからすぐのことだった―――。

 

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