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10話 今のところフリー


 アリスと同棲を始めることになった翌日。


 案の定俺は一睡もできず、重い瞼を擦りながらギルドで話を聞いていた。


 ちなみに、アリスはよく眠れたようで隣でニコニコとしている。


「騎士団の到着は5日後。それまでは、俺たちだけで街を守り抜かなきゃならねぇ。敵の姿すら掴めてねぇ今、はっきり言ってかなりまずい状況だ。S級ダンジョンには見張りを置いているが、ダンジョン内を徘徊してるのか、それともすでに外に出た後なのか、それすらもわからん」


 フーと深いため息をついたカイエンは、一息置くと再び口を開く。


「最悪の場合を想定し、南北にある大門にはそれぞれB級以上のパーティーを常に複数待機させることになった。ここにいる奴らは全員が3人以上のパーティーであり、強制参加の対象となる。心してかかれよ」


 一同が張り詰めた雰囲気を醸し出す中、俺とアリスは思わず顔を見合わせてしまった。


 俺たち、2人しかいないんだが……?


「あー、話の腰を折るようですまん。1ついいか?」


「なんだ、ロード。気になることでもあったか?」


「あー、いや……。その、俺たちは3人以上のパーティーに所属していないんだが、なぜ呼ばれたんだ?」


「どう言うことだ? お前は『最強の矛(ゲイボルグ)』だろ?」


 怪訝そうな表情を浮かべるカイエン。


 冒険者間では瞬く間に広がった噂も、副マスターまでは届いていなかったらしい。


「カイエン副マスター。ロードさん並びにアリスさんの両名は、すでにクラン『天翔』からの脱退、及びA級冒険者パーティー『最強の矛(ゲイボルグ)』からも離脱されています。現在は2人でパーティーを組まれていて、今回の招集対象にはなっていません」


 ミーナが報告をあげると、唖然とした表情を浮かべるカイエン。


「ま、マジかよ……? 昨日も二人の姿が見えなかったが、下見だと聞いていたからてっきり休暇でも取ってるんだとばかり……」


 ひどく狼狽した様子のカイエンに、黙っていられなくなったのか叫び声が上がった。


「だからなんだと言うんだ! そんな中途半端な吸血(コウモリ)ヤローは、俺たちのクランにもパーティーにも相応しくなかったんだよ!! 別にいてもいなくても、俺たちの強さは変わらねぇ!!」


 怒鳴り声の主であるマザマージは、忌々しそうに俺を睨む。


「リーダーであるお前がそう言うのなら、オレは何も言わんがな。少なくとも、アリスが抜けた穴はまだ塞がってねぇみたいだが?」


「アリスは慈悲深いからな、今はロードのフォローに回ってやってるだけだ。すぐに戻ってくる。な、アリス?」


 爽やかな笑顔で問いかけるマザマージに、まるで汚物でも見るかのような視線を向けるアリス。


「何を言ってるんですか? 私は二度と戻りませんよ」


「な?! なんでだよ?! 一体最強の矛(ゲイボルグ)の何が不満だってんだ!!」


「全てです。私が最強の矛(ゲイボルグ)に所属していたのは、偏にロードさんがいたからですよ? そのロードさんがいなくなった今、残る理由なんてありません」


「そんな吸血(コウモリ)ヤローの何がいいってんだよ!? 剣も使えねぇ、魔法も使えねぇ。できることと言えば、弱い魔物の血を啜って支配下に置くことで索敵させることだけだぞ?!」


「はぁ……。良いですか? 第一に、最強の矛(ゲイボルグ)が今の座まで至ることができたのは、ロードさんの功績によるものが大きいんですよ。確かにマザマージさんもヒリテスさんもシルストナさんも火力はとても高いですが、基礎が疎かになりすぎていて戦闘では使い物になりません。それを一級品にまで昇華させていたのは、ロードさんの支援によるものです」


 淡々としたアリスの指摘に、顔を真っ赤にさせてわなわなと震えだすマザマージ。


「じゃぁ何か?! 俺たちはロードがいなきゃ、何もできねぇって言いてぇのかよ?!」


「それは今後の貴方たち次第じゃないですか? 少なくとも現段階では、その通りだと思いますよ」


「俺たちを馬鹿にしてんじゃねぇぞ……ッッ!!」


 今にも剣を抜き放ちそうなほど剣呑な雰囲気を纏うマザマージに、俺は警戒感を強める。


「それ以上は許さねぇぞ。どうしても喧嘩してぇんなら、とめねぇけどよ」


 2階から姿を現した、ギルドマスターであるリュミナスが一睨みすると辺りは静まり返った。


 無造作に伸ばされた真っ赤な髪、とても鋭い燃える炎のような赤い瞳。

 

 顔立ちも非常に整っていて綺麗なんだが、いかんせん男勝りな女冒険者ということもあり、身嗜みは最低限しか取り繕わないため色々と勿体無い。


 おっと、心を見透かされたのか睨まれてしまった。


 リュミナスはまだ22、3という若さでギルドマスターを任されるほどの逸材で、A級冒険者でもある凄腕なのだ。素晴らしい人なのだ。


「それで? そのやたらと失礼な視線を向けてくる男は、そんなにも優秀なのか?」


 二階から飛び降りてきて早々、俺をチラリと見てからアリスへと視線を移す。


「はい。少なくとも私が知る中で最も可能性に溢れ、そして正しく力を使える心を持った素晴らしい人だと思います」


「なるほどねぇ……。いいだろう、そこまで言うんならそれを証明して見せな。そうすりゃ、今後は『天翔』と『最強の矛(ゲイボルグ)』からの横槍に対して、オレが後ろ盾になってやるよ」


「と言うと?」


 訝し気に首を傾げるアリスに、ニヤッと笑うリュミナス。


 うわー、なんか嫌な予感がしてきたぞ……。


「カイエン、優秀なフリーの斥候に心当たりはないか?」


「フリーかどうかはわからんが、一人オススメがいるな。メルシー、ちょっと来てくれ」


「アタシ……?」


 やや緊張した面持ちのメルシーと呼ばれた女性は、恐る恐るこちらへやってきた。


「へぇ。あのカイエンがオススメするなんて、よほど見所があるんだな」


「ああ、すげぇぞ。お前さんもすぐにわかるだろうさ」


「そりゃ楽しみだな。ダメ元だったんだが、聞いてみるもんだ。で、メルシーはどこかのクランに所属してるのか?」


「アタシは……」


 メルシーはチラリとマザマージたちの方を見て、小さく首を振った。


「アタシは今のところフリーよ」


「な?! お前はうちに入るんだろ?!」


 焦った様子のマザマージが抗議するが、リュミナスが黙れと手で制す。


「ああ言っているが、どうなんだ?」


「確かに加入試験を受けていたわ。でも、その短い間でもアタシとは考え方が大きく違うことがハッキリと理解できたから、断ろうと思っていたのよ」


「だ、そうだ。どこのクランに加入するも冒険者の自由。わかってるよな?」


「くそが……ッ! 後から後悔しても知らんからな!!」


 ギリッと歯噛みしたマザマージは、メルシーを一瞥するとふんっと鼻息を荒くして引き下がった。


「それじゃ、メルシー。あんたに1つ依頼を頼みたい。危険を伴うから、断ってもらっても構わないぜ」


「依頼……?」


「ああ。オレはそこの二人――ロードとアリスって言ったか? あいつらと一緒に、S級ダンジョンの探索に向かうつもりだ。そこに、斥候として同行して欲しい」


 しばし考え込むメルシー。


 いや待て。


 俺はそんな話、一切承諾していないが……?


 いや、アリスよ。


 なぜそんなに喜んでいるんだ……?


 俺のことなんてまるでいないかのように進んでいく話。


「……わかったわ。ぜひ受けさせてもらいましょう」


「決まりだな。んじゃ、カイエンに留守は任せるぜ。オレはちょっくら、()()()()を探ってくるからよ」


「ロードさん、頑張りましょうね!!」


「あ……ああ……。そうだな……?」


 こうして、一切俺の意思は確認されることがないまま、S級ダンジョンへ潜ることが決定した―――。

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