53日目 伝書鳩
気がついたら、大空を飛んでいた。
ばさばさと羽ばたいて、飛んでいた。
……羽ばたいてる?
……生きてる?
……俺、生きてる?
おいおい。生きてるわ、俺。
生物に転生してるよ。自分の意思で体が動くよ。めっちゃ久しぶりだ、この感覚。やばい。やばすぎて語彙力が損なわれる。
これだよ。
こうでこそ、転生する意味があるってもんだ。
大空を飛んでるのだから、おおかた、鳥なのだろうけれど。早いところ自分の正体を確かめたい。
この身体の本能は、「あっちに飛んでいけ!」「あっちが安全だぞ!」「早く帰ってぐっすり寝るんだ!」とかなんとか言っているような感じがあるけど、そんなのは元人間様の理性でねじ伏せる。こちとら50日くらい生きてる体とおさらばしてたんだ。理性ばっかり育っている。
うーん……
とはいえ、自然界に鏡なんてそう都合よくあるわけ――あるなあ?
自然界じゃないけれど、眼下には大きな公園が見えた。あれだけの大きさなら、どこかに公衆トイレはあるだろう。
俺は飛行のスピードを緩め、公園の上空で旋回をはじめる。
テニスコートがあり、木がたくさん生えてて、小さな小屋くらいの建物がいくつかあり……向こうに見えるカラスには一旦近寄らないでおこう。
建物は全部回らないとダメかな、これ。
俺は、一番近くの建物に向けて降下をはじめた。
人がいる。犬もいる。
絡まれると嫌なので、ちょっと離れたところにしゅたっと降り立つ。
というか――この身体、めちゃくちゃ操作性がいい。俺はまったくもってどの筋肉をどう動かそうみたいなことは考えていないのに、どういう結果が起きてほしいか想像するだけで身体が勝手に動く。作り込まれたフライトシミュレータよりも操作しやすいと思う。
……この身体の謎は深まるばかりだけれど、とりあえず姿を確認すれば理解も深まるだろう。
今度は人間の目線くらいの低空飛行で、トイレを探し回る。
……探そうとしたけど、気付いた。俺は文字読めるんだから、標識見ればいいじゃん。
というわけで青と赤のピクトグラムを探して、それが指す方に飛んでいく。あった。
この体の性別は知らんけれど、まあ、人間だった頃は男だったから男でいいだろう。
幸いにも中に人はいなさそうなので、とことこ歩いて忍び込み、洗面台の上に上がる。
鳩がいた。
それはもう、普通の鳩がいた。
あの、ちょっと緑がかった色で、喉元が赤かったりする、よく公園で歩いてるような鳩。
強烈な帰巣本能(今もとっとと飛べと頭の片隅がうるさい)を考えると――
どうやら、今日の俺は、伝書鳩になってしまっているらしい。
神様の目玉をつっつくのは……ちょっと厳しいか。
さて。
俺はまだ帰らないぞ。せっかく生き物になったんだ。やりたいことがある。
ご は ん た べ た い 。
口から、おいしいと感じるものを、摂取したい。なんでもいいの。パンくずとかでいいから。
幸い、この公園は広いし――飛び回ってたら、食べこぼしをしてる人とかが見つかるかもしれない。とりあえずさっきの売店まで戻ろう。
売店まで戻ってきて、思う。その辺で植物の種とかを探すという選択肢もある。
うーん……
俺の眼前には、「メロンパン」と書かれたのぼりが立っている。
うーん……
うん。やっぱり甘い物食べたい。
誰か! 早く! メロンパンを! 立ち食いしてくれ!
それまでは……地面でも探すかー。
この後、人間の子供に追い立てられたりカラスに追いかけられたりハヤブサにロックオンされて死にかけたりしたけれど――
メロンパンのかけらは食べられたのでOKです。人間の食べ物っておいしいね。




