44日目 通電前のCPU
運ばれる振動で目が覚めた。
さすがにこうやって何日も無機物をやっていると、だんだんわかってくる。これは、人間が何かを持ち歩いている時の振動だ。
今日の体はというと、腹の側――足がついている感覚がある方は、なんか、やわらかいものに保護されている感じ。布団に腹ばいというか四つん這いというか、そんな感じになっている。
背中側には何かがあって、俺をきちんと布団に押しつけている。
視界は……ないんだよなあ。でもたぶんこれは暗いだけ。段ボールかなんかに入れられてんじゃないのかな。
♪ピンポーン
「Amazonです!」
ほらね。俺、配送されてるよ。
「はーい」
中年の女性の声がして、俺の入った段ボール箱を受け取る。
「こちらお荷物です」
「ご苦労様です」
ドアが閉まる音が聞こえて、そして。
「匠~! 荷物届いたわよ!」
母親が荷物を受け取って子を大声で呼び出すのは、どこのご家庭でも同じのようだ。
「そこ置いといて!」
◇ ◇ ◇
置いておかれた俺は、数時間経ってから回収された。
やっと自分が何なのかがわかるぞ。わくわく。
「さてと……」
お。匠くんの独り言も聞こえるじゃないか。
べりっと音がした後、光が差し込んでくる。だいたい状況的にわかってはいたけど、やっぱり俺は有名通販サイトの段ボールの中に閉じ込められているようだ。
「新しいの買ったはいいけど、どのケースに積もうかねえ」
包装をべりべりと剥がされた後、俺が持ち上げられる。背中の側で俺を押しつけていたのは透明なプラスチックだったようで、匠くんの部屋の中がよく見える。
雑然とした部屋だった。
なんだろう、ギークの部屋って感じ。よくわからない黒いプラスチックの塊が積まれていたり、タワー型のパソコンが5台くらい並んでたり、匠くんが座ってる椅子の前にはディスプレイが3枚横並びに配置してあったり、キーボードはぴかぴか光ってたり。
あれか。
俺はそんなガジェットオタクにお買い上げされたデバイスのひとつってことか。……うん。今日も神様をぶん殴るのは難しそうだ。
「マザボどこやったっけ……」
俺を持ったまま、匠くんは椅子ごとぐるぐる回る。マザボ……マザーボードを探しているようだ。つまり俺はコンピュータ部品……? なんかついこないだもゲーミングPCの部品だったけど?
「あったあった」
よっと手を伸ばして取った箱から、大きな基板が出てくる。
「せっかくだしかっこいいやつにするか」
PCケースを持ち上げる匠くん。それ、空だったんかい。お金持ちだな。
俺はいったんその辺に放っておかれて、匠くんは床で作業に集中する。ケースを開け、マザーボードを取り付け、電源とストレージを取り付けてケーブルでつないで、メモリをはめて――ここまで行ったところで、彼の視線が俺に向く。
どうやら出番らしい。
パッケージが開けられる。やわらかい布団(仮)から持ち上げられて、正体がわかる。スポンジだったわ。俺、CPUになってる。下のピンたちを保護するやつだ。
なんかひんやりする軟膏を背中にぬりぬりっとされてから、2辺を指で挟んで、マザーボードの上に載せられる。がこんと金属のハンドルを倒して固定されて、上から何かを被せられた。見えねえ。
「通電チェック……っと」
そういや俺電子部品だったわ。
こないだはただのLEDだったからあんまり信号って感じしなかったけど、CPUだと、流れてくる情報だけでも楽しめそうだ。
……とか、思っていたんだけど。
匠くんが電源ボタンを押した瞬間、俺の意識は途切れ――次に気が付いた時、俺は、パッケージの中に戻っていた。たぶん、匠くんが買ったのとは別の個体だ。
何????
電子部品でそのパターンあるの?
つまり――今日の俺は、「電源が入っていない状態のCPU」に転生したらしいよ。
どういうこっちゃ。




