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41日目 ピアノの真ん中のペダル

 拍手の音で、目が覚めた。


 目を開ける。

 舞台の上。だけど、陰の中だ。


 ずいぶん視点が低い。地面すれすれから、観客席の方を望む。柱というか、黒い脚が、視界の中に見える。一番下には金色のキャスター。

 どう見たってピアノの脚だ。


 脚のさらに向こうから、客席に優雅に礼をした赤いドレスの女性が歩いてくる。俺のすぐ横に置かれていた椅子に座り、俺――のすぐ横に足をかける。客席が見えなくなり、赤いヒールの煌めきとドレスのスカートのふわふわが俺の視界を埋め尽くす。

 何これ、ご褒美? いや踏まれる趣味はないけど。ちょうどいいっちゃちょうどいい。


 そして――俺の"上"から、烈しい旋律が聞こえ始めた。

 ドレスの腰から下しか見えないけれど、お姉さんは前後左右に揺れ、時折俺の横のペダルをヒールの先端が踏む。

 どうやら、今日の俺は、コンサートホールのピアノのペダルになってしまったようだ。

 神様をぶん殴るどころか、人間に踏まれる危険性があるぞ。まったく、妙な役回りだ。


 ◇ ◇ ◇


 演奏は続く。ピアニストの腰から下をこれだけまじまじと見たことなんてないから、面白い。

 音が高くなると左の方に、低くなると右の方にずれていくのがわかるし、小さい音の時は背中が丸まり、盛り上がるタイミングは体全部を使って表現しているのがわかる。


 ペダルが――俺の隣のペダルが踏まれると、音が混ざっているような気がする。確かそんな効果だったよな? 弦の直下にいる俺にはそれがよくわかる。

 よくよく観察してみると、ペダルは3つある。一番客席側にあるのがピアニストががんがん踏んでるやつで、その隣である真ん中にあるのが俺。反対側にもうひとつ。赤いドレスの女性は、右足でペダルを踏んでいることになる。


 ……と。演奏が止まる。一曲終わったのかな?


 さっきまで垂直に踏みしめられていた左足が、こちらに伸びてくる。

 ペダルにかかったところで、右と左の足先が打ち合わされる。俺の真上だ。えっなにどういうこと? 両足で踏まれんの?

 と思いきやそんなことはなく、ふたつの足は右と左のペダルにかかる。演奏が始まる。

 両方のペダルががんがん踏まれる。俺は踏まれない。

 新しい方――客席とは逆側のペダルの効果は、よくわからない。比較的静かな時に踏まれている感じもするけれど、どう変わったのかって聞かれるとちょっと自信がない。

 左右のペダルが、ピアノの旋律に合わせてリズミカルに踏まれる。俺は踏まれない。


 そして、また演奏が止まる。

 右の足先と左の足先が合わさる。


 演奏。踏まれない。


 結局、真ん中のペダル()が踏まれることは、最後までなかった。

 ……それはそれで、俺がどういう効果を持っていたのか、気になるんだけどな。

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