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39日目 東京都

 目が覚めたら、日光に照らされていた。じりじり、熱い。

 この感覚には覚えがある。いつだったか、砂漠になっていたときだ。地面を広く専有した――というかもはや地面になっている俺に、容赦のない日差しが降り注ぐ。


 というわけで、また土地になっているようだ。どういう理屈で土地になっているのかはわからないけど。今日も神様をぶん殴ることはできない、と。


 熱さは砂漠と同じくらいなんだけれど、いくつか違うところがある、気がする。なあに、俺は丸一日サハラ砂漠になってた土地のプロだぞ。体の感覚だけでどこにどんなものが多いかだいたいわか……りはしない。見に行けそうなので後で見て回ろう。

 でも、その前に、ひとつだけ言わせてくれ。


 重い!


 重いんだよ。こないだと比べて明らかに重い。体の右の方に、自分じゃない荷重がかかっているのを感じる。ずしって感じ。昼寝してる時、買い物から帰ってきた母親に2Lのミネラルウォーター6本が入った箱を腹の上に落とされて起こされたみたいな感覚。


 なにものだお前。……いや、だいたい想像はつくんだけどさ。


 目を開く。

 高架の線路。ガラス張りの建物。「大盛堂書店」の看板。スカートの中……は見なかったことにして。

 俺はこの場所を知っている。来た覚えがある。


 渋谷の、スクランブル交差点だ。

 俺の体を苛むこの重さは――どうやら、東京のビル群の重さらしい。高層ビルって重いんだね。


 ◇ ◇ ◇


 東京であることがわかれば、様々な違和感にも説明がつく。


 熱いのは、当然コンクリートジャングルのせい。夏場のアスファルトめちゃくちゃ熱くなるし。

 一部だけが重いのは、当然、23区内に高い建物が密集しているからだろうし。

 なんか、皮膚というか表面がちょこまかかゆいなーって思ってるんだけど、これはおそらく地下鉄だろう。人の中を掘りやがって。


 あと、なんか、意識の端の方に、物理的につながってはないけれど、なんとなく概念的にはつながってる、俺の一部があるんだけど、これは――答え合わせがてら見に行けばいいか。

 視点をぐいっと動かす。


 <ようこそ! 世界遺産の島・小笠原へ>


 ちょうど船が入港するところだった。なるほどね。


 まだ南に行けそうなので、えいやっとしてみる。


 海からちょっとだけ顔を出した俺の周りを、コンクリートがぐるっと囲んでいる。

 過保護か?

 前に見た時、過保護だなあって思ったけどこの視点になると余計そう思うぞ? 過保護か??

 はい。日本最南端・沖ノ鳥島です。こんにちは。


 じゃあ北はどうなんだ。今度は飛び地じゃなさそう。普通に山の中だ。

 さすがに山のシルエットを見ただけで場所がわかるような特殊能力は持ち合わせていない。うーん?


 まあでも、渋谷に出て、小笠原までが俺で、山もあって、でも北海道とか沖縄に行けるわけではないし、都市部だけで絞って視点を動かしてみても、多摩川とか荒川から先には行けない。

 そうやって考えると――共通項は、これくらいしかないだろう。

 今日の俺は、おそらく、「東京都」になっている。ビルがたくさん生えていて重い、東京都に。


 せっかく都会に出られたんだ。今日くらいは、人間らしい文化でも浴びておこうじゃないか。

 俺はこの後、街角の巨大ビジョンを眺めて一日を過ごした。

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