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36日目 さけるチーズ

 目が覚めたら、閉じ込められていた。

 ぴったりと、自分の前後に膜が張り付いていて――この感覚、前にも味わったな。あれだ。ホッカイロのときと一緒。同じように、パックの中の何かに転生したのだろう。


 体の感覚に集中する。細長い。棒状な感じがする。頭側と足側がはっきりとわかる。……ま、動けないからわかったところで何の意味もないんだけれど。棒状の何かが、ぴったりとしたパックの中に閉じ込められている。うーん、わからん。カニカマとか? ちくわ?


 そういえば、体に感じる温度は少しひんやりしている。ひんやりっていうけれど、人間だったら寒い寒いって叫んでこたつに潜り込んでるくらいには涼しい。今日の俺にはこれが適温みたいで、むしろ心地いいくらいである。

 ただ、周りの様子は暗くてよくわからない。

 俺が平面に横たえて置かれていること、ぎちぎちに詰まっているというよりはむしろ空間が広がっていること、カニカマじゃないかと疑っていることとかを考えると、冷蔵庫の中と考えるのが一番妥当か。


 そうやって考えているうちに、ぱっとあたりが明るくなった。

 ビール、ビール、ビール、コンビニスイーツ、ペットボトル、ペットボトル。食生活が壊滅したひとり暮らしの冷蔵庫の中身がぐわっと目に入ってくる。冷蔵庫の中で正解だったようだ。こちらを覗き込んだ男が手を伸ばし、俺を回収していく。ビールと一緒に。


 壁にはポスターが貼られ、布団が敷かれた床には小物が散乱。ギターが立てかけてある。電気はあんまり明るくない。「都会・男・ひとり暮らし」の部屋って感じ。


 数歩歩いてローテーブルに俺を置いた男は、包装をべりっと剥いて俺を取り出す。

 え? カニカマそのまま食べるの? いやカニカマじゃないかもしれないけれど。じゃあなんだよって話だよな。


「はあ……」


 ため息をひとつついて、男は俺を裂いた(さいた)

 え?(お?)


「なあ、さけチーよ」


 裂いた方の破片を食べ(まって食べられるくち)てから、男はぷしゅっとビールに手を伸ばす。いい声をしている。ギターもあるし、音楽でもやってるんだろうか。


「バンドだけじゃ食えない。それはわかってる」


 また裂かれる(思考が分裂)


「もう6月だ。就活だってそろそろ間に合わなくなる」


 たいへんだなあ(口に吸い込まれる)


「俺は、俺は……」


 裂かれるたびに、ふわふわしていく(たいへんだなー)

 お兄さんにも(さいたら)悩みがあるんだね(たべてほしいな)


「さけチーよ、裂くのは楽しいなあ」


 ◇ ◇ ◇


 まって。こっわ。

 今日の俺はどうやらさけるチーズらしい。神をぶん殴るどころか、人に一方的に食べられてしまう。


 ひとり暮らしの男の晩酌のつまみとして、裂かれて、裂かれて、そのたびに意識が分裂した。食べられた方の意識は消えた。

 こわかったのはここだ。意識が裂けるたびに、どんどん思考力が低下していったのだ。

 まるで、俺そのものが、麻酔を打たれて、知らないうちに引き裂かれているように――


 最後は、たぶん、裂かれて、両方食べられたんだと思う。

 歯が当たって俺がちぎれた瞬間に、意識がしゃんとして、パックの中に戻ってきた。違うさけるチーズに乗り替わったのだろう。


 さて。

 次はどんな人に、食べられるのかな? 

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