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33日目 ウィルソンの霧箱

 目が覚めたら、学生たちに囲まれていた。


「それじゃあ説明していくから、ちゃんと聞いてね」


 黒板の側に立った白衣姿の教師が、学生をぐるっと見回してから言う。


「今日の実験は、放射線を観察します。皆さんにはそのための装置を作るところからやってもらいます」


 ほう。放射線の観察。


「この箱の中には――」


 そう言って()を揺らす先生。

 なんとなく察してはいたけれど、今日の俺は理科の実験道具らしい。神様を殴るのは難しそう。

 というか今日も動けないし。どうにかしてくれ。もうちょっと生物の割合増やしてほしい。まあ、思っても無駄なんだけど。


「――アルコールとドライアイスが入れてあります。アルコールの蒸気が冷やされて、霧ができているので、この装置を『霧箱』と言うのですが――あ、山西くん、電気消してくれる?」


「はーい」


 スイッチのそばにいた学生が歩いていき、部屋の電気をぱちんと落とす。気の利く学生によってカーテンも閉じられる。すぐに部屋の中が暗くなる。

 俺を囲む学生たちは身を乗り出したり背伸びしたりして、俺の中をぐぐっと覗き込む。


「あっこれ! 見えた? 見えましたね。今すっと光ったでしょ。これが放射線の飛んだ跡。この光り方は、空気中のラドンから出た放射線でしょう。あっこれも」


 何やら解説をしているけれど、俺からは見えない。自分の体だからな、普通見えないよ。

 そして、感じることもできない。だってなあ、放射線だしなあ。見える眼とかを持ってたら眩しさとかを覚えることもあるのかもしれないけれど、今の俺はただの箱だ。実験室の机の上に乗っているだけの箱だ。


「今日、皆さんには2種類の観察をしてもらいます。ひとつは線源を入れた状態、もうひとつは線源を入れていない状態。今回使う線源は健康に影響のないレベルのものだけど、何も入れないときと比べて光り方や本数がどう変わるかを調べてみてください」


 そういう実験なんだ。俺が人間だった頃にはやったことないなあ。


「では各班道具を持っていって……いったん電気は点けましょう。全班組み立て終わったら観察に移りましょう」


 ……これ、もしかして俺、暇なだけでは?


「質問のある人はいますか? 大丈夫? それじゃあ始めてください」


 教卓の上に置かれた、説明用の霧箱()

 学生たちに観察されることもなければ、観察することもない。退屈だった。

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