32日目 TwitterのFleet
目が覚めたら、電子の存在になっていた。
スマートフォンの中で、"俺"という概念が、画面の向こうの人間に向かって文字を表示しているのが分かる。
「いまだけ伝えたいことは?」
画面の向こうでスマホを操作する人間――メガネをかけた男だ――は、"俺"に画像を追加する。これあれか。フリートってやつか。Twitterで最近できるようになったやつ。
追加されたのは、飯の画像だ。具体的にはラーメン。それも二郎系。野菜がてんこもりになった、ギトギトの椀の画像である。
深夜にSNSで見るのもつらい写真を、こうやって何日も何も食べていない状況で見せられるのは――相当、つらい。飯テロって次元じゃない。飯世界大戦だよこれ。
もう「腹が減った」という概念は遠くなったけれど、それでも「味のするものを食べたい」という欲はまだ俺の中に残っている。油ギトギト化調マシマシのラーメンもいいし、出汁を丁寧に取った味噌汁でもいい。おいしいものがたべたい。
……ま、こうやってスマホの中にいる限り、その夢は叶わないんだけど。ついでに、俺をこんな目に遭わせている神様をぶん殴るのも叶わない。
俺が存在しない腹を鳴らしているうちに、男は「スタバなうwwwww」と書き込んだ文字を大きくして斜めに配置し、投稿ボタンを押す。
次の瞬間、俺はサーバーに送られ――そして、偏在した。
本体はサーバーにいるままなのだけれど、色んなところからリクエストが飛んできて、そのたびにそっちにコピーが送信されているのが分かる。
全部俺だ。
クライアントの端末で表示されているのも、いないのも、全部俺だ。俺が偏在している。端末で表示されると俺を見てる奴の顔がこっちからも見えるから、ちょっと楽しい。
電子生命体すげえな。ここまで自分のことが把握できるんだな。
思考がひとつにまとまってるのは救いだ。シュレディンガーの時みたいにふたつに分かれるだけだったら大丈夫だけれど、これだけたくさんの俺がそれぞれ個別に考え出したらヤバい。今日一日をバグった状態で過ごすことになる。よかった。
フリートって確か24時間で自動的に消えたはずだけれど、サーバーには残るのかな?
あ、でもそもそも俺が明日には別の何かに転生するのか。だったら関係ないな。
さっきのメガネの男のフォロワーたちの顔を見ながら、のんびり過ごすことにする。




