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31日目 喫茶店の角砂糖

「人生、飽きてませんか?」


 飽きたかもしれないし、飽きる日はやってこないかもしれない。

 ……そりゃ、毎日生まれ変わってればね。1日の中じゃあ飽きることもあるけれど、長い目で見たら飽きないよ。


「もっと自由に人生を送りたいって思うことはありませんか?」


 それはある。動き回れたら嬉しいし、温かいご飯が食べられる体ならもっと嬉しいし、なんなら転生先を選べたらとっても嬉しい。……ま、今日はどれもできなそうだけど。


「上司の言いなりにただ仕事をこなすだけの生活で、本当にいいんですか?」


 今の俺には上司はいないけどな。でも、神のミスの尻拭いというか後始末をしている身としては、一発くらいぶん殴ってやりたいよ。毎日言ってるけど。


「こんな人生から抜け出すチャンスです。今始めないと、何も変わりませんよ。安藤さん!」


 抜け出せるもんなら俺を引っ張り上げてくれ。


 ……はあ。目を開く。だいたい予想通りの光景が、そこには広がっていた。

 ガラス1枚を隔てた向こうには、コーヒーカップが2つ、水の入ったコップが2つ、おしぼりも2つ。喫茶店の二人掛けのテーブル席に、男女が向かい合って座っているのが見える。このサイズ感だと、今日の俺はだいぶちっちゃいな。

 デートとかお見合いとかそういうのではない。スーツでばっちり決めつつ、大きい胸をなんとなく男性の方に見せつけるような姿勢の女性が、さっきからずっと意識高いセリフを言っていたようだ。


「うーん……」


 これは男性の声。優しそうな顔の眉を更に下げて、困った風だ。


「佐橋さんの言ってることは分かるんですけど」


「ですけど?」


「やっぱり僕には、どうしても夢物語に聞こえちゃうなあ。こんな話」


 そうだそうだ。こんな切り出し方、絶対マルチだ。断った方がいいよ。


「夢じゃないんだって、どうすれば信じてくれますか?」


 食い下がる佐橋さん。どこからその熱量が湧いてくるんだか。


「自由自在に転生できて(・・・・・)、自由に戻ってこれる方法、知りたくないですか?」


 ……え? ここ現代日本だよね?

 自由自在に転生できるって言った? はい? で? 戻ってこれる? え?


「そりゃあ、僕はただの社会の歯車だし、それがどんな立場の人間にも自由になれるようになるって言われたら期待しちゃいますけど」


「しちゃいますよね!」


「証拠がないと、100万円なんて出せません」


「そうですか……うーん……」


 申し訳なさそうにした男性が、俺の入った瓶を引き寄せる。視点がちょっと変わる。

 そのまま下を向いたままの彼は、蓋を開け、俺を(・・)トングで挟んだ。角砂糖じゃん俺。


「じゃあ、こういうのはどうでしょう――」


 ……えっ! ちょっ! まっ!

 今いいところじゃん! 転生の! 民主化の話!

 それが実際起こってるんだって証明しようとしてるところでしょ! ねえ!


 あと1分! あと1分でいいから! 待って! 話聞かせ――


 紅茶に、ちゃぽんと沈められた。

 彼らの声が遠くなる。


「よう、佐橋。オレだよオレ。覚えてるか?」


 ――最後に美人なおっぱい大きい女性が変なことを言っていた気もするけど、それを認識する前に俺の意識は消えていった。

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