28日目 梵天(耳かきのふさふさ)
目が覚めたら、家の中にいた。
当たり前のような記述だけれど、俺の中では当たり前じゃない。前にそうだったのはコショウだった時くらいじゃないか? あの時は痛かったなあ。
だいぶ小さくなっているらしい。すぐ隣には、ボールペンだのシャーペンだの赤ペンだの定規だのがだいぶ大きく見える。どうやら俺は鉛筆立て的なところの真ん中らへんにいるらしい。
ペン? にしては体の感覚がおかしい。長細くないんだよな。どちらかというと、細長い棒にくくりつけられてるというかぶっ刺されてるというか、そんな感じの印象。
もう少し周りをよく見ると、薄暗い中で、テレビだのテーブルだの椅子だのシーリングライトだの電子レンジだのという一通りの家具と、その周りの郵便物だったりが目に留まる。生活感、というやつだ。
何人暮らしの家だろうか。ひとり暮らしにしては物が多いし広いな、なんて考えていると、すぐに答え合わせの時間がやってきた。
「たっだいま~♪」
「ただいま」
ドアが開く音がして、女性と男性の声がする。けっ! カップルかよ! あるいは新婚か?
「ふぃー、疲れたねえ」
「たくさん歩いたからな」
俺がいる部屋の電気をつけ、荷物を置くやいなやソファに腹ばいになる女性。
疲れたねえなどと言いながら、その表情は明るい。
「ぐへ」
「へへん」
「重い」
「ごめんって」
「ゆるさん」
「ゆるして」
「撫でてくれたらゆるします」
「……はいはい」
帰宅1分でイチャイチャしないでくれないかなあ。こちとら無機物になってるんだぞ。
◇ ◇ ◇
時刻は夜。ふたりきりの愛の巣。
とはいえ、彼らはそこそこ真っ当な生活を送っているようで。ひとしきりいちゃつくと、エコバッグから食材を取り出して料理を始めた。色違いのエプロンを着て、ふたり仲良くキッチンに並んでいる。
けっ! 仲のいいことで!! 俺は自分の正体もわからんっていうのに。
あ、ハンバーグおいしそう。いいなあ……
このまま「カップルの家に刺さってた謎の棒」で終わるのかなあと思っていると、事態が急展開。片付けを終えてソファに座った男を見るや、女性がこちらに視線を向ける。
「水曜日だから、今日は耳かきの日!」
そう言いながら、俺のくっついてる棒を抜き取った。
この瞬間、俺は理解した。今日の俺、耳かきの上についてるふさふさだわ。
神様を殴るのは無理だけど――このカップルのいちゃいちゃの道具になることはできるぜ。
……え? 感想?
耳の穴に収まるのが義務みたいな感じがして、気持ちよかったけどこわかったよ。




