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19日目 伏見稲荷大社の鳥居

 目が覚めたら、山の中にいた。

 動けない。空には雲がいくつか浮かんでいるがきれいに晴れていて、山は紅葉真っ盛り。どうやら秋らしい。

 俺は石畳の敷かれたなだらかな坂道の下を向けて立っており――そして、俺の前には、たくさんの赤い鳥居(・・・・)が見えないくらいずっと向こうまで並んでいる。


 ……うん。

 俺、ここ、知ってる。

 京都の、伏見稲荷大社だ。


 前に(そして後ろも)鳥居が並んでいて、目線が完璧に揃っていて、そして俺が動けない以上、今日は鳥居なんだろな。

 神様……には、ひょっとしてこれまでで一番近いんじゃないか? 念じたら交信できたりしない? ……えいえい。おーい、神様ー! あーでも違うか。伏見稲荷大社って言うくらいだから、ここで祀られてるのはお稲荷様だ。たぶん俺を転生させたあの神じゃない。うん。そうだろう。

 ……だとしたら、今日もあの神に文句を言うのは難しそうだ。


 ◇ ◇ ◇


 伏見稲荷大社というのは、観光地として有名なスポットである。俺が人間だったころには行く機会はなかったけれど、修学旅行の定番・京都の中でも一二を争うほどよく聞く名前であった。鳥居がいっぱいあるから、絵として分かりやすいというのもあるだろう。


 そんなことを考えていると、人間がやってきた。なんとなくの体感だとまだ朝早い時間なんだけど、それでもちらちら、俺の下を人が通っていく。地元の人ってよりは、早朝・空いている時間を狙ってやってきた観光客という感じ。

 ……ま、観光客の割には、俺たち鳥居を見つめる視線が雑なんだけど。なんというか、物珍しいものを見る目ではない。たぶん、ここ、入口からだいぶ奥の方なんだろうと思う。もう鳥居が並んでいることには慣れてきた頃合いなのだろう。うん。


「あ、ここいいんじゃない? ほら、撮ろ撮ろ」


 そんなことを言いながら、手をつないでカップルがやってきた。


「どうぞ」


 どちらも和服でばっちりキメて、京都観光でござい、という感じ。

 男の方は首から長いレンズの一眼レフを提げていて、朝の鳥居と紅葉をカメラに収める気まんまんである。

 女性の方が一歩引く。男性はそれに気付いてため息をつき、諭す。


「あなたも写るんですよ」


「えっ、私は別に」


 女性が後ずさりする。追う男性。

 俺から見て3本下の鳥居のあたりで、そんなことをやっている。


「写るんですよ」


「……私なんか写して、何になるの」


「写真になるよ。ほらこっち向いて」


 かしゃ。この角度だと俺がちょうど一番大きく写ったんじゃないか。

 フラッシュを当てられたのは久しぶりで、ちょっと新鮮。


「ほら、すごくいい感じ」


 すぐに液晶で撮った写真を確認するふたり。


「……朝来てよかったね」


 女性の方が、ぷいっとそっぽを向きながら言う。

 男性はにやにやしてる。よかったね。


「でしょ?」


 写真撮られて照れる人って、かわいいんだな。


 ……ま、俺は照れる照れない関係なく真っ赤ですけどね!


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