12日目 ミルの中の胡椒
目が覚めたら、キッチンにいた。
自分は透明な容器の中に閉じ込められていて、すぐ隣に味塩があって、向こうには流し台とまな板が見えて、だいぶ遠くには冷蔵庫がある。
だいぶ自分が小さくなっているのは気がかりだけれど――とにかく、キッチンにいる。
昨日に引き続いて料理関係のようだ。ただ単に偏っただけか、それとも何らかの縁でも結ばれたか、はたまた神の野郎の気まぐれか。こんなに小さくされちゃったら、殴るどころか文句のひとつも言えやしない。
透明な容器はどうやら円筒状のプラスチックっぽい質感で、下の方にはなんかギザギザした金属の機構がついている。
……うん。あれだ。胡椒を細かくするやつだよ。名前なんだっけ。ミル?
塩の隣にいて、胡椒を細かくするやつの中に入っている。
もう間違いなく胡椒じゃんこれ!
◇ ◇ ◇
俺の持ち主は、30代くらいの男だった。ひとり暮らしっぽい。そのくせしてこんなちゃんとしたキッチンを構えた家に住んでいるあたり、結構収入はありそうだ。
朝食は手早くシリアルに牛乳をかけ、ネルドリップのコーヒーを飲んで去っていくだけだったが、夕方帰ってきたらご機嫌になっていた。
「肉~~~」
俺のすぐそばのカウンターに高そうなステーキ肉を置き、るんるんで去っていく30代男性。
しばらくして、高そうな赤ワインを抱えて戻ってきた。
間違いなく、こいつは、この肉を焼く。
ということは――まず間違いなく、下ごしらえに俺が使われる。
エプロンをつけた男が、皿の上にステーキ肉を取り出す。サシがきれいに入った霜降りだ。めちゃくちゃ高そう。そしてウマそう。まあ俺は食べられないんですけどね!
「もういいかな」
手で肉を軽く触って温度を確かめた彼は、軽く手を洗い、そして俺――の隣の塩を手に取る。
ぱっぱと振って、その次は、俺だ。
側面を手でぐっと握られ、俺の入ったミルが持ち上げられ、素晴らしい霜降り肉の上まで来る。
そして――
痛い痛い痛い血合い痛い!!!いたい!!ちょっと!痛い痛いそれ痛いやめて!!
恐れていたことが起きた。
ミルで削られると、痛い。死ぬほどじゃあないけど。痛いものは痛い。ごりごり削ってるんだもん! 痛い!
あっ、裏面も行くの? ちょっとまって心構えの時間を――痛い痛い痛い!!
もう、刻まれたり挽かれたりするのはこりごりだ。




