表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/39

雪の妖精

 こちらに戻って、りっちゃんとの(わだかま)り(というか誤解)が解けて以降。


 俺たちは毎日のように一緒に通学している。


 引っ越して戻って来た先は諸事情で、転校する前の家──つまり、りっちゃんの家のお隣だった。


 クラスこそ違えど引っ越し前以上に仲良くなった俺たち。


 ただし学校の周りの連中は、そんな俺たちの関係性など当然知るはずもなく……。


 俺がりっちゃんのクラスへ行き、話したり昼食に誘う度に一々ザワついていた。


 ところで、一つ驚いた事がある。昔の知り合いである男友達の【ノブ】が、りっちゃんのクラスメイトになっていたのだ。


 今日も今日とて、昼休みになると昼食に誘いに行く俺。


「りっちゃーん、お昼ご飯食べに行こー。今日は何も持って来てないから学食でになっちゃうけど、いい?」


「ナオくんっ! もちろんどこでもいいよ! そうだ、ナオくんってお弁当持ってこないよね。私で良かったら作ろうか?」


「え、そんな簡単に……いいの? 負担や迷惑にならない?」


「ううん、私が作りたいの。是非作らせてっ!」


 りっちゃんは握りこぶしをグッと握りそう言ってくれる。その会話に騒然となる、りっちゃんのクラスメイトたち。


「雪の妖精のあんな笑顔、初めてみた……」

「あの男、誰だよ……」

「ポッと出のクセに……草薙さんと随分距離が近いじゃないか」


 男連中は何やら殺気立っている。己の殺気すら消せないとは未熟もいい所だ。これもひとえに、りっちゃんの人気さからくる嫉妬だろう。


 この子、小さい時は可愛さが原因でイジメられ、大きくなればアイドルみたく大げさに騒がれるのか。


「うひゃー、草薙さん嬉しそう」

「とうとう六花ちゃんを堕とす男子出現!?」

「ね~! 他の男子に対しては氷壁なのにねっ」


 それに引き換え、女性陣からは好意的なようだった。昔の事もあるし、実際に戻るまで色々と心配していた俺もこれは嬉しい。


 それにしても、転校初日には既に笑顔を見た気がするんだけど……普段はそんなに嬉しそうじゃないのかな?


 しかし、氷壁?


 詳しい意味合いは分からないが、これまた似合わない表現だ。どちらかというとノーガードというか、無防備が過ぎるイメージなんだけど……。


「おい尚哉」


「ノブ?」


 そこで、例の幼馴染みであるノブが話しかけてくる。コイツとは転校初日に再会の挨拶を済ませており、それから普通に友達づきあいをしている。


「何遍も言うが、今や草薙もすっかりアイドルになってるからな。せいぜい刺されないようにしろよ? ……いや、お前は大丈夫だな」


「なに言ってんの? りっちゃんは元々アイドル超えだから。単に、周りが追いついただけのことだよ」


「はあ、お前って昔っからブレないよなあ。だからこそ草薙が懐いてるんだろうけど」


「そうかな。ノブも同じ幼馴染みだし、もっと絡めば?」


「いやお前。俺はほら、お前と出会った時アレだったろ。話くらいはするが、そこまではできねーよ」


 相変わらず律儀というか、生真面目なヤツだ。


「…………」


 そして当の本人は俺のセリフを聞いて赤面していた。かわいい。


「まあ立ってるのも何だし、行こうよ」


「……うん」


 そして、学食まで俺の後ろをチョコチョコと付いてくるのだった。


 隅っこの席が空いていたので、そこを確保。


 りっちゃんは自作の弁当、俺はカレーライスである。


「ねえ、りっちゃん」


「なあに?」


「【雪の妖精】は何となくわかるんだけど……【氷壁】ってなに?」


「うっ……その【雪の妖精】っていうの、褒めてくれてるんだろうけど恥ずかしいよ。【氷壁】は──なんだろう? 私もよくわからないや」


「言ってたのは周りだしね。クラスメイトの誰かに聞いてみるかな。それより、【雪の妖精】ねえ……」


「思わせぶりなタメ方だね、ナオくん。何か思うところがあるの?」


「怒らないで聞いてくれる? 神秘的に見えて捕食シーンがえげつない、北の海に生息する生物を連想しちゃって。まさか、りっちゃんに限って、美貌に物を言わせて男あさりをするハズないし」


「人聞きが悪いにもほどがあるよ!? もしかしてクリオネの事を言ってるんじゃないの? そっちは雪じゃなくて【氷の妖精】だよっ!」


「あ、そっか。【氷壁】と混じっちゃったのかな。ニアピンだったか、こりゃ失敬。まあ単純に、髪色が由来なんだろうね」


「ニアピンって言われると、ちょっと腑に落ちないけど……うん、誰が言い出したかは知らないけど多分そうじゃないかな」


「俺的には妖精って言われても、あんましピンと来ない」


「そうなの? じゃあナオくんの中で、私ってどんな存在なの? クリオネ以外で」


「クリオネは勘違いで連想しただけだから許してよ。うーん……いくつか思い付きはするけど、【純白の天使~あざとさには勝てなかったよ~】。そんな感じ」


 他のイメージはとても口にできない。


「…………ナオくんはいつも私の事を過剰に褒めすぎ。ところでその矛盾してる副題みたいなの要った? でも、アリガトね」


 なんだかんだで、りっちゃんの方も満更ではないようだ。


「いやいや、ひいき目抜きでもそうだと思うよ。現に、相当モテてるんじゃないの? あざといし。例えば告白されたりラブレターもらったり」


「確かにあるけど……全部断ってるよ。ねえ、またあざといって言わなかった?」


「空耳だよ。この学校には、りっちゃんのお眼鏡に適う人はいないのかぁ」


「ちょっと前まではいなかったね」


「そうそう、今では俺というご主人様がいるわけだし」


 唐突にブラックジョークをぶっ込む俺。


「うん! そろそろみんなの前で、ご主人様って呼んでカミングアウトしてもいい?」


 そして躊躇無く、当然のように返事をするりっちゃん。


「今日も幼馴染みジョークが冴えてるね。もちろんダメだよ」


 今回も、とりあえずジョークという事にしたが……この手の冗談のボーダーラインは、未だに分かっていない。


 この子──油断をすると先日や今のように、積極的に俺のモノになりにこようとする。今回はまだ大丈夫そうだ。もう少し調子に乗ってみるか。


「代わりに、そんな健気な奴隷であるりっちゃんにはご褒美だ。ご主人様が頭を撫でてあげよう」


 なんちゃってね。この歳で頭なんか撫でられても、さすがに──


「!! ホント!?」


 めちゃくちゃ食いつきがいいな!!


 俺の中では『もうっナオくんっ! 私も、もう子どもじゃないんだよ!』なんて返ってくると思ったのに。


「いや、うん。そりゃ全然かまわないけど。今はカレーライスの食器もあるし、お昼休みも終わるし。後でもいい?」


「うん! 約束ね!」


 今まで幾度となく、りっちゃんのサラサラ銀髪は触らせてもらってきたけど……女の子でこうも髪を触られるのに抵抗がない子って、珍しいんじゃないだろうか。



 それから、りっちゃんは次の休み時間、我がクラスにやって来て────


『まだなの!?』


 みたいな、期待の視線をソワソワしながら送ってきた。


「さすがに皆の前じゃマズイんじゃない?」


 と(さと)したら、ションボリと哀愁を漂わせ、自分のクラスに帰って行ったのだった。


 俺的には放課後か帰宅後の人の目がないところでと思ってたし、実際に本人にも言ったのだが……目が合う度にキラキラした表情になるので、段々、罪悪感が(つの)ってくる。



 結局、帰宅した後に我が家のリビングで撫でる事にした。


 撫でる最中、本人は『ムフー……』と言いながら恍惚とした表情を浮かべる。大変満足そうだった。それにしても、相変わらずサラッサラでツヤッツヤの素晴らしい髪質だ。


 せっかくなので、しばらく髪をいじって遊ばせてもらう。といっても、別に悪質なイタズラをするというわけではない。


 髪型をストレートから色々変えてみただけだけである。やり方をスマホで検索しつつ……ツインテール、三つ編みからのクラウンハーフアップ。ゴールデンポイントというものが存在するらしいポニーテールやお団子(シニヨン)等々。


 案外なんとかなるようで、けっこう楽しかった。

 しかしこの子、どの髪型をしても似合うな。


 最後はブラッシングをして元の形へと整えてあげる。髪の長さこそ昔よりは伸びているが、こちらは手慣れたものだ。引っ越し前はよくおねだりをされて、やってあげていたし。


 髪型を変え始めたあたりから、りっちゃんはなぜか、


『なんでナオくん、こんなに手慣れてるの? 本当に器用なだけなの? 実は他に奴隷や彼女がいたりしないの?』


 と、しきりに質問してきた。彼女の目からは、まさか俺が頻繁に奴隷を作るような輩に見えてるのだろうか?



 それとは関係ないが、後日クラスメイトに聞いた【氷壁】の意味と理由。


 どうやら、りっちゃんは他の男に対して笑顔こそ浮かべるが──そこに俺に向けてくるような温度はなく、かなりの塩対応をしているらしい。

クリオネの補食シーン……テレビ等でご覧になった事のあるお方も多いかもしれない。逆に「知らない、見たことない」と気になったお方は速やかにブクマを済ませ、動画を検索してみましょう。


クラウンハーフアップ……案外、聞き慣れないかもしれない髪型。断言できないけれども某アニメのヒロインなんかはそうなんじゃないだろうか。気になったお方は速やかにブクマを済ませ、ググってみましょう。


ゴールデンポイント……髪型をセットする際に指す、とある場所。気になったお方は速やかにブクマを済ませ、ググってみましょう。決して説明が面倒になって放棄したわけではないので悪しからず。


次は(ヒロインのせいで)主人公過去最大のピンチ編。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです(≧∇≦)b次回も楽しみです(≧∇≦)b
[一言] バッカルコーン!ですね(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ