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追憶編・彼女がメシウマに至るまで

引っ越し前の過去編。

今回は短い幕間のようなものでしょうか。

 これはまだ尚哉が引っ越す前の話。


 ある日、六花(りっか)尚哉(なおや)に尋ねた。


「ねえねえナオくん」


 出会ってからそれなりの時間が経ち、人見知りで引っ込み思案な少女は、すっかり尚哉と打ち解けていた。


「ん、なに?」


「ナオくんの好みのタイプ、聞いてもいい?」


「俺の好み? ──そうだね、ネックロック系は危ないから今回は除外するとして」


「関節技じゃないよ!! なんでナオくんはすぐ関節技に結びつけちゃうの!?」


「俺の早とちりか。ごめん、それじゃあ具体的に何の好み?」


「えっとね……女の子の……タイプ……」


 モジモジしながら六花は口にする。


「うーん……」


 この時、尚哉の頭脳は高速回転していた。素直に六花と言うと確実に話がこじれる。あと、言えなくはないが、正直ほんの少し恥ずかしい面もある。かと言って、『髪が銀色の女の子』なんて多少オブラートに包んだところで(実際は全く包めてないが)彼女は自分に結びつけないだろう。


 結果────


「そうだね、メシウマな子かな」


 尚哉は日和(ひよ)り、大衆受けするような無難な答えを返していた。


「なるほど、メシウマ……」


「あのね、先に言っておくけど馬は関係ないからね? 飯が美味いって意味だからね?」


 わずかな誤解すら許さない。尚哉は詳細に説明することにより、六花の勘違いや変な思い込みを極限まで減らそうと試みた。


「うん。めしがうまい、ね……」


 しきりに頷きながら握りこぶしをグッと握る六花。その仕草を見て、尚哉の頭の中に一抹の不安がよぎった。



 翌日、公園にて。


「ナオくん」


「ん?」


「実は私、メシウマを体得してきたんだけど……」


「え、一日で!? マジか。スペック高いとは思ってたけど……りっちゃん凄いな」


『自分も少しずつ始めてはいるが、料理は難しい』

 そんな認識の尚哉は素直に感心した。


「え、へへ。そうかな? じゃあ、ハイ、これ」


 無造作にポケットから油性マジックペンを取り出し、尚哉に渡そうとする。


「………………りっちゃん、さすがに俺もマジックペンは食えないよ」


「……? マジックペンは食べ物じゃないよ?」


 そこで気づく尚哉。

(ああ、この子また変なこと考えてるな)


「ちなみに、これを受け取って俺はどうすればいいの?」


「私に落書きしてもらおうと思って」


「どういうこと!?」


「そうすればほら、私って滑稽になるでしょ?」


「滑稽というか可哀想になるね」


「ナオくんはね、その私を指さして笑うの」


「俺、どんな酷いヤツだと思われてんの!?」


「えっ、だってメシウマが好きって」


「どう繋がるか検討がつかないけど……昨日言った通り、飯が美味いってことだよ」


「うん、そうだよ? 私もちゃんと【めしうま】について調べたんだよ。そしたら不幸な状況の人を笑うことだって」


「ご飯関係ある? それ」


「うん。『他人の不幸で飯が美味い』って。あ、ナオくんが言ってるのはこれだなって思って」


「間違いなくそれじゃないね。かすりもしてないね。普通に料理が上手に作れる子って意味なんだけど……」


 と、そこで公園に同級生が入ってくる。彼は初日に六花をイジメていたリーダー格。尚哉の取りなし(肉体言語による矯正)で、今となっては普通に友達の間柄になり、性格も丸くなった。ついでに時間の経過から精神年齢も上がっている。彼は、信幸(のぶゆき)という名前なので、尚哉からはノブと呼ばれていた。


「おん? 尚哉に草薙か。マジックペンなんて持って何やってんの?」


「ノブ、ちょうどいいところに。ちょっと聞きたい事があるんだけど」


「聞きたい事か?」


「難しい事じゃないから。『メシウマな女の子』って聞いて何を想像する?」


「なんだそれ。著名人なんかを連想していくゲームか? でも俺、料理の上手いアイドルとか知らんしな」


「だよね!? メシウマは料理上手だよね!? 仮に、仮にの話なんだけど……『不幸な女の子を眺めて飯が美味い』って趣味の男がいたとして……どう思う?」


「ますます意味が分からん。相変わらず変人やってるな。男から見た女の好みって話だよな? ……普通に変態の発想じゃねえの? まぁそんなドSなやつも、世の中にはいるかもな」


 この発言を聞いてマジックペンをポトリと落とす六花。そして。


「うぅ……。変態でごめんねえええぇえええ!!」


 泣きながら走り去っていく六花。


「ああっ! りっちゃん!! ノブッ! 貴様ッ!」


「いやなんで俺が悪人みたいになってんだよ! 今日は何もしてねえだろ! どっちかっつーと追い詰めたのは尚哉じゃねえの!?」


「チッ……今はりっちゃんを追わないといけないから勘弁してやる。ノブ、今度会ったら【ヒールホールド】だからね」


「待てよ!! なんでサブミッションされる流れなんだよ!! 明らかに尚哉が悪いだろ!? ああっ待て、走り去るな! 人の話を聞けぇ!!」


 後には不幸確定な、元いじめっ子リーダーだけが残されるのだった。

 元いじめっ子とはいえ、こいつに対してメシウマする輩は皆無である。

後ほどもう一本投稿しようか迷い中です。


申し忘れてました。

ブクマポイント誤字報告、いずれも大感謝です。

ありがたやありがたや。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とにかく毎秒笑わせてくる腹筋破壊装置みたいな作品ですが、メシマズの表現で「マジックペン」はとりわけ凄いと思いました。地獄みたいな状況がこの単語に凝縮されてます。マジ半端ないです。
[良い点] 面白かったです(≧∇≦)bこれからもドタバタ楽しみです(≧∇≦)b ナオクン地域1かそれ以上の美少女を奴隷にして高校生活無事に過ごせるか気になりますね( *´艸`)
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