最後の追憶・離別の手紙
一連の一件以降、二人は無事、恋人になった。
時おり六花が奴隷として尽くしたがるが、尚哉は常識の許す範囲で許容。
騒がしさは相変わらず。
だが、仲良く幸せにやっている。
ここは六花の部屋。
彼女は過去、尚哉からもらった手紙を眺め、そして改めて想う。
『ああ、あの時ナオくんは信念を曲げたなんて言ってたけれど──彼は昔から何一つ変わってない。ずっと優しいままなんだなぁ』
そんなことをしみじみと。
再会からのことも含め、喜びを噛みしめる。
例え首輪をもらおうが指輪をもらおうが、これからも六花の一番であり続けるものは、この手紙だろう。
もちろんそれは、尚哉と再会したあとに開封し……内容を見た後、感極まって彼の元へ走っていくキッカケにもなった、あの手紙だ。
その経緯を尚哉は未だ知らないが、六花は眠る尚哉の上で感涙していた。
その宝物を箱にしまい──彼女は尚哉と恋人になってから、幾度目かになるデートに出かけたのだった。
箱の中にしまわれた手紙の文字は、とても汚い。
そこには、まるでひどく焦ったかのような殴り書きで、こう書かれていた。
◇
りっちゃんへ
もしかしたら、おやごさんにはまだ内緒にしてるかもしれないと思い、手紙でつたえます。
ひっこしの件はともかく、まだ問題が解決できてなかったことに気づけませんでした。
りっちゃんの信頼を勝ちえなかったこと、最後につらい気持ちから守ってあげられなかったこと。
いろいろとごめんなさい。
でも、安心してください。この手紙にひっこし先の住所と、連絡先を書いておきます。
今度こそ、こまったことがあったら本当にえんりょなく、いつでも連絡してきてください。
オレはどこからでも応えんします。なにかあれば、りっちゃんを助けにきます。
たとえりっちゃんが悪かったとしても、オレだけは味方になります。
こまったことがなくとも、気がむいたら連絡してください。
りっちゃんならいつでも大かんげいです。
八坂尚哉
尚哉はつねに言っている。
『りっちゃんならいつでも大歓迎』
と。




