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雪月花の物語  作者: 冴條玲
第四章 悪夢の夜
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4-4d. 冥魔の誘惑【吐露】

「兄、上……?」


 声もないほど傷つかれ、ゼルダは途惑った。


「……悪い、いやならやめようか。――ゼルダ、……許さないよな?」


 割と手遅れだったけれど、調子が狂う。


「兄上、こんな風にしたら、私を傷つけるとか、憎まれるとか、思わなかったんですか」

「たった今、思ったよ」


 ゼルダは何とも言えない顔をして、寝台に両手を突いた。


「なんだ、その顔とその態度。微妙だな」


 泣きたい。


「どうして、今さらなんですか! 遅いでしょう、兄上ほどの方が!!」


 ゼルダの髪を指で梳きながら、ヴァン・ガーディナは少し悪びれた様子を見せた。


「欲しいと思って、他のことがわからなくなったんだ。魂を侵せば、おまえを壊すかもしれなかったのにな――」


 ゼルダは一つ嘆息して、かぶりを振った。


「……兄上は、壊しはしないでしょう?」

「そう思うか?」

「ええ」


 微笑んだヴァン・ガーディナが、キスの後、ゼルダの襟首をつかんだ。


「ゼルダ、おとなしくしていなさい。壊さないし、傷つけない。ただ、おまえに私を教えたい――」


 身を起こしていたゼルダを捻じ伏せ、魔の真紅で、冥魔の瞳でヴァン・ガーディナが射抜く。


「私なしではいられなくしてやる、侵してやるから、触れられても動くな。下手な抵抗は、おまえの心を壊す、私だけ感じていなさい」

「待っ……」


 制止する暇もなく、冥魔の瞳の侵攻を受け、ゼルダは堪らない苦しさと恐怖に身をよじった。


「――あぁっ! ……ん、んぅっ……!!」



  **――*――**

 

 

「~っ……」


 事後、ヴァン・ガーディナに蹂躙された身を押さえて、ゼルダは寝乱れた衣装を握り締めた。

 兄弟でよかった。兄妹だったら、近親相姦までいったこと間違いない。

 ヴァン・ガーディナが欲したのは、あくまでゼルダの魂で、肉体への陵辱はあまりなかった。衣装さえ、それほど剥がれていない。

 それでも――

 キツい。

 受け容れてしまうと、兄皇子の魔力に侵されていないと、その感触がしなくなるだけで苦しかった。


「ゼルダ?」


 眠りかけたヴァン・ガーディナをつかんだゼルダが何を欲しているか、察した様子で、兄皇子はニヤリと笑った。

 キスと、兄の魔力に魂を甘く侵される感触に、心地好さを覚えて喜んでいる場合では、ないし。

 どうしてくれるのだ。


「兄上、苦しいのは、今夜だけでしょうね!? 一夜限りなら、その、好きになさっても構いませんけど」

「知らないよ。ゼルダ、そうして欲しいなら、抱いて眠ってやろうか?」


 ゼルダは恨みがましく兄皇子を見て、それでも、頷いて甘えた。兄皇子の懐にもぐり込む。


「まだ、されたそうだな?」

「――……」

「私に愛していると告げたら、侵してやるよ」


 兄皇子が軽く、ゼルダを抱き寄せかけた。

 その手の甲に、愛しさを吐露するように、ゼルダはためらいがちに口付けた。


「兄上、愛して…います……」

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