表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪月花の物語  作者: 冴條玲
第四章 悪夢の夜
62/71

4-2d. お妃様は見た【お妃様の絵日記】

「ゼルダ様!」

「あれ、アデリシア? もしかして、心配して来てくれたの?」

「あの、はい、シルフィスも! イチゴ味のかき氷、持ってきたんです。アデリが氷かきました……!」


 ぷっと、ヴァン・ガーディナが失笑した。

 アデリシアにどう見えたとしても、ゼルダのあまりの抜かり具合に、ヴァン・ガーディナはとっても、楽しいのだった。


「わぁ、ありがとう。嬉しいな。ガーディナ兄様、かき氷を食べたら、今夜は帰邸してもよろしいでしょうか? 今夜は、兄上はいつまで? あなたにもあまり、無理をして頂きたくないです」

「わかった。私も帰邸しよう、ナオゥが寂しがるものな」


 ゼルダはがくうとソファに両手を突いた。


「兄上、猫じゃなくて! お妃様を少しは気遣って下さい!」

「どうしてだ? 妃は皇都だ」


 ぶっと、かき氷を吹きそうになったゼルダをよそに、アデリシアは一人、こぶしを握り締めていた。


 ――き、期待通り!――


 何か、目の端を光らせるアデリシア。


「ちょ、皇都って、どういうことですか! 兄上まさか、二年間もお妃様を放っておかれるのですか!?」

「そのつもりだが?」


 ゼルダの背後にピシャンと稲妻が走った。あり得ない。

 一方、アデリシアはいよいよ、そうでしょうとも! と萌えていたり。


「妃は十四歳と十七歳だ。二年くらい、放っておいた方がいいだろうに」


 何言ってますか。手を出さないと言うならともかく、文字通り放っておく馬鹿がどこに。あ、ここに。


「ないです、それはないですよ! 兄上、ご自分がどれほどのご麗容かわからないのですか! お妃様は、絶対に兄上に構われたいはずで――」


 ゼルダの言葉半ばに、ヴァン・ガーディナがゼルダの顎を取って、妖しい微笑を浮かべた。ゼルダはどうかされそうで、たまらず、そろそろと目を逸らした。


「おまえ、そんなに私の容姿を魅力的だと思うなら、憧れのお兄様が、もてあそんでやろうか?」

「うわ、やめ――」


 ゼルダはふと、アデリシアの世にも哀れなものを見る目に気付いた。


「えっと、アデリ? いたたまれないんだけど、その目、何だろう……?」

「ゼルダ様、お兄様が大好きなんですね。いいんですよ、アデリ納得しました」

「えぇ!? 待って、納得しないで!」


 面白そうにクスクス笑って、ゼルダの背後に回ったヴァン・ガーディナが、きゅっとゼルダを抱き締めてきた。


「兄上、何をなさ――」

「ゼルダ、私の気が済むまでおとなしくしていなさい」


 おとなしくって!

 しかも、優しくて心地好くて、妃の前で気になるのに、逆らえない。


「あの、兄上、はなして下さい――」


 ようやく言ったゼルダを、ヴァン・ガーディナがいよいよ優しく抱き締めて、耳元と後頭部にキスを落とした。

 駄目だ、苦しい。毅然として突き放したいのに、甘くて切ない気持ちになって――

 たまらず片手で顔を覆ったゼルダの耳元に囁きを落として、後は妃達とよろしくやりなさいと、兄皇子は部屋を出て行った。


「あの、ゼルダ様?」


 兄皇子が落としていった囁きは、あろうことか死霊術で。

 ゼルダの様子を心配そうに覗き込むシルフィスに、ゼルダは何でもないと、かぶりを振るしかなかった。


 あ、の、ド畜生兄――!!


 夜の記憶を呼び戻されて、ゼルダはどうしようもなく動揺していた。


「もぉ、な、何かなぁ? 今の。アデリシアやシルフィスも、姉兄にあんな風に抱き締められたりする?」


 シルフィスが途惑いがちにかぶりを振る。

 アデリシアの方は、はしゃいだ様子で、にこにこしていた。


「ゼルダ様ったら、もちろん、しませんわ!」


 さっきから気になるんだけど、この、アデリシアの妙なテンションなに。

 

 

  **――*――**



「ねぇ、ゼルダ様。今夜はシルフィスの部屋にお泊りになって下さいね。アデリは体の調子が優れませんの」


 その夜、とてもそうとは思えない、艶々した顔色でアデリシアが言った。

 腑に落ちない様子のゼルダをシルフィスの部屋に送り出すと、アデリシアは嬉々として、羽根ペンと絵の具を取った。


「うふふ、うふふふふ」


 アデリシアの水彩画はサンジェニではちょっとした評判で、絵本の挿絵も描いた。


「お兄様ったら、ゼルダ様への切ない恋心を秘めていらっしゃるのね。ヴァン・ガーディナ様ですものね♡ ていうか、お兄様ったら、あんなに大胆なのに、ゼルダ様は気付かないなんて!」


『アデリのいけない絵日記』


 お妃様はその夜、帰りが遅い日にはまた、必ず様子を見に行きましょうと、懲りずに、乙女心に誓ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ