4-1b. 悪夢の夜【ナイトメア】
そこは美しい庭園。意匠の凝らされた白いアーチには蔦が絡み、小路の脇にはせせらぎが流れている。皇后宮の中庭だった。
その庭園のあずまやには、いつも、世にも美しい人がいて、彼を待っていた。
「あなたが一生懸命ラッピングした果実酒を、アーシャ様は喜んで飲んで下さったわ」
神殿に響いた、人々の悲鳴、怒号。
冷たく、冷たく――
誰より優しかった、誰より美しかったアーシャ皇妃は、冷たくなったきり、二度と動くことはなかった。愛していたはずの皇子達が、その名を泣き叫んで呼び続けても、もう二度と、目を覚ますことはなかった。
お父様はあなたを憎んでいるわと、繰り返し、言い聞かされた。
アーシャ皇妃を殺したあなたを、お父様は許さない。いつか必ず、苦しめ抜いてあなたを殺すわと――
だから、皇太子になって、父皇帝を暗殺するしかないのだと、言い聞かされた。
「母様、いい子にします、母様の望まれるままに、何でもします! だから、やめて下さい。兄様は、兄様とゼルダだけは、殺さないで……!!」
「まぁ、聞き分けがいいのね? ヴァン・ガーディナ、では、陛下があなたを後継者とお認めになるよう、剣でも学問でも他の皇子達を凌駕なさい。それが出来たら、ご褒美をあげましょうね?」
「――はい。でも、ご褒美は欲しくありません。だから、もう、誰も殺さないで――」
震える手で母妃にしがみついたヴァン・ガーディナの頭を優しく撫でて、ゼルシアは約束しましょうねと、冷たく微笑んだ。恐怖に、気が狂いそうだった。
親切にしてくれた庭師の家を、ある冬の日に、訪ねた。
皇都で出会って、仲良くなった友人を、ある春の午後に、訪ねた。
訪ねてはならない、愛してはならない、誰も――
だって、いなくなるから? 愛さなければ、いなくならない? どうして?
『あなたのためよ』
恐怖の記憶しか、わからなくなった。





