3-4a. ルディアの海賊
ライゼールの港はルディア湾という、四季を通じて穏やかな内海の恩恵に与り、領内でも際立った発展を遂げた地域だ。
その一部は海上都市となっていて、その景観の抜きん出た美しさと建築の技術によって、観光名所としても呼び声が高い。
「――そのルディア湾を、近頃、海賊が侵犯しているらしい。住民が恐慌に陥って、溺れる者はワラをもつかむだな、私にまで、陳情を寄越してきた。なんでも、デス・ルディア海賊団と名乗って、やりたい放題らしいが――」
「……? 領主に陳情するのは当然ですよ、それ」
ゼルダは、兄皇子が何を言わんとするのか測りかねて、首を傾げた。
偉大なるカムラ帝国の皇太子候補として、ライゼール領主として、その務めと責務がわからないヴァン・ガーディナではないだろう。
「おまえなら、どうする?」
「えぇと……そうですね、ライゼールの海軍は把握していませんが、まずは、当地に海賊を迎え撃てるほどの海軍があるのか確かめて、あれば、出撃を命じると同時に、それなりの後方支援を行います。なければ、傭兵なり友軍なりを頼んで急場を凌いで、ないままじゃいけないから、それなりの海軍を組織します」
ヴァン・ガーディナが含みのある笑みを見せた。
「まぁ、妥当だろうな、おまえ、その方針で頑張ってみていいぞ」
「私が、一人でですか……」
ああ、また丸投げかと、ゼルダはちょっぴり涙がちょちょ切れた。
兄上様、こんな時くらい、手伝って下さいませんか。侵略から領民を守るのは、どちらかというと兄上様のお仕事なんですが。
「私は少し、思うところがあるから手伝わないよ。それから、おまえの方針、市民の期待には沿っていないから、踏まえておきなさい。なにしろ、こう陳情してきたからな。『闇を統べる皇子様、海賊船のひとつやふたつ、怪しげな呪術で沈めて下さい』」
――ぶっ!
「沈むかぁああ!」
ゼルダはたまらず吹いた。待て、ルディア湾の人々。
死霊術師がそんなに強力だったら、逆に恐怖だろう。死霊術師なんて、海賊側が抱えていたっておかしくないのだから。むしろ、悪役の代名詞じゃないのか。
海賊の掃討ともなると大砲の打ち合い、魔術の打ち合い、死霊として呼び起こすべき死屍も海上では探しようがなく、相手の錯乱を狙うにも距離が遠すぎる。
死霊術師の出る幕など、なきに等しい。
まさに、溺れる者がワラをつかんでいる。
「いずれにしても、視察は必要だろう? 私に構わず、行って来なさい」
ゼルダがガックリしながらも、兄皇子の命令に従おうとした時だった。
別の補佐官が、顔色を変えて飛び込んできた。





