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雪月花の物語  作者: 冴條玲
第三章 死霊術師
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3-3b. 闇色の獣【讒言】

 アーシャ皇妃を殺したのは死霊術師であるアルディナン皇太子です。

 冥王を崇める彼は、神殿と懇意にしていたというだけで、実の母さえ手に掛けた恐ろしい皇太子なのです。

 私は、亡きアーシャ皇妃の遺志を継ぎ、陛下にも皇太子にも知られぬよう、密やかに神殿への援助を行ってきました。

 ですが、それがついに皇太子の知るところとなり、明日にも私は、アーシャ皇妃を殺した罪を着せられて、斬首されてしまうでしょう。

 カムラ皇室はアーシャ皇妃を殺したのは方術師であるとして、あなた方の大切な同胞の首を斬ったでしょう?

 間違いでしたと謝りに来ましたか?

 助けて下さい、アルディナン皇太子が帝位を継げば、神殿は必ずや、滅ぼされてしまうでしょう――



  **――*――**


 

 信仰は古今東西、逆境を突破し得る最大の力だ。

 悪しき支配者が君臨した時、滅びへと続く道を断ち切る力だ。

 けれど、信じるべき者を間違えれば、信仰こそが悪夢となり、国を滅びへと誘う災厄ともなることを、ゼルシアは証してのけたのだ。

 ゼルシアを信じた幾人かの方術師が、その命を懸けてアルディナン皇太子を暗殺し、糾弾を阻止した。

 それを境に、より、黒く塗り込められた悪夢の日々が皇都を覆った。

 


 人を騙す時には、真実と嘘を織り交ぜると効果的だという。

 なるほど、アルディナン皇太子は死霊術師だ。彼が死霊術師になってしまったのは、アーシャ皇妃を亡くした頃だった。彼もまた、母親を愛していたから。

 なるほど、ゼルシアは密やかに神殿への援助を行っていた。神殿に潜伏するヴィスタルゼンへの援助なのだから、公にできるはずもない。しかも、そのヴィスタルゼンが何者かを知る者は、神殿内でも少数で、もちろん、ゼルシアと口裏を合わせていた。

 なるほど、ゼルシアがアーシャ皇妃を殺した咎で断罪されるのも、本当だった。彼女は確かに、罪を犯したのだから。

 カムラ皇室が無実の方術師の首を斬ったのも本当だったし、謝りに来ないのも本当だった。いずれも、ゼルシアがそうさせたからで、アルディナン皇太子はゼルシアを失脚させた後で、神殿への償いはするつもりでいた。

 不幸なリネット家の名誉を回復し、遺児となった兄妹が望めば、養子として迎えることさえ考えていたのだ。



 それでも、神殿が十五年も前に、瀕死の醜い少女を打ち据えたことを忘れていなければ、ゼルシアの讒言(ざんげん)になど、騙されるはずがなかったろうか。

 アルディナン皇太子は勇猛果敢であり、秀でた英知に恵まれ、誰にでも優しかった。神殿の人々にもまた、分け隔てなく、親切だった。

 歴史的に死霊術師であるカムラ皇室に(しいた)げられてきた神殿の人々にとっては、優れて徳の高い死霊術師がいることは、認めがたいことだったろう。そんなつまらない矜持(きょうじ)が、ありのままのアルディナン皇太子を見ようとせず、悪しきゼルシアの讒言(ざんげん)を受け入れる心の隙となってしまったのだ。

 おそらく、瀕死の少女の苦痛と絶望を覚えている神殿だったなら、ゼルシアは滅ぼされても本望だったのに――

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