3-1e. 死霊術師【何か望むなんて】
ゼルダはこくんと頷いた。まだ皇都にいた頃、ゼルシアの皇子なんて悪魔に間違いないと、この兄皇子に『我慢して』仕えていたなんて、嘘のようだった。
でも、嘘ではないのだ。すごく、なかったことにしたい。
ヴァン・ガーディナの指が耳元に伸びて、優しく、ゼルダを慈しんだ。
「ゼルダ、抱きたい。構わないか?」
「え……。えぇえっ!?」
――何、ソレ。
どういう意味でか、兄皇子が「構わないか」なんて聞くものだから、ものすごく悩ましい。
下手に構わないと答えて、変態な意味だったら、どうしてくれるのだ。
真剣に悩むゼルダに、おまえって微笑ましいなと、兄皇子がのたまった。
「ゼルダ、そんなに悩まなくていい。兄弟なのに、私の望みがおかしいな。何も強いはしない、おまえが駄目だと答えても、憎まないし疎まない、ちゃんと守ってやるよ」
――変態な意味かぁあっ!!
「どうした? ゼルダ、いいのか。抱いても?」
ヴァン・ガーディナの指が、答えられないゼルダの首筋をなぞった。
「……っ!」
断るに断れなくて、口元を押さえながら息を詰めるゼルダの様子に、ヴァン・ガーディナが微笑んで手を引いた。
「そんなに、我慢しなくていいと言ったのに。悪かった」
いつも、兄皇子が何もしたがらないことに不満だったから。
「あの、ガーディナ兄様……」
いつか、兄皇子が何かしたいと言ったら絶対に手伝って、「ほら駄目だった、何か望むなんて無駄なことなんだよ」と言ってはばからない兄皇子を、ぎゃふんと言わせてやりたかった。
くそぉう、なのに、兄皇子が珍しく何か望んだと思ったら、よりによってなんという変態! 何か望むのが無駄なんじゃなくて、兄皇子が変態なだけ!! 人として、もっとまともなことを望むという姿勢はどこで失くしてきたぁあ!?
――はっ! そんな、まともなことは望めないから「何か望むなんて無駄なこと」になっちゃったのか。
ゼルダは跪いてヴァン・ガーディナの手の甲に口付けると、少し頬を染めて身を翻した。





