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雪月花の物語  作者: 冴條玲
第三章 死霊術師
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3-1b. 死霊術師【探り】

「それでは、ここは――」


 ヴァン・ガーディナの補佐官とはいっても、護衛官でもあるまいし、ずっと傍にいるようなことはない。そういう日もあるけれど、そんな日の方が珍しかった。

 兄皇子が執務室を出たがらないので、その分まで、普段はゼルダが領主館を仕切ることになっている。仕切ると言っても、まだゼルダにはわからない職務の方が多いので、教えてもらうことばかりなのが現状だ。

 それでも、評価を与える立場のゼルダの目があるとないとでは、大違いだろう。監督がいないと、大多数が真面目にやらなかったり、ズルをするのが世の常である。

 覚えなければならないことは山ほどあって、時間はいつも矢のように過ぎた。

 兄皇子の指導をその分受けられないのが残念だなんて、思いはしない。

 思いはしないってば、ねぇ聞いてる?


「ゼルダ皇子? いかがなさいましたか」


 喉が渇いたなと思って手を止めたゼルダは、飲み物を持ってくるよう言われていたのを思い出した。


「あ、うん。兄上に、そろそろ飲み物をお持ちしないと。ありがとう、わかりやすかった、続きはまた午後にしよう」


 お茶を持っていけるのは、案外、嬉しいかもしれない。今頃、腐れ兄はどうしてるだろう。ちゃんと働いてるかな、サボってたら、私が働いてるのにって、抗議しなければ。


「それは光栄ですが、嬉しそうなご様子ですな。最近は仲睦まじいので?」

「え゛……! ちょっと、そんな風に見えますか!? 仲睦まじくないですから、いつか倒します!!」


 何も、冷やかされたわけではない。皇子達の仲が睦まじいか険悪かは、彼らにとって政治的に重要なので、見逃さないだけだ。ゼルダにどの程度取り入るか、場合によっては邪魔立てに回るか――

 その辺りを判断するための『探り』なのだと、理性ではわかっていても、超絶やめて欲しかった。

 『兄上と私ですか? とても仲睦まじくて、私のお願いなら、兄上は何でも聞いて下さいますよ。私があなたを推薦して、兄上がその言葉に耳を貸さないなんて、あり得ないな』くらい爽やかな笑顔で言ってのければ、ライゼールにおけるゼルダの権威は確立する。その言葉は極めて重要視されるようになり、格段に仕切りやすくなるのだ。


 ――そんなの、だが断る!!


 それなんて、兄皇子その人みたいだ。冗談じゃない。あんな、悪魔の申し子の眷属(けんぞく)でたまるものか。

 実弟かつ、不気味な死霊術師(ネクロマンサー)というだけで、大多数が両皇子を眷属とみなしていることに、幸か不幸か、ゼルダは気付かないのだった。


 居たたまれないゼルダは脱兎のごとく、その場を後にした。

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