3-1a. 死霊術師
翌日。登庁すると、ゼルダはニヤリとした。
早朝の風が爽やかだ。
ヴァン・ガーディナは朝が早い。ゼルダより遅れたことはない。
ゼルダはきちんと挨拶した後、目を輝かせ、腰に手を当てて高笑った。
「はっはー! 兄上のマリは遠いクレスタ、もう可愛がれませんね! 憎たらしい私の相手をするしかありませんよ、ざまをみるがいいです!」
ヴァン・ガーディナが書簡を揃えていた手を止めて、ゼルダを見た。
「へぇ? おまえ、私に構って欲しいんだ?」
席を立ち、ゼルダの利き腕をつかんだヴァン・ガーディナが、逆手でゼルダの顎を取って上向かせた。
「えっ……」
て、何コレ、キスされ――!
きゅっと、つかんだ手に力を込めてゼルダを引き寄せ、ヴァン・ガーディナが妖艶な仕種で迫った。
「ちょ、やめ、わぁあぁあ!」
キスする寸前でゼルダを放して、ヴァン・ガーディナが腹抱えて笑った。
「くっくっ……! おまえ、可愛がると動揺するのな、ああ、笑った。ああ、おかしかった」
「あ、兄上ぇええ!」
「え、なに本気がよかった?」
「うぎゃあぁ!」
恐ろしい! 恐ろしい兄皇子!
なんという貞操の危機!!
戦々恐々とするゼルダの手にどさっと、ヴァン・ガーディナが書簡の束を預けた。
「頑張れ。ヴィンス達が邪魔しに来ている間に滞った」
「え、何言って、兄上は手伝ってくださらな――」
んーっと伸びをして、ヴァン・ガーディナは爽やかに笑った。二通の分厚い書簡を抜き出している。
「あまり麗しくない連中がいるから、港を視察して欲しいとの申し入れがあってね。視察そのものにはおまえを行かせるつもりだ、楽しみにしておいで」
ちょっと待て! 真夏の炎天下の視察きついし!
「ゼルダ、手が空いたら私に冷たい飲み物を持ってきなさい。客に出す茶は、侍女に頼んで構わない」
それおかしくない!? ふつうは、兄上に出す茶も侍女が運ぶものだし!
「何で、あなたに出す茶は私が運ぶんですか」
「私が息抜きにおまえからかって遊ぶためだな」
ゼルダが沈痛に額を押さえるのを見て、ヴァン・ガーディナがくすくす笑った。
「ゼルダ、きちんと出来たら、――ご褒美に、今夜は帰さないよ」
びきっと、ゼルダは固まった後、思い出した。闇曜だ、死霊術の指南を受ける日だ。
気のせいか、フォアローゼス結成を受け、ヴァン・ガーディナの猫が放し飼いになってしまったような。猫のかぶり方がなっていない。
ゼルダは嘆息した後、諦めて、山のような書簡を抱えて兄皇子の執務室を後にした。





