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雪月花の物語  作者: 冴條玲
第二章 フォアローゼス
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◆ マリ皇子、語る ◆  ≪テーマ≫ 組み合わせ

 ぼくたちって、どこまでいっても、意見がばらばらだなーって思うんだけど。

 この組み合わせになったこと、ゼルダ兄様は、父様に拒絶されたって受け止めて、傷ついてたと思う。

 ゼルダ兄様だけじゃなく、重臣たちもそう受け止めてた。

 ザルマーク兄様を暗殺した黒幕はゼルダ兄様である可能性が濃厚で、ガーディナ兄様にその判断が委ねられ、場合によってはゼルダ兄様のお命を絶つ権限が与えられたって。

 ぼく、父様がそう見せようとしたのは、間違いないと思うんだ。


 

 でもね、ガーディナ兄様はそういう風には受け止めていないよ。

 父様がゼルシア様の本性をご存知だって、ガーディナ兄様はご承知だもの。

 ゼルダ兄様を守れって、ガーディナ兄様なら出来るだろうって、無理難題を課されたと思って、それでも、懸命にゼルダ兄様を守ってる。

 父様のご意向もあるけど、それとは別に、ガーディナ兄様はゼルダ兄様のこと、きっと、大切に思ってるんだよね。

 ぼくも、ヴィンスにやたら可愛がられてるから、なんとなくわかるんだ。

 うちの家系、庇護欲が強いよね。庇護対象の意向を無視するところが困りものだけど、憎めないよね。ほんと、泣きたいけどね。

 


 それで、ヴィンスは本人も言った通り、父様はガーディナ兄様を皇太子にするつもりで、ゼルダ兄様を補佐につけたんだっていう自説に自信満々だよ。

 ヴィンスは単純明快な性格だからね。物事をわかりやすく、前向きに捉えようとするの、いいことだと思うよ。だから、ぼくはヴィンスの意見を支持してる。

 でも、ぼくの本当の受け止め方は、必ずしもヴィンスと同じじゃない。

 誰にも言わないよ。言うべきじゃないから、父様も言わないんだと思うの。

 ぼくとヴィンスはね、恵まれてるんだ。母様と、家族を愛してくれる父様がいて、ぼくには優しくて綺麗な二人の姉姫がいて、ヴィンスには可愛い(ヴィンスいわく邪魔くさい)妹姫が一人。

 だから、ガーディナ兄様とゼルダ兄様のことを思うと、ぼくは本音を言うなら、胸が苦しくなるんだ。

 ゼルダ兄様にはもう、母様も兄様もいない。

 アーシャ様の生前、一番、賑やかで優しかったアーシャ様の宮にたった一人取り残されて、どんなに、悲しくて寂しかったのかなって。

 本当は、ゼルダ兄様が十四歳でお妃様を迎えたのとかも、手が早いとか変態だとか、そういう冗談では片付かないことだと思うの。

 ゼルダ兄様は取り戻したかったんだ、アーシャ様の宮を。

 大切なものの何もかも、まだ必要な時期に奪われて、無残に踏みにじられても、もう、誰も助けてくれないなら、自分が頑張って取り戻そうって、思ったんだよね。

 もう、誰も庇護してくれないなら、自分が庇護する側に回って幸せだった居場所を取り戻そうって。

 ぼくはそういうゼルダ兄様が大好きだし、尊敬してる。

 絶対、ぼくなんかよりゼルダ兄様の方が、いい皇帝になると思うよ。ヴィンスがぼくがいいって言うから、断っておくけど。

 ガーディナ兄様にはね、父様も母様もいるけど、いないのと同じなんだ。ううん、いない方がまだ――

 生んで育ててくれた母親を、いない方がいいなんて思うのは、すごく悲しいけど。

 友達や兄弟をあんな風にどんどん殺されたら、ぼくだって、耐えられない。

 ガーディナ兄様がどうして御心を閉ざしたか、ぼくには、よくわかるんだ。

 ぼくでもきっと、ガーディナ兄様みたいに死ぬことばかり考えるようになったと思うよ。

 ヴィンスとゼルダ兄様には、そういうの、全然、わからないんだけどね。

 ヴィンスはそんな母親ぶん殴って家おんでちまえって人だから、ガーディナ兄様がどうしてそうしないのか、わからないんだ。

 ゼルダ兄様なんて、もっと奇跡。

 アーシャ様がそうだったように、ゼルダ兄様はたぶん、ゼルダ兄様だったら、ゼルシア様を変えてしまえるんだ。

 ゼルダ兄様はそれ、特別なことだと思っていないから、ガーディナ兄様がどうしてそうしないのか、そうしたくないからだって、誤解してるんだよね。

 究極の甘え上手っていうか、ゼルダ兄様はお願いすれば何でも叶うと思ってるもの。

 ゼルダ兄様の世界に、我が子の切実な願いを聞かない母親なんて、いないんだ。

 ゼルダ兄様ご自身がお妃様に激甘なの、ゼルダ兄様はふつうのことだと思ってるから。

 


 ぼくは――

 父様は、ガーディナ兄様とゼルダ兄様に、生涯、信頼しあえる兄弟を、孤独じゃない、寂しくない居場所を与えようとしたんだと思う。

 父様はどこか、死に憧憬を抱いて生きておいでの方だから、ガーディナ兄様とゼルダ兄様には、そうなって欲しくなかったんだ。死霊術師になんて、きっと、なって欲しくないよ、親は。

 


 でも、ぼくのこの感傷は、ご立派に、懸命に闘ってるガーディナ兄様とゼルダ兄様に対して、よくないものだと思う。

 可哀相だとか、そんなこと、仕舞っておいた方がいいんだ。

 自分ばかり恵まれてる胸の苦しさは、ぼくもいつか立派になって、ガーディナ兄様とゼルダ兄様を支えていくことで、なくしていけばいいよね。

 いつか、マリがいてくれたから寂しくなかった、生まれて来てよかったよって、兄様たちが笑ってくれたら、嬉しいな。

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