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雪月花の物語  作者: 冴條玲
第二章 フォアローゼス
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第25話 支配の刻印【恋と変】

「まぁ、支配印はゼルダを嬲るのにも便利だったし」


 降り積もる雪が、哀しみも、死も覆い隠して行くように――

 浸透しかけた、何も言えなくなる雰囲気を、そっと深呼吸したマリが、明るく優しい笑顔で(はら)った。


「わぁ、ガーディナ兄様、鬼畜だね♪ ほんと、ゼルダ兄様のこと愛してるんだね」


 ヴァン・ガーディナの瞳から、雪の冷たさが掻き消え、優しい感情が戻った。

 うん、と無邪気に頷いて、ヴァン・ガーディナが冥魔の瞳を光らせる。


「……っ……!」


 支配印に魔力を流され、苦痛に喘ぐゼルダを見て、兄弟皇子が口々に言った。


「えぇ!? 苦しむゼルダ兄様、すっごく綺麗じゃない!?」

「いや、まずいだろゼルダそれ。ガーディナじゃなくても嗜虐欲をくすぐられるぞ。そんな妖艶な美貌で苦しむな」

「綺麗でしょう? 何なら、サービスしようかな」

「なっ! ……あうっ!!」


 また、支配印に魔力を流して、ゼルダを苦しめたヴァン・ガーディナが、涼しげに言った。


「するな馬鹿! ゼルダが可哀相だろが!」


 ヴァン・ガーディナのあまりのやり様に、半ば拒絶するように、ゼルダがその手を(いと)って振り切り、席を立った時だった。

 ヴァン・ガーディナが刹那、容赦のない真紅の瞳でゼルダを睨み、途端、ゼルダは絶叫して地に片膝を落とした。ヴァン・ガーディナがゼルダに与えた苦痛が、綺麗だとか言っていられない深刻さだったのは、傍目にも明らかだ。


「ゼルダ、許可なしに私の手を離れることは許さない、おいで」


 血の気を引かせて、クローヴィンスが椅子を蹴立てた。


「ガーディナ、おまえ、ゼルダに与えた支配印を解け! 今すぐだ!」

「なぜ?」

「ガーディナ、おまえはゼルダの心を殺し過ぎる! 絶対服従させていないと気が済まないのか! 今に、ゼルダを絶命させるぞ!」

「ゼルダが、無為に私の意向に背かなければいい」


 カっとして、クローヴィンスが怒鳴った。


「ガーディナ、ふざけるな! 残酷だ、ゼルダがどんな気持ちでおまえに仕えているか、考えたことがあるのか!」

「ヴィンス、いいから」

「ゼルダ!」

「惨めになる! ガーディナ兄様の冥魔の瞳に抗えたら、解いて頂ける約束です。ガーディナ兄様に屈服したまま、憐れみで解呪されたって、屈辱でしかない!」

「ゼルダ、意地張ってる場合か! おまえの命に関わるんだぞ!」


 はぁと苦しい息をして、涙さえ伝わせながら、ゼルダは首を振った。


「私とガーディナ兄様の闘いです、手出しは無用! 死霊術師(ネクロマンサー)として、私がガーディナ兄様に一生敵わないと、ヴィンスはそう言ってるのと同じだ!」


 クローヴィンスがぐっと握り締めたこぶしを、真摯にいたわる眼をして、マリが取った。


「ヴィンス、引きなよ。ほら、心配しなくても、ガーディナ兄様はゼルダ兄様を傷つけてめげてるじゃないか。ゼルダ兄様はちゃんと言えるんだから、大丈夫だよ」

「マリ……?」

「ゼルダ兄様の言う通りだと思う。びっくりしたけど、そのうち、ガーディナ兄様の方がゼルダ兄様に逆らえなくなるかもしれないよ? ゼルダ兄様は御心が強いもの。ゼルダ兄様はガーディナ兄様に追いつきたいんだ、真っ向から競ってるのに、手出ししちゃ駄目だよ」

「はあ? ゼルダがガーディナと競ってどうするんだよ、帝位でも奪うわけか?」

「そうじゃなくて! もう、ヴィンスはほんっと、考えが大雑把だよ! ゼルダ兄様とガーディナ兄様はね、ヴィンスには理解できない次元で愛し合ってるの!」


 途端、全員がむせた。


「なっ……!」

「マリ、ちょっと待て!」

「あれ? ぼく、何か変だった??」

「変すぎだろ!」

「恋と変は半分しか違わないよ♪」

「そうじゃねぇええ!」


 マリの一言一言に、ゼルダに至っては異様に強烈なダメージを喰らわされて、もはや虫の息、瀕死でぴくぴくしていた。


「いや、マリは筋がいい、ヴィンス兄様より的を射てるな」

「そうだよね!」

「私はともかく、ゼルダは私を愛してるからね」

「なんっだ、そりゃあぁああ!」

「うっわ、ガーディナ兄様、鬼畜ーっ! 酷ーっ!」

「愛してな――っ!」

「否定したら、私への愛をおまえが告白するまで、苦痛を与えるよ? ゼルダ、お黙りよ」


 無駄に妖艶に、ヴァン・ガーディナがのたまった。凄絶に麗しい風貌が際立つ。


「すごいね、ガーディナ兄様も負けてないね!」

「だからマリ、何の話なんだ。俺にはどこら辺に愛があるのか、サッパリわからん。あるのは鬼畜な強要だけだろが」

「だからぁ! 愛がなかったら、ゼルダ兄様はそゆこと許さないの!」


 

 ――皇子様たちがわかり合う日は、遥か彼方に遠いのだった。

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