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雪月花の物語  作者: 冴條玲
第二章 フォアローゼス
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第24話 支配の刻印

「ところでな、ゼルダ。見ていて気が付いたんだが、おまえには重大な欠陥がある」

「――なに?」


 クローヴィンスが真剣な様子で切り出したので、ゼルダはそんな重大な欠陥があるなら、そのせいでヴァン・ガーディナに敵わないのかな、などと思いながら、兄皇子の言葉を待って、神妙に耳を傾けた。


「ゼルダ、おまえにはな! ノリ突っ込みが足りないんだぜ!!」

「~…」


 ――何この、まじめに聴いてすごく損した気持ち。


「馬鹿ヴィンス、真顔で何言ってんの!」


 とぅ! とマリが果敢にも小柄な身で回し蹴りを放った。おとなしい子かと思いきや、護身術の心得はあるのか、若年ゆえの身の軽さに、速さと技術でものを言わせた見事な蹴りだ。

 とはいえ、クローヴィンスこそ元帥になりたいと豪語するだけのことはあって、マリの蹴りなど軽く受けつつ、沈痛にこめかみを押さえた。


「マリ、おまえな、突っ込みが激しいっつーの!!」

「えぇ~!? 僕、張り切って、ゼルダ兄様にお手本見せてあげたのにぃ!」


 どうしても、兄弟として仲の良い二人が(うらや)ましいゼルダは、アルディナンを失った寂しさを隠して微笑んだ。


「ヴィンス、面倒見いいんだね」

「まぁな。おまえはどうなんだ、ガーディナの指導、不満か?」


 ゼルダは唇を噛み、かぶりを振った。


「――不満じゃ、ない」


 どうして、ゼルシアの皇子がヴァン・ガーディナなのだろう。

 惹かれても、素直な気持ちでは慕えない。

 クローヴィンスがにやりとして言った。


「ガーディナ、やるな。おまえに仕えるよう言われた時、父上に噛み付きそうだったゼルダが素直になったじゃないか」

「それは、やっ――!」


 腕にゼルダを捕らえて黙らせたヴァン・ガーディナが、その指で(もてあそ)ぶようにゼルダの首筋をなぞって、微笑んだ。


「可愛がっています」

「まぁ、なんだ。兄弟として、可愛がり方は間違ってくれるなよな、頼むぜ?」

「どうしようかな」

「兄の意見を尊重しろ! 目のやり場に困るだろうが!」

「――だって。ゼルダ、兄上の前では控えようか。あまり、寂しがらないように」


 ヴァン・ガーディナがゼルダを離しながら言った。


「もぉ、誤解を招く表現をなさらないでください!」


 しかも、何だかちょっと寂しかったのは間違いだし!

 兄皇子に弄ばれて、乱れたゼルダの襟元から、忌まわしい刻印が(のぞ)いたのはその時だった。


「待て! それは、支配印か――!?」


 クローヴィンスが顔色を変えた。


「ガーディナ、皇族への施術は厳罰だ、極刑もあると知らないのか!」

「バレたね。仕方ないな、ゼルダ、そろそろ庇護印はずす?」

「え……?」


 ヴァン・ガーディナは落ち着いた様子で、優麗な笑みさえ浮かべて、クローヴィンスに向き直った。


「ゼルダは、真意を隠してのあくどい駆け引きが出来ないし、不手際も目立ちます。致命的なミスを犯したら、私がかぶってやろうかと思って。でも、独り立ちの頃合かもしれないな」


 ――ちょ、それ、どこまで本気だろう!?

 大嘘つきくさい兄皇子が言うと、何から何まで、口から出任せとも本気ともつかない。


「ガーディナ兄様、ほんと、ゼルダ兄様のこと愛してるんだね♪ ヴィンスなんて、まさか、僕の失敗かぶったりしてくれないよ」


 素直に信じたマリが感嘆して、愛されてるね、よかったねとゼルダに笑いかけた。


 ――えぇえ!?


 幸い、クローヴィンスの方はゼルダと同様で、超うさんくさいと思った模様だ。


「マリ、庇ってやってるだろーが! ガーディナとは方法が違うんだ、ガーディナみたいな意味不明なやり方は、軍じゃ殴られるぜ」

「――兄上のようなやり方では、宮廷では暗殺されますね」


 ヴァン・ガーディナときたら、優しい笑顔のままで、もの凄く、さらりと言ってのけた。


「私は、アルディナン兄様を抜きん出て優れた皇太子だったと記憶しています。私より遥かに。その兄上でさえ、誠実なやり方では生き残れなかった。真意は隠さなければ、私もいずれ、皇后陛下の毒牙にかかるでしょう」


 ――ぶはっ!?


「アホ、かかるかァ! おまえな、皇后陛下のって、ゼルシア様はおまえを皇太子にしたくてやってんだろが!」


 凄絶な冷笑を浮かべて、ヴァン・ガーディナがのたまう。


「ヴィンス、貴方は宮廷にいらっしゃらない方がいいな」


 そんなでは、すぐに、亡くなられますよと。


「母上は確かに、私を皇太子にしたいのでしょう。でも、私が子を成せば話は別です。皇太子に据えるのは、私の子でも構わなくなる。あの方は、御意向に背く私に優しい顔をして下さるほど、寛容ではないな」


 ヴァン・ガーディナは、微笑んだままだったけれど。

 ゼルダには、その瞳がいつになく、哀しく、寂しく見えた。


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