表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪月花の物語  作者: 冴條玲
第二章 フォアローゼス
24/71

第23話 フォアローゼス【籠絡したのは】

 耳元に触れた、優しい感触。


「んっ……」


 解放されても、ゼルダにはしばらく、兄皇子がしたこと、囁かれた言葉の意味が、どちらもわからなかった。


「ま、待て! ヴァン・ガーディナ、いくらなんでもそれは!! 兄弟として間違ってる、正気に返ろうぜ!?」

「ふふ、ヴィンスとマリが仲の良さを誇示するから、ゼルダが()ねたんでしょう? (なだ)めましたが何か?」

「その刃物はなんだ!」


 ヴァン・ガーディナはひどく甘やかに、艶やかに笑った。さすが、ゼルシアの皇子だと、クローヴィンスもマリも戦慄した。


「ゼルダ、私がゼルダを傷つけないこと、知っているよな。殺されるとは、思わなかっただろう?」

「ガーディナ、馬鹿言うな! ゼルダ、真っ青だったぞ!」


 ヴァン・ガーディナは麗しく笑うと、クローヴィンスに答える代わりに、よどみなくゼルダに問いかけた。


「私に憎まれていたら、悲しいものな? ゼルダ、愛しているよ」


 ゼルダを捕らえたことに気をよくしたのか、ヴァン・ガーディナがゼルダの耳元に二度目のキスを落として、余裕のないゼルダの苦しげな様子を堪能してから、その腕を解いた。


「――っ……」


 ゼルダは頭の芯が痺れたようになって、紅潮した顔を指で覆った。もともとが美貌の少年なので、見ていた皇子二人には、さらに衝撃だった。


「うっわ、ガーディナ兄様、ゼルダ兄様とそういう関係……!?」

「マリ、驚いたの? いつも、ゼルダには目を掛けて、可愛がっているよ。ゼルダも、(ひざまず)いて私に忠誠を誓えるようになった」

「――っ!」


 また、別種の緊張が走った。

 確かめるべきか、確かめてはならないのか、間違えればゼルダが血に染まる局面で、クローヴィンスが慎重な声音で問い掛けた。


「ヴァン・ガーディナ、もしも、ゼルシア様がゼルダを手に掛けようとしたら――?」


 静かに瞳を翳らせ、ヴァン・ガーディナは優麗で哀切な微笑を浮かべた。


「もう、ずっと、ゼルダを守っています。確かではないけど、私の命を盾にすれば、母上もあまり無理なことはなさらない」


 マリが素直に驚嘆して、目を見張った。


「すごいや、ガーディナ兄様、ゼルダ兄様のこと、本当に愛してるんだね!」


 ヴァン・ガーディナが驚いた表情をして、やがて、想いが零れるような微笑みを見せた。


「愛しているよ。私は、アーシャ様にも憧れていたから」


 クローヴィンスとマリも、ようやく心底ほっとして、手を打ち合って握りこぶしを突き上げた。


「ゼルダ、聞くまでもないだろうが、はっきりさせておこうぜ。本音で答えろ。ヴァン・ガーディナが皇太子に立つことに、異論はないな?」


 ゼルダは幾ばくかの葛藤の後、観念したように、異論のない旨を認めた。少し、恨みがましくヴァン・ガーディナを見る。優しく微笑みかけられると、また頬が紅潮して、なんだか色仕掛けで籠絡されたみたいだ。

 そもそも、ゼルダの方から兄皇子の愛情を求めたことなど、力いっぱい棚上げなのだった。


「さすが、アーシャ様の皇子だな、ヴァン・ガーディナを籠絡するか」

「ヴィンス……?」

「何だその、きょとんとした顔。たった今、俺が確かめてやったろ、どっちがどっちを籠絡したのか」

「――えぇ!? 僕も気付かなかったよ! ていうか、ガーディナ兄様がゼルダ兄様を落としたんでしょ?」

「馬鹿だな、たった今、ガーディナがゼルダに落とされたって、認めたろ。これだからお子様は……」

「ええぇえ!? ガーディナ兄様、ガーディナ兄様が、ゼルダ兄様に落とされたの!?」


 マリのみならず、ゼルダも目を見張った。ヴァン・ガーディナを籠絡した覚えなど、断じてない。


「――ヴィンス、気付かないマリにまで教えるのやめてくれないか」

「ほら」

「わぁ、ほんとだ!」

「ガーディナも、いいことあったんだから、堅いこと言いっこなしだぜ」

「――何があった? ゼルダに耳キスくらい、しようと思えばいつでも出来るよ」

「どあほぅ! おまえ、なんつーことをっ……! そこら辺はおまえ、正気に返ろうぜ!? いくら類稀な美貌でも、ゼルダは弟皇子! ガーディナ、頼むから正気に返って、綺麗な女に惚れるんだ!!」


 腹の底から主張した後、クローヴィンスは言いたくなさそうに嘆息した。


「まぁ、なんだ。いいことってのは、おまえ、片想いじゃなかったって、わかっただろうに?」

「――え?」

「え、じゃねぇ。ゼルダの反応、半端なかっただろ。あげく、おまえが皇帝になって構わないときたんだぞ」

「――あ、そうか」

「おまえ時々、へんなトコ抜けてんのな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ