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雪月花の物語  作者: 冴條玲
第一章 ライゼール領
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第12話 夜会 【夢の王子様は綺麗で優しい】

「ああ、夢みたい……! ゼルダ様、お兄様ったら、すっごく素敵! アデリ、めろめろですっ……!!」

「えぇええ!?」


 ――うわ、ちょっと待って! 今、何て言ったの、私のご正妃様はっ!!?


 ゼルダの斜向かいで、シルフィスさえむせていた。

 そんな、恍惚(こうこつ)としまくった表情で、旦那様に何ということをぉお!!

 ゼルダが夜会に伴うようになってから、アデリシアは花が綻ぶように優しく朗らかになって、周りの雰囲気と気持ちをいつも明るく、楽しいものにしてくれていた。そんなアデリシアが、ゼルダもどんどん好きになっている。

 それでも、もちろん、シルフィスへの気持ちも揺らいではいない。

 天真爛漫なアデリシアの無邪気さと素直さを守っているのは、ゼルダだけでなく、シルフィスでもあるのだ。

 シルフィスの立場では、アデリシアをひがんでもおかしくはない。けれど、シルフィスはありのままのアデリシアを愛せる、本物の天使だった。

 だが、由々しい。万が一にも、ヴァン・ガーディナにアデリシアを取られたら、シャレにならない。この政争負ける。いきなり負ける。完膚なきまでの敗北だ。


「ゼルダ様、シルフィスに優しくしてあげて下さいね。アデリ、シルフィスがこんなに誘われないと思わなくて、びっくりしたんですもの。シルフィスは可愛いのに、ゼルダ様の御手付きだからですよ? ちゃんと、ゼルダ様が可愛がってあげて下さいね」

「あ、うん。――アデリシア、優しいね。そういうことなら、心おきなく任せて!」


 アデリシアは愛らしく笑って、かと思えば、そわそわと落ち着かなげに広間を見た。


「ねぇねぇ、ゼルダ様。今夜はアデリ、お邪魔ですから、お兄様を探してきてもいいですかぁ!?」


 ――ちょっと! アデリ、そっちが本音っぽいからやめてっ!?

 あり得ない、女性に目移りされた経験ないのに、よりによってあの鬼畜兄とか! アデリの目腐ってる!!


「アデリ、騙されないで! あの人、夢の皇子様には程遠いよ!」

「そう、なんですか?」


 アデリシア、ややしょんぼり。明るい翠石の瞳が悲しげな(かげ)りを帯びた。

 いやいや、浮気だから。雰囲気出さないで。


「お妃様だって二人はいるはずなのに、一度も夜会に連れて来ないもの。他人に、とても冷たい方だよ」


 シルフィスが何かあわてていると思ったら、冷たい声がかかった。


「悪かったね」


 て、いたー!

 麗しく笑むと、ヴァン・ガーディナは容赦なく、ゼルダに施している支配印に魔力を流した。


「っ……!!」


 ゼルダは漏れそうになる苦痛の声を、必死に噛み殺してささやいた。


『――兄上、やめて下さい、お許し下さい』


 こんな場所で、死んでも苦痛にあえぐ姿など他人に見せられない。

 ヴァン・ガーディナは愉しげに笑むと、ゼルダの喉元に指を絡めた。


『おまえ、私と折り合いが悪いと思われているのを知らないのか。レダスなど夜会に連れ込む真似は、冒険に過ぎると思わないか? 私が庇ってやるのは、今夜だけだぞ』

『――!』


 兄皇子はすぐ、取り入ろうとする特権階級の者達や、妃の座を狙い、魅了しようとする令嬢方に囲まれて、姿が見えなくなった。

 それを兄皇子が知っているのは、何のことはない、ゼルダが断ったからだ。シルフィスを夜会に連れ込めば、一波乱あってもおかしくはない。一応、兄皇子の許可は得ておいたのだ。

 皇子様たちのひそひそ話が気になったらしく、アデリシアが「何かしら、えっちなお話かしら」とシルフィスに話を振っていた。えっちなお話ちがう。


「ゼルダ様、あの、アデリがお兄様を素敵と思ったら、ご不興ですか……?」

「それは、妬けるもの。でも、気持ちはわかるよ、兄上は綺麗で優しい方だし」


 だからといって、まさか、ゼルダがシルフィスを構いやすいように――?

 そんな、まさか。

 同じ兄皇子でも、アルディナンなら、それくらいしてくれそうだった。けれど、それはゼルダに愛情をもってくれていたからだ。

 喉元に絡められたヴァン・ガーディナの指の感触が残って、微笑まれた記憶とあいまって、落ち着かない。どうかして――


「君、目障りなんだよね、たかが第五皇子のくせに。第五皇子なんて、死ぬまで皇帝と皇太子にコキ使われる身分だろう?」


 ふいにかけられた声に、ゼルダは現実に引き戻された。かえって、ほっとした。なんだか、兄皇子の振る舞いに、幻惑されそうになっていたから。


「こんばんは、何か御用ですか?」

「生意気だね、顔、貸してもらえるかな?」


 今夜のゼルダは両手に花だ。しかも、アデリシアもシルフィスも瑞々(みずみず)しく、抜きん出て可愛らしい美少女なのだから、(うらや)むなと言うのが無理だった。狭量な人間には、目障り極まりないだろう。


「中庭まで?」


 場所を言い当てられ、不審げな顔をしたものの、青年は来いよとゼルダを(あご)でしゃくった。

 イルメスという名の、ライゼール元領主の息子だ。


「女性は一緒じゃない方が、お互い、都合がよさそうだね。(しか)るべき方に頼んできましょう」

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