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9話『虹雪アリカ共同戦線』

授業中も緊迫した状態が続いていた。アリカがこっそり振り向いて俺を見ると、虹雪さんがにっこりとアリカを睨む、にっこりと睨むのだ。やだもー虹雪さんってば器用。

 休み時間は休み時間で言葉のジャブの応酬がオラオラ状態、アリカの真っ赤な炎と虹雪さんの真っ黒な炎が混ざり合って大変な事に。


「あ、あのなぁ二人とも、何だってそんなに皮肉っぽい言い回しでずっと喋ってるんだよ、アリカはともかく虹雪さんらしくない」


 耐えられなくなった俺は、昼休みと同時に彼女達に聞いてみた。彼女達はやはり笑顔を崩さずに答えてくる。


「別になんでもないですよ、ただ急にアリカさんと仲良くなっているなーと不思議に思っただけです。少しこの短期間に異性と交友を持ちすぎではないかなと」

「確かにクロコを保健室に運んだ次の日に、あたしと二人っきりで帰るなんてやるわね」

「そんな事まで話したのか」


 共通の敵を見つけた、とでも例えればいいのか。ラウンドを重ねるにつれてアリカと虹雪さんの間に絆っぽいものが見えなくもない。


「デリカシーが無いくせに、よく可愛いとか言うんですよね」

「そうそう、エロに関してオープンを気取ってるくせに、いざっていう時には尻込みしちゃうんだよねー」

「そんな事はない、俺は決してそんな不能とかヘタレじゃないぞ!」

「(ピー)」

「う……、や、やめろよ」


 声が裏返って自分でも驚く程に可愛い声が出た。お、俺萌え? いやないな。


「ほらクロコ、こういう時にさらっと流せない辺りがヘタレなんだよ」


「え、えっとそれはアリカさんがオープンすぎるというか、オープン過ぎて裏返ってるような気がしないでもないですが……私はそのぐらいにヘタレていてくれたほうが安心できるので」


 フォローしてくれる虹雪さんに俺は感動する。そうだよね、最近の流行は草食系男子だよね。


「えー、やっぱり男の子は押して押して押してくるほうがいいでしょー、クロコだってそういうタイプが好きなんじゃないの?」

「私は優しくしてくれるのなら、特に好みとかは無いのですが。でもそこまで思われるというのは嬉しいですね」

「だよねー」


 アリカと虹雪さんは弁当を取り出し始めた、席も近いからガタガタ動かさなくてもいいし、丁度いいのは確かだが、何だかこの二人仲良くなってないか。


「ゆ、優ー、一緒に食べましょう、このままじゃ俺借りてきた猫状態になっちまう」


「え、いいのか、ハーレム状態じゃないか」


 こんな時は優に頼るのが一番だ。優は苦笑しながらもこっちに来てくれるし、面白がった友達も弁当を取り出す。おかげでクラスの注目を下手に集めずに済みそうだ。


「教室の窓際で美少女と昼飯だなんて。オレは夢でも見てるのか! 素晴らしい、残念なのはオレがモブキャラだって事だけどな!」

「そうだよな、どうせボク達の立ち絵ってなさそうだもんな、きっとボイスも入ってない。けどなんだか二次元に来れたみたいで嬉しー!」

「ふぅおおおおお! 拙者は二次元の中に入りてぇでござる!」


 俺の類友が無駄にテンションを上げている。二人とも美少女だからその気持ちも分からなくは無いんだが、うるさい。


「ねーねー徳川ー、この際はっきりさせておきたいんだけどさー。ジオンってずばりオタクなわけぇ? ちっちゃい子に興奮したり、スクール水着に過剰反応しちゃう人種?」


 三国志や戦国時代に関しては右に出るものはいない程の、武将オタ徳川は眼鏡をキラリと光らせて答える。


「アリカさんよ、オタが全員ロリコンだとかスク水が大好きだとか思っちゃいけない。例えば俺なんか最近のアニメとかゲームとかは全く分からない。拙者のジャンルはずばり、武将。漢字の漢とかいてオトコと読む、そんな渋い武将が大好きなのでござるよぉおおお!」

「じゃあスクール水着は嫌いなんだ」

「結構好きでござる! 関羽たんにスク水着せたいでござるよぉおおお!」


 アリカが、滅多に他人に対して引くことのないアリカが引いている。デスヨネー、と言いながら明らかに徳川から遠ざかっている。


「ま、まぁオタにも色々なタイプがいるって事だよ、オレなんかロボット大好きでプラモとかフィギュアとかいっぱい買うけど、立体ものに全く興味無いオタだっているしね」


 熱血ロボオタ、機田はオタらしからぬがっちりした体つきで答える。俺もあんまりフィギュアは欲しいとは思わないなぁ。


「そーだねー、ボクは分類するならゲーオタだな。RPGとかずっとやってる。でも格闘ゲームとか弾幕シューティングとかは全くやらないなー、不器用だからコマンド技が出ないんだ」


 国民に期待される大作ゲームの発売日には、何故か必ず風邪をひいて学校にこない長門は、女子と話すのに慣れていないのか、完全に俺の目を見ながら答える。質問したのはアリカなのにな。

 オタ三人トリオの話はアリカはふんふん、と興味深そうに聞いていた。日本では偏見まみれで見られがちだが、帰国子女のアリカは理解を示そうとしてくれている。

「あ、あの、それではそのような趣味を持ったみなさんが、ひらめきメモリアルとかをやっているわけじゃないんですか?」


 虹雪さんがおずおずと口を開いた。虹雪さんが俺やアリカ以外のクラスメートに声をかけるなんて、大きな進歩だ。


「がはははは。やっぱりそういう目で見られてるのか、それはどっちかってーと朝倉の領域じゃないかな」


 機田は呆れて豪快に笑った、声が大きくて空気が読めないのを除けばいい奴なんだが。


「あれは恋愛シュミュレーション、俺が好きなのはアドヴェンチャーの方だ。仮想恋愛よりも物語を読む感じかな」


 かっこつけて言ったけど、まぁそのなんだ、ゴニョゴニョした部分の話はしないでおこう。


「へぇ、素敵ですね」


 罪悪感が胸を貫く、う、うん。感動するゲームもあれば、ただひたすらゴニョゴニョしてるゲームもあるからなぁ、ごめんね虹雪さん。


「ジオンは現実で女の子に相手されないから、そんなゲームやったりするの?」

「よく言われる事だけどさ、俺は純粋に楽しいからやってるだけだ。そりゃああんまり大きい声で話せる趣味じゃないってのは分かってるけど、俺は自分の大好きな趣味を恥ずかしいなんて思いたくないな」


 これについては虹雪さんの前でも胸を張らないといけない。好きな女の子にも譲れないものがある。例え嫌われたって俺の趣味を認めてもらいたいぞ。


「ああ、オレだって同意見だ。オタだって馬鹿にされようが、オレはずっと熱血ロボットの事が好きだと誓うぜ」


 ボクだって拙者だってー! と類友達の熱いフォローが入る。俺は内心ヒヤヒヤしながら虹雪さんの顔色を伺っていた。


「でしたら朝倉くんが現実の女の子に全く興味がない、といわけではないんですね」


 虹雪さんはホっとしたように胸を撫で下ろす。キモチワルイとかそういう所を気にしていたわけじゃないのか。


「中には三次元なんてクソだ! 二次元には理想が詰まってんだよ、高さなんていらねぇんだよぶっ殺すぞぐるぁああああ! って主張する人もいるけど、俺としてはどっちでもいいかなぁなんて思ってたり」


 虹雪さんと会うまではそう思ってたかもしれない。それにまだちょっとアリカと虹雪さん意外の女の子に対しては抵抗があるし。


「じゃあジオンは二次元と三次元をごっちゃにしない人だなんだよね」

「まぁそういう事になるな」


 アリカは化け猫のように意地悪く表情をにんまりさせると、俺に問いかける。


「じゃあじゃあさ、私がメイド服を着てご主人様、ご奉仕させていただきます。ってしっとりと濡れるような声でいったらジオンは全く反応しないの?」

「うっぐぅあ、は、反応なんてするか!」


 さらにアリカは悪知恵を働かせる、腕を組んで聞いた事もないような艶っぽい声を出す。


「朝倉くんの手が私の浴衣の帯を緩めた。彼の手が容赦なく浴衣をはだけさせるようとする、私はそれをあまり力の入らない腕で止める。そうすると彼は優しく私の耳元で愛してると囁く……それを聞いた私は、体中の全ての力を彼に奪われたような気がして彼に全てを委ねた」


 アリカは官能小説を朗読するように、エロティックな空気を昼食に賑わう教室に蔓延させる。


「や……駄目……全部脱がせないで……」


 消え入るようにアリカは切なげに言葉を吐く、俺も興奮してツッコミを忘れる。

「虹雪さん、どうして? 俺は君の生まれたままの姿が見たいんだ」


 俺の声色を真似る、それは俺よりも数倍イケメンヴォイスだった。


「だって……お母さんに着付けて貰ったから……えっちな事したら、バレちゃいます……」



「ふぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



「拙者は! 拙者は! 日本に生まれて良かった! YUKATAは世界文化遺産でござる!」

「これは、これはアカンでぇええええっ! さっすがアリカさんやでぇ!」


 アリカ、ナイス妄想だ! お前は天才じゃないか、日本人以上に浴衣を分かっている。そうだよ浴衣ってはだけるからいいんじゃないか、うぉおおおおお!


「虹雪さん、是非今年の夏は下着をつけずに浴衣を着てくれないか! 一生のお願いです、俺はもうそれ以上の幸せが見つからないような気がするんだ!」


 虹雪さんはあまりに恥ずかしかったのか、完全に瞳を前髪で隠して小さくなっていた。そしてふるふると少し震えている。アリカはそんな虹雪さんに優しく抱くと、獣を見るような目で俺を呆然と見ていた。


「や、やっぱりオタクの人はいやらしい事しか考えてないです」

「やだ……そこまで興奮するなんて、私怖いよ、ジオンが、遠いよ……」

「アリカが妙にツボに入った妄想を爆発させるからだろ、それにいやらしい事考えてるのは全男子高校生の宿命です!」


 アリカの突然の裏切りに俺はひどく混乱する。横を見ると優はやれやれ、と首を振っていた。

こいつ助ける気ねぇな。


「流石のオレでもそれは引くわ」

「やっぱり朝倉はボクの斜め上を行くなぁ、そこにシビれる憧れない」

「朝倉が事件を起こしたら拙者はインタビューの人に、奴は期待に答えてくれた、と自信満々に答えるでござる」


 人が人を苛める時のチームワークってマジすげぇ。思いっきり泣いても誰も笑わないよね。


 心境の変化だろうか、それからも虹雪さんは優や三人組、特にアリカとは多く会話を交わしていた。クラスのみんなも最初は何事かと思って注目していたが、飽きたのか風景の一部として処理していた。


 波乱の一日が終わり終礼の挨拶を済ませると、アリカと虹雪さんは俺に話しかけてきた。


「ねぇジオン、最近近くにホテルが建ったのは知ってる?」

「確か隣の駅にどでかい高級ホテルが建ったんだっけか、電車から見たことある」


「うん、それ私のパパの」



「へぇーさぞかし掃除が大変だろうな。なぁ虹雪さん、帰りにたこ焼き屋によって行かないか?なんだかブルーベリーたこ焼きとかバグったメニューが」


 アリカは俺に華麗にヘッドロックをかける。キてるキてる! 極まってる!


「もうちょっと驚け、私のセレブ力を舐めないでよね! あのホテルに温水プールがあるからみんなで行かないかーって言ってんの」

「アリカさん、それって所有しているって意味かな?」

「あーうん、日本での第一店舗目だってさ、んで私が久しぶりに泳ぎたいからみんな付き合えって話よ」


 セレブ恐るべし、まぁコンビニでの買いっぷりを見ると予想はできたか。それよりも俺はさっきから背中に当たってるアリカの胸が気になって気になって。


「ぐぶぶもががぶべばばばばばばばおっぱーい!」


 触るのも汚らわしいと判断したのか、アリカが雑に俺を解放する。俺はゲホゲホ咽ながら彼女等に訴える。


「行くに決まってんだろ、ゴールデンウィーク悲しくなるほど何も予定入ってないからな。何なら今からでもいいぞ、下着で泳ごうぜ」

「ジオン、相手の目を見て喋ろうか、具体的には胸を見んなよ」


 あらやだアリカちゃんったら大きくなっちゃってー。


「アリカさん、私は朝倉くんがたまに本当に分からなくなります」

「何を言うかね虹雪さん、俺はいつだって朝倉時音だぜ」

「だったら視線を私に合わせて下さい」


 虹雪さんは胸を鞄でガードする、ガードが固いと崩したくなるのが男ってもんさ。

「予定は空いてるのね、じゃあ問答無用で参加! 明日は準備、明後日に決行でいいわね」

「明日でもいいのに、俺が待ちきれない」


 虹雪さんとの距離を縮められる願っても無いチャンス。アリカも一緒なら妙な罪悪感に襲われる心配もない、もしかして俺ってそれなりに最低な奴だろうか。


「私とクロコは買い物に行ってくるよ、私もクロコも去年の水着じゃサイズがきつくなってさー、あ! 別に太ったわけじゃないんだからね! 胸よ胸よおっぱいよ」

「お前も大概セクハラじゃないか」


 ほうほう、その乳は今だ発展途上国。今後の成長に期待できるというわけですな。

「朝倉くん、茜も誘っていいでしょうか。あの娘も暇なはずですし」

「勿論、多いほうが楽しいもんな。優も誘ってみるか、人数は大丈夫だよな」

「私のパパのホテルなのよ? いくら増えても全く問題無しよあっはっはー」


 色々考えなきゃいけない事もあるけれど、楽しいゴールデンウィークになりそうだ。それにどうやら虹雪さんも少しずつ心を開いてくれているみたいだし。アリカと買い物に行くなんて大きな進歩だ。


「楽しみだな、虹雪さん」

「はい♪」


 落ち武者と呼ばれていた彼女は、瞳を輝かせて笑っていた。


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