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8話『猛追アリカ』

初日、二日目、三日目と不定期なタイミングになって申し訳ないです!

次回更新より、20時に更新タイミングを統一するので、良かったらチェックしてください。

 あれからこっそりクローゼットを出て虹雪家を後にした。虹雪さんは手ぶらの俺を見て不思議そうな顔をしていたけど、何も言わなかった。茜ちゃんの事を気にしているのだろう。


 五月の夜空は寒くも暑くも無く、曇っていて星空も見えなかった。今の俺の心を映し出しているかのようで溜息を倍増させる。

 クローゼットに隠れたて分かった事は、俺は別に虹雪さんに好かれても嫌われてもいなかったという事。そして肝心な所で信頼されていないという事。これは嫌われるよりも辛いかもしれない。


「頭痛が痛い……」


 色々おかしい言葉を呟いてみてもこの胸のもやもやは消せないし消えない。いけない、考え事は夜にしてはいけない、夜の闇に考えも引き込まれてしまう。よく晴れた朝の日に悩めばいいんだ。


 家に直接帰る気分じゃなかった俺は、近くのコンビニに寄る事にした。甘ったるいチョコレートでも食べて脳に栄養でも送らないと。

 らっしゃいあせー、と気の抜けた店員の挨拶を聞きながら蟻のように菓子コーナーへ、するとそこには。


「新商品♪ 春季限定♪ おまけ付き♪」


「げえっ! アリカ!」


 定規で測ったように落ち武者と同じリアクションをする俺。げえって。


「あージオンだーおやすみー」


 アリカ・ランプがコンビニのカゴへと菓子を放り込んでいた。それも尋常じゃない量である。俺ならこれだけあれば半年は持つ。


「おやすみってお前な、それだけ食うと流石にメタボるぞ」

「ディーケー!」

「……だいぶキモい?」

「デリカシー皆無って意味よ、ちなみに今作った」


 夜だというのにハイな奴だ、いや夜だからか。

 アリカは胸の大きく開いた服と、超ミニスカを着ている。正直堪らん。


「胸と尻に視線を感じるんだけど」

「気にするな男子高校生の仕様だ。それにしてもそんなにいっぱい菓子買ってどうすんだよ、パーティでもやってんのか?」

「今宵の生贄」


 俺の半年を一晩で消化するというのか。


「アリカ様は太る体質じゃないみたいよ? アメリカでもバケツ一杯ぐらいご飯食べてたけど栄養は胸に注がれてたみたいだし」


 そうして前屈みに谷間をアピールしてくるアリカ。たわわに実った淫欲の果実がふるんとゆれています。でかい。こうしてアピールされるとどうしてか目を逸らしてしまうチキンな俺です。


「し、しかしそれを一人で食べるなんて存外に寂しい奴だな、友達百人伝説ってのはどうなったんだよ」


 アリカは一瞬だけ、ほんの一瞬だけか悲しそうな表情を見せて、すぐまた笑顔になって買い物かごにお菓子を放り込み始めた。


「うおー!」

「ちょっと待てー! そんなに勝ったらコンビニで一万使っちまうぞ、もったいねぇ」

「うるせー金ならいくらでもあるんじゃー! 私ってばセレブさんちの子供なのよー!」


 気の抜けた店員さんが引きつった顔でこちらを見ていた。会計と補充が面倒くさそうだな、頑張れバイトくん。


「コンビニの会計で五桁使うかよ……」

「うるっさいわねー、あんたのチョコレートも奢ってあげたでしょ」


 アリカは袋の中から板チョコを取り出して、俺に咥えさせる。ちなみにクソ重いビニール袋は俺が持たせられている。ナチュラルに。


「ふがふが、っていうか俺にお前を送っていく以外に選択権はないんですね。まるで餌付けされた馬のようです」

「ボディガードにはなりそうにないからホントに只の馬ね。まぁ喋り相手になるだけ優秀だけど、ほれキリキリ運べ」


 まぁなんだ、俺も一人で考え事をするとどうしても悪い方向に考えてしまうし、こうして馬鹿明るい奴と喋っているほうが気分転換になって良いだろう。


「ありがちで陳腐な質問だけどさ、日本には慣れたか?」

「全然」


 嘘つけ、自己紹介の瞬間から周囲を圧倒していたくせに。


「なんだかみんな他人に対して嘘をついているような気がするんだ」


 アリカは歩道と車道の間の段差に乗る、両手を真っ直ぐに伸ばして、幼い子供が飛行機の真似をするようなポーズを取った。


「だってさー、私が可愛くて英語ペラペラなのは真実じゃない? それについて嘘をつくのはなんの意味もないじゃない」

「日本で平穏に暮らしていくならその考えは改めたほうがいいかな、他人の優秀な所を僻まないで評価できる人間は意外に少ないもんだ」

「だから日本に慣れないんだー」


 アリカはぶーん、と器用に段差の上でスキップする。ま、まぁアリカなら絵になるから許す。


「自分を変えないと受け入れてくれない場所なんて、本当の居場所じゃない。アメリカにいたころは私の事をみんな笑って、バカとかアホだの言い合えてたよ。日本じゃみんな苦笑いで何も私の心に響く言葉なんて言ってくれない」


 俺はそんなアリカを咎める事ができなかった。俺も確かに言いたい事を言わないで、怒りを抑えて、キャラを作って生活しているかもしれない。オタというのも一種の記号かもしれない、同類って事で変な安心感が生まれるから。


「それでも自分を変えて我慢しながら生活するのだって大事な事だ。大人になるって事はそういう事だと思うし、ストレスは溜まるかもしれないけれど誰も傷つかずに済むなら、仮面を被るのは悪い事じゃないだろ」


「一理ある正論だね、けど私には適用されない、適用できない。私は私のままで私の居場所を作りたいんだ。たかが転校程度で揺らいじゃうアリカ様じゃないわけよ」


 俺に振り返ったアリカの緑色の瞳は、発光しているように見えた。そんなわけはない。けれどそれぐらいの強い意志が込められている。

 駄目だ、こいつは何を言っても、どんな正論を浴びせても自分を変えるような柔らかい奴じゃない。


「取り戻したいんだ、私の居場所を私の手で。パパを恨みたくもなるけど、向こうの友達を恋しく思う時もあるけどね」


 アリカはコンビニにいた時一瞬見せた悲しい表情をしていた。なるほど、爆弾娘にも影の部分があったか。


「お前もそんな顔するんだな、ごめん、宇宙人みたいな奴かと思ったけど、アリカって普通の女の子だったんだな」


 アリカは驚いて、再び飛行機を回転させて前を向く。


「ふ、普通の女の子なんかじゃないわよ。美少女で帰国子女でセレブだっての! 私にとって今の言葉は侮辱だわっ」

「そうだな、アリカ様は美少女で帰国子女でセレブでございます」

「こんにゃろ! おちょくってんのか! アリカ様をおちょくってんのかー!」

「あばばばばば」


 アリカは両手で俺の肩を掴み、がっくんがっくんと揺らしにかかる。おおぁ中々力が強くていらっしゃいますねー!


「ふぅおおおお、僕はエムじゃないんでここらへんにしといて下さいぃい」

「いいやアンタはエムだね! 私がエスだから!」


 人の性癖を磁石みたいに例えてんじゃねぇ。俺がちょっと気持ちよくなってくると、アリカは俺の肩を放した。


「……ねぇジオン、ジオンはアリカ・ランプを見てどう思ってる? やっぱりちょっと関り合いになりたくない?」


 そう聞くアリカは自信満々のオーラは出ていない。それは謙虚でも遠慮でもなく、不安そうな様子だった。真剣に答えなくてはいけない。


「変で遠巻きに見ていたほうがいいと思ってた、今まではな。今はアリカの事を頑固で真っ直ぐな可愛い女の子だと思ってる、俺とか、虹雪さんに圧倒的に足りないものを溢れるほど持っているから」


 アリカは珍しく頬を染めると、再び花が開くようににぱっと笑った。


「ジオンはいい奴だね、ちょっとだけ自分の居場所を取り戻したような気がするよ」


 アリカは段差の上から飛び降りると、その勢いで俺の頬に何やら柔らかいものを押し付けた。


「おぅふっ!」


 これは……なんだこれは、なんだこのマシュマロみたいな感覚は、これは二次元にしかないものじゃなかったのか? なんだってキスなんかされてんだ俺はーっ!

「いや、欧米では挨拶みたいなもんだけどね。親愛の証だよ、ありがたく受け取っときな」


 耳元で囁かれる。頬に吐息がかかったりして俺はもうっ……ッ!


「ちなみに日本人では初めての頬チューだよ」


 やめろ、そんな事を言うな、虹雪さん以外の女の子にどきどきしてしまうじゃないか。


「んー、でもジオンにはクロコがいるんだよねぇ。クロコとも仲良くしたいし、これは友情と淫欲の狭間に揺れる私のカラダとココロと言った所か」


 アリカは俺から離れ、冗談っぽく顎に手を触れて思案顔だ。

「インヨクっておい! 何処でそんな……やらしい単語を!」

「そこに突っ込むあたり、ジオンはクロコの事が好きなのは否定しないってことよ、確かにすごく可愛くて、私と対極的な感じだものね」


 アリカの洞察力、というか人を見る力はそれなりにあるみたいだ。そうだよ、アリカと虹雪さんはあまりに違いすぎて、まるで同じ女の子とは思えない。


「ま、からかうのはここまでにしてあげるよ、ちょっと気分が乗っちゃったの。だって嬉しかったんだもん、私の事を真っ直ぐに見てくれて」

「べ、別にそんなつもりじゃない。アリカが真っ直ぐだから俺も真っ直ぐに答えないといけないと思ったんだよ」

「うん、ありがとう」


 ふわり、とアリカは本当に素直な声で言葉を紡いだ。俺はキスの衝撃から立ち直れずに、再度その笑顔に撃ち抜かれた。

 俺には虹雪さんがいるはずなのに、なんで目の前の女の子はこんなに可愛いのだろう。頑固で真っ直ぐで、自分を決して曲げない強い女の子は、虹雪さんとは全然違うのに。


 俺はよく分からない勝手な罪悪感に囚われ、胸が苦しくなった。けれどその苦しみはどこか甘い痛みを伴っていた。

 アリカの真紅の髪は艶やかで美しく、瞳は俺を射抜いて目を逸らせない。整った顔立ちに柔らかそうな唇は先程俺の頬に優しく啄ばんだ。魅力と色気を隠しもしないプロポーションは俺の心をかき乱す。


 意識し始めるとたまらなくなる。美少女は虹雪さんたった一人だと思っていた、なのにアリカはキラキラと俺の前で輝いている。


「んじゃ馬よ、ちゃっちゃと菓子を運ぶのじゃー」


 冗談ぽく笑うアリカに俺は逃げ出す事も出来ず、ただひたすらに胸をかき乱され、心をぐちゃぐちゃにされて頷くしかなかった。


「ただいマリンバ」

「おかえリンパ線。アリカ、またお菓子買ってきて……太るのは心配しないけど虫歯には気をつけてね」

「んにゃー、今夜はちょっとだけにしておくよー、機嫌が良いのよー」

「あら? あらあらあら? うちのアリカちゃんにも春がきたのかしら? どしたの、白馬の王子様にでも撥ねられた?」

「白馬の王子様程煌びやかじゃないけど、優しいボーイフレンドは見つかったかな」

「優しい、ね。珍しいわね、アリカは男らしくてマッチョなタイプが好きかと思ったけど」

「そーだよねー。全くタイプじゃないのに、何だか面白いボーイフレンドだったよ」

「アリカがそんな顔するなんてママ初めて見たわ、いい顔よ、乙女な顔よ!」

「そうかな」




 頬にキスされてからの記憶が曖昧だ、あの唇には強いアルコールでも塗ってあったのだろうか。泥のように家まで歩き、風呂に入り、溶けるように寝た。

 学校に行きたくない、行ったらアリカと虹雪さんの両方に顔を合わせる事になる。俺はどんな顔してどんな会話を交わせばいいんだ。


「朝倉くん、おはようございます」


 精神的二股だ。虹雪さんの事は勿論大好きだが、アリカの事も気になって仕方が無い。もしアリカが寂しそうにしていたら、俺はどうしようもなく心がざわめくだろうし。ああそれよりも虹雪さんに過去何があったかを知りたい。彼女の悲しみも救ってあげたいし。


「朝倉くん、あのう」


 というか俺がそんな事願っていいんだろうか、結局俺は只の赤の他人じゃないのか、虹雪さんには信頼されてないし。


「朝倉くん、えいー」


 もう駄目だ、俺はやっぱり恋愛とかそういう事に縁が無い人生を歩むべきだぷにゅぅうう。


「誰ですぷゅ!」


 俺の頬は誰かの指に突かれていた、あれ、俺確かこんな事を誰かにしなかったっけ。


「どうしたんですか、先程からずっと挨拶しているのですが。あの、もしかして鬱陶しかったでしょうか」


 朝日が照る通学路、ああそういえば俺は登校していたのか、そして頬に伝わるこの感触は虹雪さんの、指?


「うぉおおおお指ちゅぱぁああ!」

「ひぃいいい!」


 俺が思い切り虹雪さんの人差し指に向かってねぶろうとすると、その魅惑の指先はさっと逃げてしまう。いや別に本当に指ちゅぱをしたかったわけではない。

 頬にあたったポイントは、昨日アリカの唇が爆撃したところだったから。照れ臭くて申し訳なくて照れ隠しせずにはいられなかった。


「俺の生まれた地方では頬に指先を当てるとねぶられるんだ! 知らないのか! さぁ、俺にその白魚のような指をねぶらせろ!」

「私もこの地方で生まれました! そんなやらしい伝統なんてありません!」

「もっとねぶねぶする!」

「朝倉くん、あの、本当にどうかしたんでしょうか!」


 虹雪さんあ本当に心配した表情になったので、俺は自重する、俺自重。

「何でもない、ただ手強い新キャラが出てきたんだ」


 そう、名はアリカ・ランプ。ウブな俺の心を翻弄する小悪魔ガールだ。


「ゲームのお話ですね、私はやらないので分かりませんが、朝倉くんはどんなゲームをするんですか?」


 おっぱいがいっぱい乱舞するゲームだよ! と力強く答えたいがそうはいかない。けど健全なゲームなんて最近やってないな、美少女が出ないゲームなんてゲームじゃない、と何か物足りなくなった俺は何かが壊れたのだろうか。


「(エロい)主人公が(巨乳の)ヒロインの為に巨大な敵(多くの場合消えたり忘れたり病気になったりするイベント)と戦うゲームだよ、ケンゼンダヨ」

「面白そうですね、今度貸してください……あぁ家にはゲーム機が無いのでした」

 大丈夫だよ、パソコンでできるから。そして俺は顔を真っ赤にしながらプレイする虹雪さんを視線で犯したいです。ねっとりと。


「残念です、朝倉くんがどんなものに興味があるのかを知るチャンスでしたのに

「あまり知られたくはないな、俺の人間性が疑われてしまう」


 あまり虹雪さんにオタな部分は見られたくない、別に趣味を恥じているわけではないが、あまり大きな声で話せる趣味では無いことは自覚している。


「あの、やっぱり男の人ってお兄ちゃんとか呼ばれたいものなんでしょうか、茜と知り合いなのもまだ納得いかないですし」

「今日はどえらい積極的ですね虹雪さん! チガウヨ! オニイチャンナンテヨバレタクナイデスヨ!」

「朝倉くんはハーフか何かなのでしょうか……」


 俺はどっちかというと妹よりかは姉萌えなのですが、小さいよりかは大きいほうがいいし。

しかし今日はやけに虹雪さんが絡んでくるなぁ。クローゼットの中から聞いた感じでは、あまり俺に対して信頼を寄せていないと思ったのだけど。

]

「虹雪さん、今日はテンション高いね」

「そうでしょうか? 昨日朝倉くんに料理を褒めてもらったからかもしれません」

 朝倉くん朝倉くん、と、虹雪さんは俺の名前を嬉しそうに呟いている。それはとても嬉しかったが、何故か腑に落ちなかった。

 虹雪さんは俺の傍にいたくない、そう言ってなかったっけ。


 教室の扉の前に到着した。そういえば昨日の席替えで虹雪さんが右隣、アリカが前の席になったんだっけ。やべぇ、それって非常に気まずくないか。


「入らないんですか? 遅刻してしまいますよ」


 虹雪さんがガラガラと扉を開けてしまった、いつも通りの視線の集まりは慣れてる。けれど俺は一つだけどうしようもなく気になる視線がある。


「おっはよー! ジオン」


 アリカ、名指しで挨拶しないでくれ。


「クロコもついでにおはよー、二人で仲良く登校とは妬けちゃうねぇ」

「妬いちゃうんですか?」


 虹雪さんが苦笑してアリカに答える。何だか二人のやり取りを見ているとあまり心臓によろしくない。俺はちょっと嫌な汗を流しながら席についた。


「クロコってジオンと一緒の時は前髪で目を隠してないよねぇ、可愛いなぁ♪」

「いえ、通学の時は危ないので隠してないですよ」


 嘘つけ、アリカが来る前も隠してただろう。


「……クロコってジオンと一緒だとよく喋るよね」

「……人見知りが激しいもので。朝倉くんとは仲良くさせて頂いていますし」


 何故微妙に険悪なムードに陥っているのだろうか、虹雪さんが誰かに対して嫌味を言うなんて珍しい。


「昨日はありがとうジオン。重くなかった? 最後のほうなんて息切れてたけど、大丈夫かな、腰とか痛くない?」

「ちょっと待てアリカ、どうしてそんなややこしい言い方をするんだ!」

「私も調子に乗りすぎて、あんなにイれてごめんね。私もちょっとヒリヒリするかな」

「口がだろ! どうせ口がヒリヒリするんだろ!」


 どうせ激辛スナックを食べ過ぎたとかそんなんだろ、分かってる……しまった、俺も主語を忘れてしまった。


「分かっていますよ、朝倉くんの事は分かっているつもりです。本当に女の子が好きなんですね、朝倉時音くん?」


 虹雪さんの愛嬌のある瞳が、愛狂のある瞳になってる。瞳が光を吸い込んで、ハイライトが消去されているように感じる。超怖い死にそう助けて。


「虹雪さん! 俺の目を見て! 俺が女の子に対してそんないやらしい事をできる人に見える? ただ単に重いコンビニのお菓子を腰を痛めながら、運ぶのを手伝っただけだよ!」

「……口がヒリヒリするというのは? それは、その、ヒリヒリするぐらいフ」

「(ピー)なんてしてないよクロコー。それにどんだけ(ピー)したとしてもヒリヒリなんてしないよ、ヒリヒリというよりダルくなるんじゃないかな。まぁ(ピー)よりも私は(ペー)するほうが互いを高めあっていけるんじゃないかと思うよ、(ピー)も相手に気持ちを伝えたい場合には有効だと思うけどね。経験は無いけど」


 うわああああぁあああ! やめてやめてやめてー! ちょっと男子が興奮してるよ、女子が聞き耳を立ててるよ! っていうかクラス中が注目してますよー! 流石にオープンだなアメリカ。俺はアメリカに対していどんどん偏見が増えていく気がするよ。


「ゃ……わ、分かりました、その、もっとオブラートに……」


 虹雪さんは発火するぐらい顔を真っ赤にさせている。というか俺もそうだ。


「別に恥ずかしい事でもないでしょ。だってジオンだって毎日オ」

「ストップ! ダメ! ゼッタイ!」


 これ以上爆弾娘が爆発すれば、クラス中に神妙な空気が流れてしまう。いやだぜ俺は、そんなピンクい空気で一日授業を受けたくない。もう取り返しはつかない気がするが。


「と、ともかく、アリカとは昨日たまたま一緒に帰って、送って行っただけ! 虹雪さんとも一緒に帰ってるだろ、それと一緒だよ」

「それと一緒なんですか」


 虹雪さんはつまらなさそうに言うと、黙って筆箱からシャーペンを取り出しカチカチカチカチと連打し始める。


「そだよー、ジオンは別に特別なことをしてくれたわけじゃないよ。クロコと一緒で」

「ですよねー」


 カチカチカチカチカチカチカチカチカチ超怖い殺される助けて。


「ふふ……ふふふふふ、クーゲルシュライバー」


 ひぃいいいいいいそれはボールペンオブドイツ! 黒子それはボールペンちゃう、シャーペンや! やめるんや!


「ふひひ! 俺ちょっとトイレに行ってきますね!」


 ここは逃げるべきだ、戦略的撤退だ。っていうか燃えてるんだよ俺の席が黒く。

「な、なぁ優、なんで二人ともあんなに怒ってるんだ」


 ここは仙人に聞けば早い、俺はこんな時どんな顔すれば言いか分からないの。笑ったら駄目だと思うよ。


「時音、嫉妬って言葉を知ってるか? ジェラシーとも言う」

「いやいや、あの二人が嫉妬する程俺は好かれてないだろ。そこまで自惚れてないよ」

「本気で言ってるなら時音は大物だよ。まぁ謙虚なのはいいことだけどな」


 優はまた全てを分かりきったような顔で笑った、ずるいぞその顔。


「俺の何処に人に好かれる要素があるってんだよ、オタだし運動音痴だし、成績だって平均以下じゃないか」

「お前は……ちょっと悲しくなってきたな、ちょっとは自分の魅力に自信を持てよ」

「じゃ、じゃあ例えば俺の魅力ってなんだ? 俺には見つけられねぇよ」


 優は遠くを見た、視線の先には雀がチチチとさえずっている。五月の風は爽やかで爽快な気分になる。


「時音……いい、天気だな」

「そうだな、いい天気だ」


 無いんですね。



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