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6話『アリカ・ランプ見参!』

 二人で通学しながらずっと教室まで並んで歩いていた。他の生徒の視線はというと好奇の視線だったり奇異の視線だったりして、たまに羨望っぽい視線も感じたりした。

 まぁ何にせよ、すごく視線を集めたのは自意識過剰でもなんでもなく事実だった。あの落ち武者が他人と話しながら、しかもたまに笑ったりしながら登校してきたのだ。


「席が離れてるのは残念だな。でも昼休みは一緒に食べれるからいいか」


 俺はさっきから周りの視線を気にしている虹雪さんに笑いかける。


「は、はい……でも朝倉くんはいいんですか、お友達と食べなくても」

「んー、優はいくらでも食べる相手いるしなぁ。それに女の子と食べたほうが美味しいに決まってるだろ」


 軽口を叩いていると、お喋りが過ぎたのか予鈴が鳴った。回り道してきたからかな?


「じゃ、また後でー」


 ばたばたと自分の席に向かうと、隣の席でニタニタ顔の優が待ち構えていた。


「……保健室に行ったきり、帰りのホームルームにも出ずに消えた二人の男女がこうして何食わぬ顔で一緒に登校してこられると、なんだかなぁ」

「流石に俺も詮索するなとは言えないな、まぁ色々あったということで」


 ふーん、とそれっきりさっくり引き下がる優。お前って友人は何て優秀なんだ、涙が出るぜ。


「それよりも時音、聞いたか! 今日転校生が来るんだってよ!」

「うっそー! まじでー! 女子だったら可愛い子がいいなー!」

「それが飛び切りの美少女らしいぜ! なんでも外国からの転校生らしい!」

「ウヒョオオオオテンションアガッテキタゼー」


 棒読み。


「……優、なんだお前、そんなベタベタ過ぎてもうネトネトな領域に入ってる一連の流れを何故俺にやらせるんだ」


 そんな漫画の第一話みたいな事なんてありえないだろう。最近は下着泥棒をどつき倒したり、女子を抱えて保健室に行ったりしたが。


「いや、外国からの飛び切り美少女転校生ってのは嘘じゃないぞ。時音の同類のワクワクテカテカ加減を見てみろ」


 視線を巡らせると、俺の友達は絵に描いたようにワクワクテカテカ。ワクワクし過ぎてテカテカしている。意味は知らんが。


(美少女キタコレ、きっと火星から俺んちにホームステイしにきたんだ!)

(いや違ぇよ! 転校生は実は超能力者で覚醒前の俺を守りにきたんだよ! 俺の中に眠る伝説の何たらはきっと敵の手に渡ると危険だろうし!)

(ばっかやろうが! 美少女転校生の転入によっていつも通りだった俺の日常が急に桃色吐息になっていくってのはギャルゲにありがちなあらすじだろぉ! きっと今回のコレはそのアレだっ!)


 コショコショコショコショコショコショコォオオオオオオッ! と、内緒話で盛り上がる俺の同類達。あれは完璧に漏れて周囲に白い目で見られている。


「でも優の話は本当みたいだな。妄想であんなにヒートアップするとは思えないし。外国人美少女転校生かぁ……これだけで妄想でご飯が止まらんね!」


 俺もワクワクテカテカしてきた。これは決して浮気じゃないぞ、オタとして当然の反応だ。


「五月に転校ってのも珍しいけどね。なんか事情があったのかな」

「きっと前いた学校が魔族に襲われて、それで流離いのサムライガールは甲賀の血をひく俺のいる俺のクラスへと来たわけだな……おお、俺甲賀の忍だったんだ」

「悲しいぐらいに受動的だよな、その手の妄想」


 だって何の苦労もせずに美少女と絡みたいじゃーん。と割と駄目な感じで俺が呟くと、うちのクラスの今だに下の名前が覚えられない担任がやってきた。


「はいみんな静かに……静かにして下さい。今日は皆さんに新しい仲間を紹介しま……静かにして下さい」


 頑張れ中村なんとか先生。ああ、優がやんわりとみんなを注意してる。俺は先生よりも先生してるな、なんて優秀なんだ。


「ありがとう宇治原。なんで宇治原が言うとこんなにすぐに静かになるんだろうな……なんだか泣けてきたよ。ああそうだ、転校生入ってー」


 ええちょっと待って! まだ心の準備が、どうせ美少女とかいってズコーってなる事は分かってるんだからもうちょっと夢を見させてプリーズ!




「どぉも、アリカ・ランプです。アリカって呼んでみるといいよ」



 ズコー。

 とはならなかった。

 何故ならそこに現れた女の子は正真正銘、真っ向勝負の可愛い女の子だったから。

「アメリカからきました、ぶっちゃけ金持ちです。パパの仕事の都合で日本に移住です」


 ひょっとした俺よりも上手いんじゃないかぐらいの流暢な日本語で、その緑色の瞳をキラキラと輝かせながらクラス中の心をぶち抜く。


「ボーイフレンドは随時募集中だよ♪ ガールフレンドも勿論だし」


 その緑色の瞳は人間のものとは思えないぐらいキラキラの輝き。

 吸い込まれそうなもんじゃなく、強引に吸引されるかのような力強く引力のある瞳。

 唇もふっくらして、可愛さの中に確かに色気があった。

 そして真紅の髪は欲張りにエロティックな色気。艶やかでコマーシャルのようなミディアムストレート、ちょっと外巻き。

 足は長い、超長い。流石外国人。胸もアメリカンサイズ。いやこれは参った。


 つまり美少女だった。期待を裏切る所か斜め上を遥かに突き抜けていった。いやしかし今の発言は……。

 そっと尻軽軍団を見ると、僅かに頬を引きつらせている模様。当たり前だ、初対面でこんな爆撃するやつがあるか。でもアリカ・ランプは不思議とその爆撃を笑って許せる可憐な容姿をしていた。


「う、ウケルっ……!」


 俺にはそう尻軽軍団が無理やり声を捻り出したような気がした。周りもそれに合わせて愛想笑いを始める。そうだ、きっと日本にきたばっかりっで空気の読み方とか良く分からないんだ。


 そういう事にして今笑っておけば険悪な空気にならなくて済む……っ! っとみんなが空気を読んだのか、クラスメイトは引きつった笑顔で無理に声を出しながらアリカ・ランプを迎え入れる。

 俺も引きつった笑顔で迎えつつ、日本人の情けなさをひしひしと感じていた。


「ま、まぁこれがカルチャーショックという奴だな、先生はみんなが大人で嬉しいよ……本当に。あぁそういえば今月の席替えがまだだったな、じゃあアリカを入れてみんなで席替えをするといい、手早くするようにな。先生は職員室に帰るから」


 そそくさと中村なんとか先生は帰っていく。おいあいつ若干走ってなかったか。


 先ほどの爆撃から立ち直った俺達のクラスは、一時間目が始まるまでに席替えをしようとしていた。

 さっきは色々あった……本当に色々あったけど、久しぶりに別の席に移れるという事できゃあきゃあ言い合いながら席替えを行っている。

 俺も虹雪さんと隣になれたらいいな、なんて思いながらそわそわとクジの結果を待っていた。


 しかし……とてつもない爆弾娘が登場したもんだ。あれは帰国子女だから空気読めないってレベルじゃねーぞ、空気を読まないどころか完全に空気を破壊し尽したぞ。ああいうタイプには関わらないのが一番だ。虹雪さんとは全く逆の意味で目立ちすぎる。


「朝倉は十五番なー、ってお前また窓際一番後ろかよ! いるよな席が変わらない奴」


 教卓でクラスの代表が席替えクジを発表していく。窓際一番後ろは良好物件だが、問題は虹雪さんが近くに配置されるかだ、席替えは悲鳴と歓声を上げて進んでいく。


 結果、俺の隣は見事に虹雪さんとなった。何という奇跡、神様というのは実在するらしい。それだけならすごく幸運な出来事なのだが。


「よろしく~アリカ・ランプだよ。さっき紹介したから知ってるだろうけどね。キミは何ていう名前なの?」


 そう、爆弾娘が俺の前の席なのだ。爆弾娘は椅子に反対に正座して、背もたれに肘を乗せて、アイドルのブロマイドのように俺に笑いかけてきているのだ。俺がおどおどしながら自己紹介すると、アリカは可笑しそうに笑った。


「アサクラジオン? ユニークな名前だね、じゃあジオンって呼ばせてもらうよ。何だかどっかの帝国みたいな名前で強そうだね! 私の事はアリカ様とかお嬢様とか姫とかでいいよ」

「アリカ、日本で円滑に暮らしてく為には自分ちが金持ちとか言っちゃいけないんだ。これ帝国からのアドヴァイスな」

「ぷえーい! 様もお嬢も姫もつけてねーっ! ジオンのくせに生意気だぞー!」

 うわあああああああ~……。

 初対面なのにくせにとか言われた。ぷえーいってなんだよ。だぞー! ってなんだよ。只でさえ奇異の視線で見られてた俺がさらに奇異の視線で見られてしまう。

 だが、流石に無視するわけにはいかない。すでにクラスのみんなはアリカの事を放置気味だし、誰か一人ぐらいは転校生をもてなさないと。


「アリカはアメリカから来たんだよな、に、日本語上手だよね」

「上手っていうか、いったり来たりしてたから母国語みたいなもんなんだよねー。ジオンは日本語上手いねって言われて嬉しいの?」


 う、うぉおお、俺の褒めを華麗にスルーしやがった。謙遜する気もないし。


「嬉しくはないな。そっか、アリカにとっては母国語みたいなもんなのか~。それにしても、アリカってスタイルもよくて超可愛いよな」


 横で黙って聞いていた虹雪さんは、すっ……と俺の方を向く。今は前髪で瞳は隠されているが、ちょっと嫌なオーラを感じてしまう。


「当然だよー、だって毎週エステ行ってるもん。化粧水だってン万円の使ってるも~ん」


 お前は日本語を覚えるよりもまず謙遜を覚えろ! と言葉を発射しそうになるが、確かにアリカはズバ抜けて輝いているので、当然という返答はあながち間違ってはいない。日本人的には間違っているが。


「け、化粧水かー。男にはよく分からないなー、虹雪さんはいくらぐらいの使ってんの?」


 耐え切れずに話題を虹雪さんに振る。駄目だ、俺一人では荷が重過ぎる。


「えっ!? 千円ぐらいのかな……全然高いのじゃないよ」


 そう聞いたアリカはぱっと椅子から飛び降り、虹雪さんの前髪を強引にオールバックにする。おお、その髪型も中々似合うぞ虹雪さん。


「嘘をつけ……こんなぷにぷにもち肌が千円で作れる筈がないッ! もちもちやないか! ごっつもちもちやないか!」

「なにゅううううっ! ひゃへへふははい、はひふるんへふは!」


 アリカはもちもちぷるんぷるんと虹雪さんのほっぺを弄り倒す。なんと羨ましい。

「毎週毎週面倒くさいエステに行ってる私の苦労はなんなの……! しかもジオン見てこれ!」


 アリカさんは虹雪さんの両頬を掴んで俺の方向を向かせる、虹雪さんはすごく困った様子だったが、されるがままに掴まれている。アリカのエネルギーは完全に虹雪さんを圧倒していた。


「この子可愛いよ、すっごく可愛いよ、前髪の奥に大層な武器を備えてやがった! 何で隠してるのさー、もったいなーい」

「知ってるよ……」


 俺がやっと最近気づいた魅力に、アリカは数十分で辿り着いた。なんとなくとっておきの宝物を見られたみたいで悔しい。アリカは虹雪さんを放すと、これまた強引に虹雪さんの椅子の半分に座り込んだ。虹雪さんはあわあわしてアリカに押されている。


「んー? さっきも親しげに話してたし……もしかして二人は付き合っているのかな?」

「実はもう子供がいるんだ」

「ほーっ! 日本も進んでるんだねー!」

「保育園がどこもいっぱいでよー、少子化って騒がれてるわりには国のケアがなってないよな」

「育児って大変なんだね」


 突っ込む人が不在の漫才ってなんて不毛なんだ。虹雪さんはあたわたして何も喋れてないし。


「というのは冗談でいたって健全な友達付き合いだ。寸止めラブコメ状態ってヤツだな」

「そそそうです! らぶこめとかはよく分かりませんが、お友達ですーっ!」


 虹雪さんが第三者の前で友達と言ってくれた、俺は少し感動する。


「ふーん?」


 ニヤニヤとアリカが何か言いたそうな顔をする、本当に分かったんだろうかコイツ。


「ま、いいわ。中々チミ達は面白い子みたいね。友達百人伝説の幕開けにしてやってもいいでしょ」


 右手を虹雪さんに、左手を俺に差し出してきた。どうやら握手らしい、この握手にどんな意味が含まれているのかを想像して少し固まる。

 友達になるって事だよな。大丈夫かこんなヤツと関わって。


 俺が迷ってる間に、アリカは無理矢理俺と虹雪さんと握手を交わす。悪戯っぽく笑う彼女は年頃の女の子らしく普通に可愛かった。

 何迷ってんだ俺は。友達って選択するもんじゃないだろ。


「よろしくお願いします、アリカさん」


 虹雪さんは頬を赤らめて、戸惑いながらも笑ってそう告げる。途端に俺は自分が恥ずかしくなった。


「しょうがねぇなぁ」


 ぶっきらぼうにそう言うと、アリカは満足そうな顔で強く握り返してくる。

 虹雪さんとはあらゆる意味で対極的だな。俺はつい数日前の虹雪さんを思い出していた。


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