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最終話『優しい光』

 ――それから。

 月日は流れて六月のある日。衣替えの日である。

 俺は眠い目をこすりながら教室にいる。

 生徒達は長袖の冬服から、半袖の夏服へと服装を変える。スカートもふわっと軽くなり、少し短めにするのを許される。

 あれからずっと一緒に黒子を登校していたのだが、今日は俺一人で登校してきた。教室には夏服を来た生徒達が涼しそうに雑談していた。


「ブラ線はいい。人類が生み出した最高の文化だよ」

「いいのか? 虹雪さん以外女の子をそんな目で見て」


 優はいつものように俺の席に腰掛けている。


「いやいや、俺の嫁は優秀でね。ちょっとぐらいの無差別エロスは許容してくれるんだよ。この前だって少し俺が綺麗なお姉さんの胸元を凝視しても何も言わなかったよ」


 うふふ、うふふふふ、とか言って繋いだ手を万力のような力で掴んできたが。びしり、とか手から聞こえてきたなぁ。


「何よ、今日もまたノロケ? あーあーこのエコ全盛時代によくもラブラブ二酸化炭素を撒き散らしやがって、ご苦労なことよ」


 アリカがごりっと俺の頭に鞄をのせながら暴言を吐く。


「アリカさんナイスです夏服! やっぱ生地が薄いっていいね!」

「ジオン……いい加減落ち着きを持ちなさいよ。クロコが泣くわよ」


 アメリカンサイズなバストを揺らしながらアリカは鞄をよける。


「あぁ……朝倉が、朝倉がリア充に……」

「あんなエロゲオタに、あんな可愛い彼女、だと……」

「二次元を裏切った、二次元を捨てたでござるか!」


 オタ三人組が喚く。いやいや、賑やかな朝でござるなぁ。

 ふはは、なんとでも言え、ちなみにオタ趣味も公認済みだ! 流石に抱き枕は見せてないけどな!


 黒子との関係は良好の一言で、幸せな日々を送っている。予想外だったのは想ったより黒子が積極的な事だ。俺がリードして主導権を握る関係になるのかな? と思っていたら、色々な表情を見せて俺を楽しませてくれ、黒子からデートに誘われる事もあった。


「にへへ、にへへへへ」

「ねぇユウ、幸せな人を見て憎しみを抱く私って嫌な人間かな」

「んー、ジオンの場合ならいいんじゃない?」


 そっか、とアリカは呟いて俺に遠慮無しにヘッドロックをかけてきた。親愛の表れである。それはそうと今日も極まってんなぁ。あはは、息ができないや……


「でも……夏服おっぱい……気持ちいい……がふぁ」


 アリカが乱暴に振りほどく。俺は教室の床に倒れこむ、ああ、変わらない日々だなぁ。


「時音くん、大丈夫ですか?」


 耳に優しく響く彼女の声も、ずっと変わらなければ幸せだ。


「うん、ありがとう。おはよ黒子」


 黒子は愛くるしい瞳で俺を愛しそうに見つめる。瞳を隠していた前髪はすっきりとピンで留められて、黒子の可憐さはもう隠されることは無い。

 長すぎるスカートは膝が見えるぐらいに短くなり、細くて長い脚が良く見える。黒子を落ち武者なんて呼ぶ生徒はもうどこにもいなかった。


 あれから黒子は志乃さんとの関係を取り戻し、しょっちゅう長電話をするようになったらしい。俺が電話してもよく通話中だから。そのせいか性格も明るくなり、躊躇いながらもクラスメイトと会話を交わすようになった。もう避けられることもない。


 逆に風当たりが強くなったのが俺で、釣り合わない、と男女問わずバカにして笑われるのだ。

 といってもネタにされるぐらいには恋人である事を認められてはいるのだ。その点は嬉しい。


「夏服可愛いな、似合ってるよ」


 もう照れもせずに正直にそう伝えると、いい加減慣れればいいのに黒子は頬を染める。


「あ、ありがとうございます」


 クラスメイト(主にアリカ)が口々にあちーだのうぜーだの好き勝手言いまくる。

「いや、俺直球で褒める以外思いつかないし……あー黒子、こっちきて」


 クラスメイトの喧騒を離れて、黒子と一緒に廊下に出る。チャイムが鳴る寸前だからか廊下には都合良く誰もいない。


「今日は一緒に登校できなくてごめんなさい、その、今日から夏服だから色々準備が大変で」

「いいよ、こんなに可愛いんだ。私服とか水着も可愛かったけど、制服は俺とお揃いのような気がして嬉しいし」


 概念的な意味でのお揃いだが。細かい事はどうでもいい、気持ちの問題だ。


「……時音くんの言葉は、私にいつも元気をくれます」


 もうすぐ先生が来る。そろそろ教室に入らないといけない。


「俺は正直に自分の言いたい事を言ってるだけだよ、あーくそ、そろそろ教室に―ー」


 ちゅっ、と可愛らしい音が鳴る。

 黒子が不意打ち気味に、何度目とも分からない口付けをしてきた。

 俺もゆっくりとそれに答えると、幸せを味わう。


 廊下の開けられた窓から、爽やかな風が流れ込んできた。梅雨という憂鬱な時期に入るというのに、雨すらも黒子とだったら楽しい出来事に変わる気がする。

 ずっと一人だった女の子と、恋の味を知らなかった俺。


 この先、俺が黒子を傷つけたり、俺が傷つけられたりもするんだろう。けど俺はそれを一緒に黒子と乗り越えて行ける事に喜びを覚える。


 二人一緒なら、きっと大丈夫だ。

 唇を離し、黒子と向かいあう。


 黒子の愛くるしい瞳は、優しい光を湛えていた。



ご愛読ありがとうございました。

時音と黒子が末永く幸せでいられますように。


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