11話『メカクレ巨乳とアメリカン帰国子女の水着回』
寝つけないかと思ったが、あれだけ臭い台詞を吐いた後だからか落ちるように眠ってしまった。俺は待ち合わせの三十分前に集合場所である駅に到着している。
ごめーん待ったー? とかそんな伝説の台詞を言ってくれれば俺はもうッ……!
「ごめーん待ったー? ジオーン」
おめぇさんじゃねぇよ! アリカが、なんだろうあれは、おそらくリムジン系の車の窓から手を振っていた。
「てめぇは日本のラブコメを一から読み直して来い! ごめーん待ったー? は決してリムジンの窓から言うもんじゃねぇ! 俺はテイクツーを要求する!」
それならば、とアリカはリムジン系のやたら細長い車から降りて、俺の所まで小走りにかけてきた。
「はぁ、はぁ……ごめーん待ったー? その、服選ぶのに手間取っちゃって」
「よっしゃ、満点だアリカ。アリカの飲み込みの早さには感激する」
「えへへ、服を選ぶのに迷ったのは本当。ジオンはきっとアキバ系の服を好きだとおもったから、ホラ」
アリカはフリルの着いたミニスカートを穿いていて、かなり短い。正直ちょっと見えそうで俺はスカートを遠慮なく凝視する。
「いやすでに水着だからもうノーダメージなんだけどね」
「スカートの向こうにあるのならば構わん。そこにチラリズムが発生するからな。っていうかお前は小学生か」
ノーダメージならばこの手でめくってやろうかと手を伸ばしたら、アリカに両頬を両手でぱちんと叩かれた。
「あのねぇ、このTシャツも今日の為に買ってきたわけよ。まぁ服なんていっぱい買うからいいんだけどさ。いきなりやらしくスカート捲りとか……このDYがっ!」
「デリカシーなんてママのお腹の中に忘れてきました。俺は俺の欲望に忠実に生きます。というのは冗談、ヨクニアッテマスネアリカサン」
アリカがギンギロ睨んできたので俺は挙動不審気味に答える。何処がどう似合ってるのかは全く分からないけど。
「ジオンは女の子の落とし方を全く分かってないわね。いつもと違って可愛いじゃん、とかその色春らしくていい色だね、とか言えないの?」
Tシャツは薄いピンク色で割とタイトだ、アリカのスタイルの良さを余すところなく表現している。それはもう俺のツボを刺激するフリルスカートは、綺麗さより可愛さを際立たせる、これが愛され系ってやつかよ。
「……別に何着ようがアリカは素材がいいから可愛いんじゃないか? 可愛いけど綺麗だし、俺にはアリカがキラキラ輝いてるように見える」
「ううぅ、服の事をガン無視する最低発言なのにちょっと嬉しい……なんでジオンはいつも直球なのよ」
「そうなのか」
「割とジオンってば女殺しなのかもね……」
アリカが少し照れてそっぽを向く。そんな姿も実に絵になっていた。洒落たバッグを後ろ手に、デートで彼氏を待つ美少女そのものだった。
俺はアリカの心の強さも十分知っている。俺には無いものをたくさん持っていて、自分を曲げずに自分の居場所を作ると言い切った彼女は、とても強い女の子だと思う。
そして俺はそんなアリカが無理してるんじゃないか、と心配になったり、もっと愚痴を吐き出してくれたらいいのに、と願ったり。つまりすごく気になるのだ。
「ジオン? どうしたの難しい顔して」
俺が好きなのは虹雪さんただ一人なはずなのに、こんなにもアリカの事を考えていいのだろうか。それって虹雪さんの事を裏切る事にならないか。
「いや、春風がスカートを巻き上げてくれないか念じていた」
「春風に謝れ。全世界の春風さんに謝れ!」
アリカはぺしんぺしんとバッグで殴りかかる、ああ駄目だ、こんなじゃれ合いも悪くないなーなんて思ってる俺が嫌だ。
「ごめーん待ったー?」
自己嫌悪の沼に入っていると、茜の声が聞こえた。小走りに駆けてくる姿は俺の理想像そのもの。
「茜は俺の嫁っ!」
今のは俺の台詞ではない、アリカが茜に飛びついたのだ。俺も言いそうになったけど。
「いやーん何コレ! クロコのミニサイズのツインテールバージョンじゃーん! 茜ちゃんラヴリー!」
「きゃああ! あの、どちら様でしょうか!」
そういやアリカと茜は初対面じゃないか、それなのに飛び掛るとは流石アリカ。まるで蛮族。
「おはよう茜。今飛びついてる赤毛の美少女はアリカ・ランプさんだ、聞いてると思うけど」
「ぷりちーぷりちー! ねぇジオンこれ持って帰っていい?」
「俺が先だ!」
「てめぇに持って帰られてたまるか」
心底嫌そうな顔で茜が拒絶する。だがその体はアリカにすりすりされていて、実に目の保養になる。
「あ、アリカさんこんにちは、姉がお世話になっておりまぷ」
「今日は楽しんでってねー、うふふ、水着姿も楽しみだなー」
ああ何て幸せなんだろう、巨乳貧乳も同時に楽しめるなんて、俺はなんと幸せものなんだろうか。テカテカしてくるぜ。
「アリカさん、あの人の目が油ぎってるのが気になります」
「大丈夫大丈夫、アイマスク買ってきたから」
「視覚を奪われたら触覚で楽しんでやるぜー!」
女子二人がドン引いてこちらを見てくる、殺気ってこういう事を言うのか。
「茜ちゃん、クロコは一緒じゃないの?」
「トイレに行ったみたいで、もう来ると思いますけど」
そう聞くと俺はさらに目を油ぎらせて改札に視線を送る。虹雪さんの私服を見る至福のひと時。誰が上手い事言えと。
「ごめーん待ったー?」
だんだんごめーん待ったー? がゲシュタルト崩壊してきた。そして俺の油ぎった目は一気に萎える。
「野郎かよ」
そこには苦笑を浮かべた優が立っていた。俺のあんまりな物言いに呆れている。
「ひどいな時音。せっかくテンプレートどおりにごめーん待ったー? って言ったのに」
「もうそれはいいよ、そしてあれは美少女限定」
優は嘘みたいに爽やかな笑顔を浮かべ、春風にサラサラと風を揺らして、清潔感満載で格好良く振舞っている。
「えぇと、君が茜ちゃんなのかな? 僕は宇治原優、時音の友達だよ」
「初めまして、虹雪茜です。姉がお世話になってまーす」
茜も俺に見せたことの無い表情で笑うと、優と挨拶を交わした。優に対しては敬語なのか。
「へー、アリカさんの私服も可愛いね。春らしくていい色だ」
優はナチュラルにさらっと褒めると、すごく社交的に女子二人と会話する。俺には全く無いスキルだ。
「ジオン、こうやって女の子を褒めるんだよ」
「何で優さんみたいな人とあんたが友達なのよ、月とタニシだわ」
「た、タニシ……」
あまりにも酷すぎる、タニシって……スッポンに負けた……
「それになんていうかジオンの服も、地味っていうか無難っていうか、春らしくないなぁ」
「優さんとは大違いですね、同じ人間でもこうまで違うなんて」
「そんな事ないって、時音もその服気に入ってるんだよな」
優、お前それ全くフォローになってないぞ。何だよ俺をいぢめてそんなに楽しいですかそうですか。俺はみんなみたいに美少女美少年じゃないもん。
「あ、アリの巣見っけー、ぷちぷちぷち」
「い、陰気だわ……」
何とでも言え。黒い私服の俺は太陽の熱を感じてじわじわと炙られるのがお似合いだ。
「あ、あの、アリさんが可愛そうですよ」
「男の子が誰も通る道。って、あれ」
俺に敬語を使う人は、このメンバーだと誰もいないはずだ、つまり今声をかけたのは。
「虹雪さん?」
「はい♪」
体育座りの俺に声をかけた虹雪さんは、若干前屈み。彼女にしては珍しく、胸元の開いた服を着ていて、俺は初めて虹雪さんの谷間を見た。
「うわーっ!」
カエルみたいにぴょーんと跳ねて、虹雪さんから離れる。体中の血液がぐるんぐるんと活動を活発化させる。
虹雪さんは胸元の開いた、意外にもザ・女の子っぽい服を着ていた。残念ながらスカートではなくデニム生地の、何だっけあれ、確かレギンスといったけか、を穿いている。
結構地味な服を着てくると先入観を抱いていた俺だが、虹雪さんの私服姿は、雑誌に出てくるような普通に可愛いものだった。当然前髪で瞳を隠すような事もない。
それにしても谷間だ、隠れ巨乳だと願望混じりの冗談で言っていたが、くっきり谷間ができる程の大きい胸をお持ちでいらっしゃたようです。アリカより確実にでかい。
「に、虹雪さん……」
俺は言葉を失う。アリカに対してはスカート捲りを実行しようとした俺だが、何故か虹雪さんに対しては、触れてはいけないような気がして冗談すら出てこない。
「アリカさん、やっぱりこの服は私には派手過ぎます……きっと朝倉くんは引いて言葉が出てこないのかと」
「そんな事ないよ、きっとジオンは言葉を失う程見惚れてるんじゃない? 私のセンスに間違いは無かった!」
アリカが選んだのか、それは非常にグッジョブと言わざるおえない。
「う、え、あ、アリカ、全員揃ったから出発しないか、早く泳ぎたいし」
「あれー、クロコの私服にはコメント無しなわけ? ほらほら何か言う事ないの?」
ここでいつものように巨乳ばんじゃーい! と叫べばツッコミを入れられて場が収まる。だが今の俺は何故か冗談が出てこない。
「か、可愛いよ。虹雪さん」
「はぅ」
やっとの事で搾り出した言葉に、虹雪さんは頬を染めた。もっと色んな言葉で彼女を褒めたいのだが、自分でも驚く程声が出力されない。
「いつもは散々おっぱいだの言ってるくせに……やっぱりジオンはヘタレね」
「先が思いやられます」
「まぁ時音は純粋だからねぇ」
優が悟りの笑顔を俺に向ける。また全てを分かりきった顔しやがって。俺はお前ほど女子に免疫が無いんだ。
しかしどうしてだろう、アリカに対しては肩の力を抜いて話せるのに、虹雪さんに対してはどうやっても意識してしまう。
それって俺がアリカに対して心を許しているからじゃないのか。
虹雪さんに対しては俺が心を許して無いって事なのか。
アリカに視線を向けると優しく微笑んでいた。俺はその笑顔に少しホッとする。
俺は虹雪さんの事が好きなはずなのに。
ランプホテル。一般人の俺でも聞いた事のあるセレブ御用達の高級ホテルだ。日本に進出するという事で最近ニュース番組で特集されていた。
「すげぇ、なんだあの無駄なスライダーは。しかも売店がなんだか無駄なセレブリティを発揮してるぞ」
ばかじゃねーの、キャビア売ってるぜキャビア、プールサイドで。そんな馬鹿な。
「プールの売店に焼きそばが無いなんて信じられないね、カクテルとか売ってるけど、泳ぐところでアルコール売っていいのかな」
きっとセレブは椅子に座ってフルーツ盛りだくさんのブルーハワイを飲んでるんだろう。あんまり泳いでるイメージが浮かんでこない。
俺達男子二人の着替えなんてあってないようなもの、さくっと着替えて温水プールに駆け出していた。だがちょっとセレブな雰囲気なプールに気圧されていた。
「なぁ優、お前彼女いるのに女子とプールとかに来て大丈夫なのか」
「アリカと虹雪姉妹は純粋に友達だろ。それに時音もいるからハーレムってわけじゃないし」
「いやいや、彼女さんからなんかプレッシャーと感じないのか」
優は不思議そうな顔で俺の話を聞いていた。
「彼女は僕の事を信頼してくれてると思うよ、第一僕にその気がないんだから何も起こるわけないじゃないか」
優の彼女というのは物凄く理想的な女の子のようだ。確かにこの優に釣り合うような女の子なら納得なんだけど。
優は腕を組んで俺の目を真正面から見つめた、真剣な様子なので思わず俺は黙る。
「時音、何に迷ってるか分からないけどさ、もし虹雪さんの事で悩んでるんだったら時音の変に純粋な心に従ったほうがいいぞ」
優に恋愛相談なんてした事なんて無い、そんな事恥ずかしくて出来るわけがない。それなのにこいつは俺が悩んでる事をピンポイントで突いてきやがった。
「何故にそんな事を突然」
「時音が僕の彼女の事を茶化さないで話すなんて、初めてだからかな、だって時音はそんな話題あまり好きじゃないだろ?」
あまりにも図星、そうさ、あまりにも俺には縁が無さ過ぎて、優の彼女の事を話すなんて普段の俺なら絶対ありえないからな。
「な、なぁ優。友達の話なんだけどさ。もし同時に二人の女の子を好きになったとしたらどうしたらいいと思う?」
「おまえは姉妹で迷ってんのか! このペド野朗! 相手は中学生だぞ!」
「違ぇよバカ! 妹と悩んでるじゃないの、帰国子女と悩んでるの! っていうかこれ友達の話だから誤解しないで頂けますかね!」
っていうか優それは茜に失礼だろう、全力で貧乳肯定してるじゃないか。
「その友達は帰国子女さんと、前髪が長い女の子で悩んでるのか? 僕はちょっと意外だな、そうか、アリカと……」
「あくまで友達の話だけどな。その友達も純粋な心をどっちに向けていいか分からないみたいらしいぞ」
俺に三次元に興味のある友達なんて、優ぐらいしかいない。けれど優はあえて言及しないで聞いてくれた。
「僕には帰国子女さんとその友達は、そんな気があるようには見えないのだけれど」
「そんなはずねぇよ、だって俺はアリカの事を……!」
「好きだっ!」
俺の背中に衝撃が走った。そのまま俺はプールに吹き飛ばされ、モロに腹打ちして着水した。
「いやーんジオンに告られちゃった~。クロコに刺されちゃう~」
「ぼばべばびっばんばばいば! (おまえが言ったんじゃないか!)」
アリカが容赦無く俺の背中を蹴飛ばしやがった。おかげで俺は最高にイカした無様バサロをするはめになってしまった。
「ごめんごめん、さぁ私の手を掴んで」
アリカはプールに沈んだ俺に手を伸ばした。馬鹿め、俺がこんなベタなシチュエーションを逃すはずないじゃないか。俺はプールに引きずりこもうとアリカに手を伸ばす。
「と、見せかけてぇえええ!」
アリカは俺の手をばしーん! と払いのけ、勢いをつけて俺に飛び掛ってきた。
アリカの両足首が俺の頭部を挟むと、アリカは振り子のように後方に倒れこみ、俺は頭からまたプールに着水した。
「フ……フランケンシュタイナーじゃないか! 高校生であんな大技を繰り出すなんて、アリカ、恐ろしい子!」
詳しいな優。俺は次から次へと視点が強制変更されて軽くパニック状態ですぅううう。手は水中を暴れ狂い、とりあえず近くにあるものにしがみついてみた。
「ちょ……ジオン、恥ずかしいよ……」
そんな事を言いつつも、アリカの両足は俺の腰にしがみつくように絡んでいて、俺も容赦なく両手でアリカの腰をすくい上げていた。
「さ、下がり藤じゃないか! 高校生なのにそんないやらしい手を使うなんて、ジオン、恐ろしい子!」
「テメェはそれを言いたいじゃないのかな! っていうか離れてくれアリカ!」
「あれ、硬くなってこねぇ」
「フランケンシュタイナーで興奮できる程俺はマゾじゃないっ!」
ダメージからしばらく立つと、この状況の際どさに気づいてしまう。アリカは髪の色に合わせた赤い色のビキニで、すごく布面積が、すごく布面積が。
「お、やっとエレクトしてきたねぇ。それでこそジオンだよ」
「いやぁあああああああああああめてぇえええええええ!」
ぶぉおおん! と割と容赦無い力でアリカを引き剥がした。アリカは自分のやってる事が童貞に対してどれだけ刺激的な事なのかわかってるのだろうか。あっさりと引き剥がされ、アリカはプールサイドに腰掛けて俺に笑いかけた。
「んふふ、そんな獣みたいな目で見なくてもいいのに♪」
「はぁ、はぁ、はぁ、ハァハァ」
グラビアアイドルの水着の撮影のようだ。そこには完成された美貌があって、咲き誇る笑顔が全力で瞬いていた。
水着という下着同然の露出がもたらすエロスを、笑顔という要素が上手くマイルドに交わりあって、健康的な色気を醸し出している。
「はっはっは、もっと私を見るがいい! このたわわに実った果実を拝むがいい!」
「ア・リ・カ! ア・リ・カ!」
「時音、お前はそれでいいのか」
優は呆れたようにプールサイドから俺を見下ろしていた。いいんだ、俺は今最高に楽しい。
「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」
祭りが最高潮に達した時、俺は背中に冷たい視線を感じる。待て、俺は何かを忘れているような気がしないでもない。
「あは、あははははは、朝倉くん、楽しそう……♪」
「お姉ちゃんハイライトハイライト、瞳にハイライトを忘れないで!」
ヤ、ヤンでらっしゃるー!
俺は急いでプールサイドに上がると、虹雪さんのもとへと駆ける。視線を合わせようとするが、虹雪さんの視線はどこか遠くを眺めているようだった。
「どうせ私は笑顔が似合わないですから、アリカさんみたいに夏が似合いませんから、そう、私はきっと雪の降る北国のホームで来ない待ち人を延々と待ち続けるほうが似合ってます」
「確かに似合いそうだけど、虹雪さんの水着も似合って、あれ」
虹雪さんは白いTシャツを着ていた。水着を着ていないわけではない、その上にTシャツを着ているのだ。その証拠に下の黄色い水着が見え隠れしている。どうやらビキニのようだ。
やばいやばいやばい、普段は長いスカートのせいで生足なんか全く見なかったけど、いざ生足を見てみると物凄く生足というか、生足である。
「ふぅ……」
俺はそれだけ呟くと視線を逸らそうとするが、虹雪さんの露出された肌から視線を引き剥がせないでいた。
「あまり見ないで、下さい」
虹雪さんは視線を感じたのか、それほど大きくないTシャツを一生懸命下に伸ばす。顔を真っ赤に染めて、そんないじらしい姿を見せられて、俺は堪らなくなる。
「あの、せっかくプールに着たんだから泳げばいいのに」
「はず、恥ずかしいです」
お互いに視線を合わせられない。強烈に意識して、恥ずかしくて、照れて、もう何がなんだから分からない。
「脱☆膠着! スケさんカクさんヤッチマイナ!」
「「ラジャー!」」
熱くなった頬に水流を感じる、茜と優が何やら物騒な色使いの水鉄砲を俺達に向けて発射してきたのだ。
「おぶぶぶぶ、ちょっと待てばばばばっ! 水流水流! この水流の強さは死人が出るだろ!
ちょっと今足浮いたんですけど!」
「あはははは! パパの趣味で軍用水鉄砲を開発したんだって! 発砲スチロール程度なら粉々に砕けるんだって!」
「ぐぁああああああ! やめろ乳首を狙わないで下さい! 陥没しちゃうのおぉおおおおらめぇええええひぎぃぃぃいいいいい!」
ぱしゃっ♪ とかそんな次元ではない。ドブシャアアアア! な感じの水鉄砲が俺を襲う。
死因が水鉄砲だなんて嫌過ぎる。俺が倒れこんで痙攣を始めると、ようやく蛮族どもは発射をやめてくれた。
「ごめん時音、僕ちょっと楽しかった」
「私も、どうしてだろう……胸がドキドキするの」
優と茜が恐ろしい事を言ってくれる。まさかの超どエス疑惑。
虹雪さんもとばっちりを食らってTシャツがびしょ濡れになっている。つまり、下の水着が透けて非常に嬉しい事になっていた。
「朝倉くん、大丈夫ですか?」
倒れこんだ俺に駆け寄る虹雪さん、揺れてる。そして黄色い水着がうっすらと透けて、Tシャツが大きな胸に張り付いてエロティックな事になっていた。
「あ、あの、虹雪さん、そのままTシャツ着ていると逆に恥ずかしいよ」
「あ、や、やだ……」
虹雪さんはぱっと胸を隠す。確かにそのままだと逆に卑猥な感じがする。あまりにも胸を強調し過ぎているからだ。虹雪さんは慌ててTシャツを脱ぎ始める。
「……ー~ッ!」
俺は声なき声を上げる。だって、いくら下は水着といえども、脱衣している事に変わりはない。しかもTシャツは虹雪さんの体にぴたっと張り付いて、舐めるように胸の上を滑るのだ。
脱ぎ終わる時に虹雪さんの胸が揺れた。俺は見てはいけないものを見た気がして、思いっきり視線を逸らした。
「ジ、オ、ン? ほらほらちゃんと見てあげないと、クロコの水着似合ってるでしょ」
「いや、いやいやいや、そんなジロジロと見るなんて紳士な俺にはとても」
「ジオンが紳士だったら、世界中の男が紳士になるわよ」
俺はどうしても虹雪さんを正面から見ることができない。
「うう、アリカさん、だから派手だって言ったじゃないですか。ワンピースにしておいたら良かったんです」
「そんな細いウエストでワンピース着たらビキニが泣くわ! ビキニに対する侮辱と思え」
俺は心を落ち着かせると、ゆっくりその細いウエストやらを見る。
普段は露出のあまりにも少ない虹雪さんだから、余計にビキニが刺激的なものになる。何もかも初めてなのだ。胸の谷間も、折れてしまいそうな細い腰も、柔らかそうな太ももも。
だってビキニって布面積的には下着と一緒なのだ。理屈的には下着姿の虹雪さんをみているようなものじゃないか。
俺は私服姿の時のように、言葉を捻りだすような事もできなかった。
「私の時とは随分リアクションが違うんだね」
アリカは冗談っぽい口調で言ったけれど、その表情はどこか苦いものが混じっている。アリカなら投げあったり手を握ったりできるのに、もし今の虹雪さんに俺が触れでもしたら、多分俺は爆発してしまうんじゃないか、と俺は本気でそう思った。
「さ、準備も整った事だし、皆のもの、まずはスライダーを攻めるぞっ!」
アリカがみんなを煽る。おー! と俺は照れ隠しする為に声を張り上げた。みんなもそれに便乗して、拳を高く天に突き出すのだった。
若者が五人集まって遊び応えのあるプールが用意されれば、時間は瞬く間に過ぎる。セレブな雰囲気もいつのまにか忘れて、空気を読まずに一生懸命遊びまくった。
運動音痴の俺が茜に本気で水泳勝負を挑んでも圧倒的な敗北したり、アリカと優がアスリート並みに泳ぎが上手かったり、ひ弱そうな虹雪さんがいつまでもタフに遊んでいたり、みんなの意外な一面が見れた気がした。
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