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#08 ジーナ

到着



ジーナ 「すぐに戻るから、出発の準備をして」


ジーナは無言で抱き付いてきたナトとハンナを離すと、『ジルガスを連れてくる』とダンテたちに言い残して走り去る。

ハンナはナトとウリを馬車に乗せた後、優に頼んで疲労困憊のアリスを抱き上げて馬車に乗せてもらう。

ハンナはすぐにアリスの手の治療にかかる。 特に左手の薬指と中指の間の裂け方が酷い。 何針も縫うことになるだろう。


また、雨が強く降り出した。

優がダンテに馬車に乗るように促すが、ダンテは『大丈夫だ』と首を振る。

ダンテは、死んだジルガスを片手で引っ張ってよせた。

ダンテのために魔法を放って犠牲になってくれた精霊の死体は見当たらなかった。


ダンテは馬車の後方に回り、荷台で治療中のアリスとベレの遺体について話し合った。

アリスはダンテに悲しそうに首を振って見せた。 ダンテはアリスに『わかった』というと、ベレの遺体を大き目の木の根元に運んで麻袋をかけた。 埋葬している余裕はない。

   コールの方は木端微塵で、履いていた靴ぐらいしか残っていない。


雨の中、ダンテと優はともに辺りを警戒していた。


5分ほどで、ジーナが2頭のジルガスを連れて戻ってきた。

さっそく、一方のジルガスを馬車のハーネスに繋いで馬車を引かせる。

車輪がぬかるみにはまってしまっていて、はじめは引くのに苦労していたが、ダンテと優が手伝って押すと馬車は前に進みだした。

ハンナに言って治療を中断してもらい、アリスが馬車の後部で残りの魔力を使う。

アンティトレースだ。 車輪の後も、優たちとジルガスたちの足跡も目立たなくなっていく。

わずかに残った跡は、雨が流してしまうだろう。

優たちの通り過ぎた後には、冒険者7人の死体だけが残されている。

しかし、それも再び物理防壁が作動すれば、電界にのまれる場所にある。


冒険者たちのキャンプの横を通り過ぎ、馬車はぬかるみを抜けてISMINTIの旧道に乗った。

細かい造りの石畳の道が森の中を続いている。 雨水がたまって所々に水溜まりが出来ている。 

路面にトラップらしきものは見当たらない。

逃亡者たちが冒険者の包囲網を抜けることは想定していなかったのだろう。

それ以前に、ISMINTIの旧道のことを知っている者も少ない。


ジーナに言われて、ダンテはようやく馬車に乗ることを受け入れた。 ダンテは後方の警戒についた。

優が手綱を持って御者台に乗って、降りしきる雨の中を馬車は走り出した。


初めはぎこちなかった優の操縦も、20分も走っていれば完全に腕に馴染んだ。


ジーナ 「優君、もっと飛ばして! イチかバチかの賭けよ。 ジルガスを交代させながら夜まで走るわよ」


優 「わかった、ジーナさん。 でも、モンスターや魔物は?」


ジーナ 「かわせるだけかわして、振り切るわ。 無理ならこっちで引き受けるから、進めるだけ進んで」


優 「わかったよ。 オレもまだ戦えるから、疲れたら変わるから、あてにして!」


ジーナ 「ええ!」




優たちが走り出して2時間が過ぎた頃には雨も上がった。

そして、後方の空にはいつの間にか、再び物理防壁が伸びていた。 それは、王都が完全にSAURESの占領下に落ちたという証だ。


揺れる荷台の後方では、ボウガンを構えたダンテが迫ってくるものがあればと狙っている。

ダンテの脇にはダンテの邪魔にならないように寄りかかるアリスの姿があった。 痛みに耐えて治療を終えたアリスは、右へ左へ振れる馬車の揺れにもめげず器用に眠っていた。


馬車の前方で、ハンナのもとでベレとコールのために泣いていたウリとナトも眠っている。

荷台の前方はアリスたちの居る後方よりも揺れは少ないが、それでも時々ウリが浮き上がるくらいは揺れるので、ハンナが二人を抱きかかえていた。


ジルガスに乗りながら、時々威嚇をするために槍を振り回すジーナ。 優も襲撃に備えて投げナイフを構えて持ちながら手綱を握っている。

今のところ、進行に差し障るようなモンスターも魔物も出ていない。 見た目にもほとんど無害な植物系の魔物が多く、優たちを捕食しようとするほどのものには一度も遭遇していない。 石畳の近くにいるのは、小柄な者たちばかりだ。

遠目に2足歩行型の魔獣のようなのがいたが、特に優たちに興味は示してこなかった。




旧道に入ってから6時間ほど石畳の道を飛ばしてきた。

日が傾いてくると、視界が悪くなって思うように馬車を走らせられない。 優が操縦する馬車は、時々車輪が陥没したところに入ってしまい、そのたびに馬車が大きく跳ねた。 3回目くらいの荷台のウリたちの大ジャンプで優はジルガスの手綱と馬車のブレーキを引いた。


優 「ジーナさん、そろそろ泊まる場所を探そう」


ジーナ 「そうね。 ダンテ、御者台に来て? あなたの方がこういうのはわかるでしょ?」


ダンテは『ああ、わかった』と言って優の隣へ移動する。 馬車はスピードを抑えて走り出す。 馬車は国境から70キロほどの距離にいた。

ISMINTIたちの暮らすリバ山脈につながる高原地帯をぬけて、馬車は緩やかな下り道に入ってきている。 森の木々が少しずつ開けてきて、視界が広くなった。



ダンテ 「よし、優。 あっちの岩山の方だ。 石畳からなるべく距離をとれそうな所へ止めろ。 アリス? 起きてるか?」


ハンナ 「はい、起きています。 アンティトレースですか?と聞いていますが?」


ダンテ 「ああ、アリスに頼むと伝えてくれ」



優 「よし、着いた。 ここでいいかな?」


ダンテ 「ああ、ここでいい。 だが、馬車の向きを反対にしよう。 すぐに走り出せるようにな」


優 「わかった」


ダンテ 「ああ、そこでいい。 さぁ、みんな降りよう」


優に抱えられて降りたナトが飛び出した。 真っすぐにジルガスを木につないだジーナを目がけて走っていく。

2週間ぶりの再会だったから当然の反応だろう。 今日は2回目のハグだ。

ハンナは医療道具の入ったリュックとウリを抱えている。 そのまま、優に抱えられて降りる。

寝起きのアリスもダンテの首に腕を回して降りる。


ダンテ 「優、先にそこの石山に登れそうなところを探してくれ。 今夜はそこの岩の上にテントを張る」


優 「わかった、登って見て来るから待ってて」


そう言って優がいなくなる。


アリス 「ジーナさん、お久しぶりです… お元気でしたか?」


アリスは本調子じゃない。 ダンテに支えられて立っている。 体力的にもそうだろうが、少しほっとして精神的な緊張が切れたのが大きいだろう。 ほとんど魔力も残ってないから、気分も悪いのだろう。


ジーナ 「ええ、何とかここまで来られたわ。 アリスもお疲れさま。 あとでお話しましょ」


アリスが『ええ』と答えて、ダンテを見て地べたへ座らせてもらう。

ジーナはハンナの抱えているものに興味がある。


ジーナ 「うわぁ、何なのぉこの子は? ハンナ?」   ウリ 「うリィ?」


ハンナ 「国境の森で優と2人で拾ったの。 ウリ? ジーナさんよ? 私のお母さん」


ジーナ 「まぁ。 こんなかわいい子が落ちてたの? まぁ!」


ジーナがウリのほっぺに触る。 そして、ダンテを見る。


ダンテ 「新しい仲間だ、ジーナ。 その子に害はない。 ああ、それどころか、みんなを守ったよなウリ?  ハンナに近づこうとした奴もやっつけたもんな」


ウリはダンテに言われて、胸を張っている。


ジーナ 「フフフ、かわいいわね。 そうなのぉ? ウリは強いのね。 変わってるけど、かわいいおめめねぇ」


ナト 「ぼくと、友達になったんだよ」   ジーナ 「へぇ、凄いね。 この子はナトとお友達になれるくらい頭がいいのね?」


ナト 「うん!」   ジーナ 「よろしくね? ウリ?」   ウリ 「ディア!」   ジーナ 「ハンナとナトのママよ」


ジーナ 「積もる話はたくさんあるけど、みんなちょっと待ってくれる?」


明るく話しまくるジーナに、ハンナが暗い表情を見せた。


ハンナ 「ジーナさん、1つだけ… サテラさんは… どうしたんですか…?」


ナト 「ハンナ姉ちゃん、サテラおばちゃんはママと一緒だよ?」


ハンナ 「えっ? あっ、どういうことですか?」


ジーナ 「ハハハ、そうなの。 ちょうどそのことよ、ハンナ。 ナトは男の子だからダンテおじちゃんと向こうを向いてて? いい?」


ナト 「わかった!」   ダンテ 「あっ、ああ。 いいぞ」


ハンナが『??』となっている。 ジーナが胸元の服のボタンを外して地面に両手をつくと、銀色の液状化したサテラがジーナの体から剥がれ落ちた。

サテラは地面に横たわった状態で元の姿に戻った。 ハンナが『サテラさん!』と大きな声を出した。

サテラは素っ裸のままで起き上がると、気分が悪そうに何回か嗚咽した。 ハンナとジーナがサテラの背中をさする。

ジーナが服を鞄から取り出して着させている向こうで、アリスが絶句している。


サテラ 「…ありがとうございます... ジーナさん、ハンナも… アリスさん、初めまして。 サテラです」


服を着てフラフラと立ち上がったサテラが、アリスに頭を下げる。


アリス 「いえいえいえ、やめてください。 サテラさん。 わたしは年下です。 アリスと呼び捨ててください」


サテラ 「… あっ、いえ――」


ジーナがサテラに助け舟を出す。


ジーナ 「ハハハ、アリス。 サテラのことは気にしないで。 すっごい、人見知りなの。 サテラがため口なのは、ハンナに対してだけなの」


ジーナは、『サテラはナトにまで敬語なのよぉ』と可笑しそうに付け足した。

サテラは少し恥ずかしそうに、『気にしないで下さい』と頭を下げた。 アリスも座ったまま姿勢を正して頭を下げる。



優が戻ってきた。 そして、ハンナの期待通りに、突然現れたサテラに驚いている。


優 「お久しぶりです、サテラさん… あの…?」


サテラが頭を下げて、ハンナが『驚くわよねぇ』と言う。 『あとで、教えてあげる』とハンナが笑う。 それで、優も用を思い出したようだ。


優 「とうさん、ここの裏から登れるよ。 馬車は無理だけど、ジルガスは登れそうだ。 あと、残念だけどこの辺りに水場は無さそうだ」


ダンテ 「わかった。 よし、ナトと優とオレは見張りだ。 その間に女性陣は、体を拭くなりして着替えてくれ。 馬車の水タンクは空になってもいいぞ。 俺らは予備のポリタンク2つあるから、気にせず使ってくれ」



日没の迫る中、一同は忙しく野営の準備に取り掛かる。 国境から70㎞、追手の姿は今のところない。



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