表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/61

#00 ベレとコール

ベレとコールのお話です。

アリスとの関係について書いてみました。

川辺



  ハンナとナトが中くらいのバケツとスコップを持って元気に駆けて行った。 


  優は荷物を降ろして一息ついてから、コールたちのいる小川の方へ向かった。

石が積まれて溜め池の堤防が作られている。 そこを少し下ったところに、コールたちはいた。

  ベレの方は左手が使えないのでどっかりと座り、コールがスクウォルの下処理をするのをみている。


  皮の胴着を脱いで短パンとTシャツ姿のアリスもいて、短剣で皮を器用に剥いでコールの前に積み上げていく。

あっという間にスクウォルはアリスの前からなくなった。

短剣を川の水ですすいで『遅いわよー』とコールに小言を言い残して、優と入れ違いにアリスは広場へ戻っていく。

  アリスは、ダンテが馬車の近くで焚き火台を組みなおしているのをみつけたようだ。


  優もベレと同じで左手が使えないので、ここでも出来ることは特になかった。

あいさつ代わりに『大変ですね』と2人に声をかけた。

優にそのつもりはなかったが、今朝のこと優の前で“お叱り”をくらった2人は、そのことと勘違いしてしまった。


『お嬢は黙ってれば可愛いんだけどなぁ』とこぼし、苦笑する2人。

『今朝はだいぶ絞られましたね』と優も合わせて苦笑した。

『まぁ、でも、やっちまったオレらが悪いんだけどな』と2人とも自己嫌悪したが、照れ隠しなのか、またすぐにアリスがいなくなったのをいいことに、へらへらとし始めた。


  今朝のアリスの剣幕は確かにすごかった。

ハンナにケガを診てもらいながら、へらへらしていたのが気に食わなかったのか、隣に居合わせた優まで怒られた気分になってしまったほどだった。

  だが、アリスの剣幕も尤もだ。

事実、もしも医療技術のあるハンナがいなかったら、ベレなどは今頃笑っていられる状態ではなかっただろう。



ベレとコールの身の上



  2人はアリスとアリスの父親に命を救われた身の上なのだと話した。


  アリスの父はルッド侯爵と呼ばれており、彼らは優くらいの年の頃に最西端の町で路上生活をしていた所を拾われ、軍へ入隊するための世話までしてもらった。

  そして、その数年後には国防線は引き上げられ、最西端の町とそこに住まう人々はアウトフィールドへ沈んだ。


  ルッド侯爵はアリスとは“反対”で、いつも温和で物腰の柔らかい人柄だったという。

優の知っていたアリスも、温和でいつもにこにこしているイメージが強かったのだが、今朝のアリスを思い起こせば、2人のいうアリスのイメージは“正しい”のだろう。 彼らは長年アリスといるのだから。



  彼らと同じ時期にルッド侯爵に拾われた若者たちはたくさんいた。

しかし、その中でも2人は他人の何倍も出来が悪かった。

軍の初期入隊試験に何度も落ち、最長で4年の入隊前の訓練期間も終わってしまい、さながら廃棄処分されるかのように、当時盛んに研究されていた魔導歩兵の実験体コースに並ばされていた。

そこを今度は、ルッド侯爵の娘のアリスに拾われた。


  その時すでにアリスは母方の姓を名乗っていて、2人はSlaptas家が爵位を剥奪されていたことを知った。

そして、彼らの大恩人であるルッド氏も没した後だということをアリスから聞かされたのだった。



  アリスにしてみれば、面識のあったこの2人が亡き父の形見の様に思えたのかもしれない。

不出来だとは知りつつも放っておくことができず、アリスは2人を引き取り、アリスに残る最後の肉親だった祖父を頼り預けた。

一縷の望みをかけて。


  しかし、魔剣士だった祖父の扱きの甲斐もなく、2人はアリスの期待を上回ることはなかった。

それでも、祖父の没後、エリート官僚にまでのし上がっていたアリスは、2人を雑用も兼ねた側近の護衛として取り上げたのだった。



  ベレとコールはその頃のことを思い起こす。

2人が配属されてからのアリスは、日を追うごとに今とは別人のようになっていったらしい。

アリスは一旦公務を離れると暗く冷たく無表情になり、声を聞き取るのでさえ苦労するほどにその存在は希薄になっていったのだとか。


  心配する2人には何も語らず、人払いをして自室にこもると、アリスはよく物思いにふけった。

時々アリスから私用を頼まれる2人は、アリスが身辺整理を進めているのを見て、自ら命を絶つ準備をしているようにしか思えなくて、気が気でなかったと言う。


  その頃から比べると、少々叱責を受けようが無下に扱われようが、今のアリスがいてくれるだけで嬉しいのだと言う。



  そしてある時、 どこからともなくダンテがそこに現れた。

護衛の2人にアリスとの面会を求めたとき、ダンテはルッド侯爵の所縁の者だと名乗ったらしい。

  ダンテにとってもルッド侯爵は恩人だったようだ。 


  それからというもの、ダンテは頻繁にアリスの元を訪ねるようになり、2人で長らく話し込むようになった。

護衛の2人に、『もし訪ねてくる者があっても来客中だから通すな』と言い残し、密かにダンテと共に出かけることも多くなった。


  しばらくして、建国記念日の翌日。

アリスの遠縁で、貴族院で法相まで務めたことがあるヴィセス公が、事故死したとの知らせを2人は受け取り、アリスに届けるために彼女の執務室のドアを叩いた。 だが、知らせを受けたアリスは、特に驚きはしなかったという。


  当時弘報でも、ヴィセス公は自宅の書斎の床が抜けてそのまま地下1階にまで落ち、瓦礫に埋もれて身動きができない所に配管から漏れた水が溜まり、溺死した状態で発見されたと伝えられた。

  策略家で政敵も多かったヴィセス公の死については方々でいろいろな憶測が飛び交った。

しかし、検視官の見立てでも崩落の原因は床材の老朽化だということが証明され、しかもそのことが事件の数年前に点検に入っていた業者の報告書にもあったことから、事故死と断定された。

  『ヴィセス公は、自宅の修繕費をケチって死んだ』というところで噂話も落ち着いた。


  ヴィセス公の葬式から程なくして、アリスは劇的に生気を取り戻し、以前のように明るくなったのだと2人は言った。

ヴィセス公の死が、アリスが回復したことと関係があることは間違いないのだが、しかし、ダンテもアリスも何も教えてはくれなかったらしい。


  こうして、アリスは完全に以前のアリスに戻った。

それでも2人に言わせると、Steigmaの空気は汚れていて、アリスの住むべき場所ではないのだとか。

  だから、アリスを王都から連れ出してくれたダンテには、とても感謝しているとも言った。


  2人は物思いにふけっていた。

アリスが生きてくれているだけで嬉しいのだと、もう一度2人はうなずき合った。

例え自分たちが何の役に立てなくても』とも…

  優はコールの手が止まっていることに気が付いたが、時すでに遅かった。


  ベレとコールの直ぐ後ろでアリスの声がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ