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#06 静かな夜

今回はほんの少しだけ、hな感じです。 そして、長いです。

ジーナの助言



アリス 「久しぶりのいいお湯だったー。 生き返るわー」


ハンナ 「ふふっ、そうですね」


アリス 「ねぇ! わたしたち、明後日にはここを離れる予定なのよ」


ハンナ 「ええ、それが何か?」


アリス 「もったいないわよ。 お風呂も持って行けたらいいのに」


ハンナ 「ああぁ、それはホントですね。 こんなにいいものをおいていくのは忍びないですね」


アリス 「でしょう?」   ハンナ 「ええ、ホントに」   アリス 「ねぇ?」


アリス 「後で、こっそり優君と2人で入りに来たら?」


ハンナ 「また、それですか?」


アリス 「そうよ。 そしたら、ここは思い出の場所として残るでしょ?」


ハンナは『はいはい。 そうですね』とあしらって相手にすることをやめたようだ。

テントの方から、ナトとウリの怒鳴り合う声が聞こえてきた。 ハンナは、アリスに仲裁を頼んで調理場に立った。 晩御飯の支度だ。


  日もすっかり暮れて、遠慮がちに灯された広場の灯りが、足元を照らしている。

ナトとウリの喧嘩の仲裁には、先にダンテが行っていた。 テントからはまたすぐに、ケタケタケタと子供たちの笑い声が聞こえてくる。

  

  ベレとコールが半裸で風呂場へかけて行った。

南の空も、そびえ立つ北の壁も変化はなかった。 雲一つない星空が広がっている。

平穏な時間は、もう少しだけ続くのだろう。



  夕食は干し肉とベレたちがとってきた山菜の炒め物、同じくベレたちがとってきた芹のおひたし、ガーリックスープ、そして白米と暖めなおしたお昼の残りのパスタだ。 ハンナはテーブルの中心に大皿をおいて、バイキング方式にした。

ハンナがテーブルについた時には、ウリはダンテの膝に座って、小皿に小さくしたのをもらって食べていた。

『食べさせて大丈夫なんでしょうか?』という、ハンナの質問にダンテが答えた。

ウリに『イイっ』と口を開けさせてハンナに見せて、歯があるから大丈夫だという大雑把な根拠で『大丈夫だ』と言った。

ダンテ曰く、ウリの歯は雑食動物のもので、人のものと同じらしい。 ウリは『ヴぁアキー』と喜んで食べていた。

ナトとウリは、一通り食べたらまたテントに戻っていった。


首からタオルをぶら下げたベレとコールが戻ってくるのを合図に、大人たちの夕食は始まった。

アリスはナトの座っていた席に座り、ハンナに目配せしながらダンテにワインを勧めていた。


ダンテ 「食べながら、聞いてくれ。 0日が明後日に迫ってる。 だが、これは、あくまで予想だ。 外れる可能性がある。 そこでだ。 何かの理由で別行動をとっていても、防壁には気を配っていてくれ。 本陣は防壁が消え次第、速やかに準備を整えて外にでる。 何があるかわからないから、音などで馬車の出発を知らせることはしない。 そのつもりでいてくれ。 防壁が消えていたなら真っすぐにここに戻り、馬車がなければアウトフィールドへ向かえ。 外側の道は、西に500mのところにある」 


ダンテ 「あと、今夜から見張りを男性陣で行おう。 見張り台を北側の杉の木の上に作ってあるからな。 そこで、3時間交代でどうだ。 この後、オレが9時までやるから、その後を頼む。 以上だ。」


『『『 はい 』』』 と優たちが答えた後で、ハンナが手を上げた。


ハンナ 「わたしも出ますから、ダンテさんは休んでください」


ダンテ 「いや、こういうのは男の仕事だからな――」


アリス 「ダンテさんは、今日はお疲れでしょ? お風呂を作ったりいろいろと大変でしたから、お風呂に入ってお休みください」


ハンナ 「そうですよ。 今日だけでもわたしにやらせてください」


アリスがにこにこしながらダンテにワインをつぐ。 『そうか?』と聞くダンテにアリスは大きくうなずく。


アリス 「ベレとコールも、食べたら休んで。 今日はあなたたちも疲れてるだろうから、1時までわたしとハンナで見張りを引き受けるわ。 時間になったらコール、ベレの順番で起こしに行くから、それまで寝てなさい」


『わかりました』  『了解っす』



  食後にあくびをしたダンテは、アリスに勧められてお風呂に向かう。 先にアリスに言われて、お湯を沸かしていた優も戻ってきて『オレは最後でいいよ』とダンテにゆずった。 

しかし、お風呂と聞きつけて、テントで跳ねまわっていたチビたち2人が出てきてしまった。 そして、大声で笑うダンテについて、今日2回目のお風呂に行ってしまった。 




  夕食を片したハンナが先に、見張り台の上にいた。

昨日までと違って今日は夜になってもあまり冷えてこなかった。 湿度を含んだ北風がゆっくり吹いている。 天気の変わり目なのだろう。

月の光に照らされて、雲が南に流れていっているのがわかる。 星はあまり見えない。

そこへ、トントントントンと登ってくる音が聞こえた。 優がアリスに言われてやってきた。

『あと一人乗れる?』  『うん、大丈夫。 乗れるよ』


優 「おおお! 高いね」   ハンナ 「はは、うん。 ちょっと、見張りを引き受けたの後悔した」


優がそれを可笑しそうに笑う。

ハンナがもたれかかっていた背中を開けて『ここ』と言った。 優はハンナを後ろから抱くように座らされる。


ハンナ 「師匠が?」   優 「あっ、うん。 父さんが風呂から出たら教えるから、行ったらって」


優 「正直さ、アリスさんと2人はキツイから、逃げてきた」


ハンナが『ふふふふふっ』と笑い声を漏らす。

ハンナは不器用に居場所を探す優の手をつかまえると、自分のおなかに回した。

『うわぁ、優の手冷たいね』   『…うん。 でも、いつもこんなもんだよ?』

『暖めてあげる!』 そう言ってハンナは優の両手を自分のTシャツの中にいれた。

また『ふふっ』と笑って、『ねぇ、びっくりした?』と優に聞いてくる。

『うん、心臓がすっごくうるさい』   『はははッ、正直ね。 ちょっと楽しいかも。 優をからかうのって』

優も楽しそうな声を上げる。 『ドキドキしてる自分が可笑しい』と言って笑う。

『ハンナはこういう時、大胆になるよね?』 優が思い出したようにまた『ふふふっ』と笑う。


ハンナ 「ああっ! この前のこと?」   優 「ふふっ、そう!」


『年上はからかっちゃダメなんだよ?』   

『えっ? それって、ずるくない?』   『ダメなの!』

『ハハハハハ、アリスさんがうつっちゃってる』 『 … 』  『ハハ、いいよ』


ハンナ 「ねぇ? この前… 私の裸。 どうだった?」


『ブッ』と優が吹き出す。 『そんなにストレートに聞く? それ』 また、笑い出す。

ハンナが『んん、もう! 真面目に聞いてるの』と少し怒る。

『えええ? それ、答えなきゃダメ?』 『…うん』 『この体勢で?』 『うん』


優 「あぁ...ぅん、キレイだったよ。 真っすぐに見れないくらい」


ハンナは『...よかった』と答えた。


『…ねぇ?』   『ん?』   『私のこと好き?』

『ふふっ、聞こえない―― グっ!』 ハンナの肘が優のおなかにキマった。 ハンナはこの体勢での攻撃の仕方を思いついたようだ。

『っ―― えええ? 言わなきゃダメ? 年上の方が先に言うんじゃないの?』 優はおなかに力を込めている。

だが、ハンナの肘は来なかった。


ハンナ 「…わたしは、優のことが好き…」


優 「えっ? ごめん… ホントに言うと思わなかった」


ハンナ 「わたし、言ったよ?」


優 「あ、あぁ。 オレもハンナのことが好き」


ハンナ 「ふふっ。 本気であわててた。 じゃぁ、ねぇ―― キスして? 今度は優の方から――」


そう言ってハンナは振り返った。

『ちょっと待って。 いいの? アリスさんが見てるかもよ?』

ハンナはまた『ふふっ、絶対見てるわね』と笑って、目を閉じた。




  下でアリスの声がして、『あとで』と優は言い残していなくなった。

ハンナの時計は09:20。 あと40分でアリスと交代だ。


  トトっとかすかな音がして、わずかに空気が動いた。


ハンナ 「師匠。 まさか、この高さで脅かしてきたりはないですよね?」


アリス 「ははは。 優君と同じであなたにも見えてるの?」


ハンナ 「何がですか?」   アリス 「あぁ、そうじゃないならいいわ」


ハンナ 「師匠」   アリス 「何?」   ハンナ 「ありがとうございます」


アリス 「あら? 素直ね? 良かったわ、喜んでくれて」


ハンナ 「でも、見てました?」   アリス 「ええ! もちろん」   ハンナ 「 … 」


アリス 「新鮮でいいわぁ。 ちょっと妬けてきちゃうけど、それがまたいいのよぉ」


ハンナは『ははは...』と乾いた笑い声を出す。

アリスは何故か胸を張る。 


アリス 「優君、さっきわたしと目が合って、真っ赤だったわ」


『そうですか』と乾いた声でハンナは返す。

アリスは楽しそうに話し続ける。 『わたしはもうてっきりあなたたちはそういう仲なんだと思ってたのだけど、違ったのね?』

ハンナが面倒くさそうに『何回も言いましたけど』と返す。 アリスは、『ははは、そうなのねぇ』と軽い調子で言う。

『そうね』とアリスはつぶやくように言うと、少し改まった。


アリス 「ハンナ? 面倒くさいと思われてるかもだけど、聞いてくれる?」


ハンナは、突然に態度を変えたアリスに驚いて『あっ、はい』と答えた。


アリス 「これはね。 あなたの師匠というよりは、1人の… あなたより長く生きている女性としての言葉だと思って聞いて?」


ハンナ 「はい」


アリスは、すうっと息を吸ってゆっくりと話し出す。


アリス 「この世界は、あなたが思ってるよりも、ずっとずうっと残酷な一面があるわ。 特に女にはもっと厳しい…」


アリス 「わたしもがむしゃらに、必死に生きていた時もあったから、色々と経験したわ。 女としてのそういうのもね。 だからこそ、あなたたちにみたいな若い子たちには同じ目にあってほしくないって思うの」


アリス 「でもね、わたしやダンテさんがいくらそれを望んでも、この世界がそれに答えてくれるとは限らないの。 正直、わたしは、あなたたちのことを守り切る自信がないわ。 この世界が牙を向いたら、わたしたちは立ち所に呑まれてしまう」


アリス 「そして、今は国が亡ぶほどの危機をわたしたちは生き延びようとしてるの。 大変なことよね?」


ハンナ 「 … 」


アリス 「あ、ごめんね、ハンナ。 脅かすつもりじゃないのよ」


ハンナ 「いいえ、師匠。 大丈夫です。 わかります。」


アリスは少し顔を伏せると、態度を元に戻した。


アリス 「だからね? ハンナ。 わたしは楽しい時くらいは、わがままに生きてもいいと思うの。 明日1日休んだら、サバイバルが始まるのよ? また今みたいにほっとできるのは、何ヵ月も先なのよ? ね?」


今度は、ハンナの方が態度を改めていた。


ハンナ 「師匠。 今までの態度を謝ります。 師匠の気も知らず、横柄な態度をとってしまって申し訳ありませんでした」


『ははは。 いいわ、ハンナ。 わたしは気にしてないし』 とからっと笑って返した。


アリス 「でも、わかればよろしい! じゃ、見張りを変わったげるから、行きなさい」


ハンナ 「えっ? どこにですか?」   アリス 「決まってるじゃない。 お風呂よ」


ハンナ 「何を言ってるんですか?」   アリス 「…何を聞いてたのよ?」


ハンナ 「ダンテさんも言ってたじゃないですか、その...」


アリス 「確かに、今は大変な時だから、子供ができるようなことはダメだけど、思い出を作ることはできるでしょ? 女の幸せはそれなしでも叶うはずよ?」


ハンナが顔を真っ赤にしているのは、暗闇でも容易に想像できる。


ハンナ 「そんな... も、もし、優の方が... その... がまんできなくなったら、どうするんですか...?」


アリス 「優君は大丈夫よ。 わたしが保証してあげるわ。 それに、あなたも元貴族の娘でしょ? いざという時の“作法”くらいわかるでしょう?」


ハンナ 「それは、そうですけど…」


アリス 「急がないと、優君が出てきてしまうわ。 さ! 行きたいんでしょ!」




しばらくして、風呂場ではこんな会話が交わされていた。


ゆ 『ど、どうしたの?』   


ハ 『あ、あの、師匠に説得されてしまって... 入ってもいい?』


ゆ 『あ、うん。 後ろ向いてるから』   


ハ 『 ... 』   


ゆ 『でも、どうしてこんなことになるの?』


ハ 『あ、あつっ!』   


ゆ 『ごめん! …熱いのが好きだから…』


ハ 『ん、ううん。 ビックリしただけ... 隣に行ってもいい?』


ゆ 『うん』


ハ 『明かり消してもいいよね?』


ゆ 『うん』




ハ 『静かね』


ゆ 『うん』


ハ 『ねぇ、もうちょっと、くっついても平気?』


ゆ 『うん、はは。 我慢するし、大丈夫だよ』


ハ 『へへ、ありがと』


ゆ 『ううん』


ハ 『わたし、一回優とこうしてみたかった』


ゆ 『…2回目じゃない…?』


ハ 『あの時は、私だけ裸だったでしょ?」


ゆ 『あぁ、そっか。 そうだね」


ハ 『うん… 師匠がね、明後日からまた大変な日々が始まるから、今のうちに楽しんどけって』


ゆ 『ふふっ、アリスさんらしいね』


ハ 『でしょ? でも、私、師匠に感謝してる?』


ゆ 『 そう…? 』


ハ 『うん。 私、今すごく幸せ。 ふふふっ。』


ゆ 『うん… いいね。 こういうの』


ハ 『…あっ、ダンテさんに言わないでね? これ』


ゆ 『ははは... 言えないよ、ぶっ飛ばされる』


ハ 『それも、そうよね... フフフ』


ゆ 『あっ、 熱かったらお水入れるよ?』


ハ 『大丈夫、慣れた』


ゆ 『 … 』


ハ 『ねぇ…』


ゆ 『なに?』


ハ 『ジーナさんが、私に言ったこと覚えてる?』


ゆ 『えっと…? いつ?』


ハ 『初めて優と会った時』


ゆ 『あぁ、なんか覚えてるな。 何だっけ?』


ハ 『チャンスがあったらかじっとけってあれ』


ゆ 『ああ、それだ。 何だったの?』


ハ 『いいかな?』


ゆ 『えっ...?』


ハ 『ちょっとだけ、 かじってもいい?』


  宿営地の夜は静かに更けていった。



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