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#06 お風呂

お風呂



ハンナ 「コラぁ! ウリっ!!」


また、頭をペシッと叩かれて凹むウリ。


ハンナ 「この人たちは、バボルじゃないの! 仲間よ、な・か・ま! 下僕にしちゃダメ!」


ウリは怒られながら、目をシバシバする。

そこでやっと、ベレとコールは『ハッ』と気が付いて辺りを見回す。

ハンナのお説教はまだ続く。 ウリを掴んでベレの左腕の包帯に近づける。

『見て! ベレさんは、ケガしてるのよ! ――』


アリス 「ねぇ、優君? 説明してもらえるかしら… バボルって?」


優 「…はい。 オレたちがウリを見つけた時に、ウリはバボルに相撲をとらせて遊んでました…」


アリス 「――バボルって... 虫よね?」   優 「はい。 そうです…」


ナト 「えっ? バボルどこ!?」


アリスが、頭を抱えながら言う。 『…ナト君。 バボルはここにはいないけど、代わりにベレとコールがあそこにいるわ』

突然、優とアリスの話を聞いていたダンテが大声で笑い出す。 

『はっはっはっはっは。 これがウリか。 面白いじゃないか!』

ダンテはナトを抱えたままハンナたちの所まで行って、『まあまあ』とハンナをなだめてウリを引き取った。

そして、『よし! 風呂だ。 タオルと石けんを頼む』と言って、ナトとウリを連れてお風呂場へ下りていった。

  ダンテはウリのことをいたく気に入ったようだ。



  桶に付けられたウリは、ぱちゃぱちゃと水面を叩いて遊んでいる。

先にナトが体を洗われて、湯船に放り込まれた。

『どうだ、ナト? 気持ちいいだろ?』  『うん』  『よし! じゃぁ、次はお前だ』

ダンテは洗剤の入っている方の桶にウリを移して、ゴシゴシとイモ洗いする。 『ウリ、痛くないか? 大丈夫なら、手を上げてくれ』 ウリがころころ回されながら、『プハーっ』と息を吸って片手を上げる。 ダンテは嬉しそうに『ハハ、そうか!』と声をかける。


ダンテ 「ハンナ、優、見てくれ。 こんなにきれいになったぞ」


タオルを持ってきていたハンナと優が笑う。 ウリは汚れていたようだ。 濃い緑色から、“きれいな緑色”に変わった。

『ふふふっ、いいねぇ、ウリ?』 ハンナが声をかけると、ウリは『ヴうウリィ』と言ってまた手を上げる。


ダンテ 「よし、終わりだ。 ウリには風呂は深すぎるからここでいいな」


ダンテは、ウリの入っていたたらいにまたお湯をくんでウリをつける。 ウリは両手両足をたらいの縁にかけて、だらーっとだれる。

ダンテは笑いながら、『不思議な生き物だ』と言って楽しそうに見ていた。



  しばらく見ていたダンテは『優。 後を頼めるか』と言って、『オレは一休みだ』と広場に戻っていった。 少し遅い昼寝をするつもりらしい。

優は、2人の子守と焼き石を任された。 ナトとウリはお風呂の回りを走り回って、ケタケタケタと笑いながら遊んでいる。


ハンナ 「かわいいね、2人とも」   優 「うん」

ハンナ 「あっ、お腹空かない?」   優 「あっ」


ハンナが『ふふふッ』と笑う。 『山菜の卵サンドでいい?』  『うん、それ!』  ハンナが『作ってくる』と言っていなくなった。



  太陽がゆっくりと西に傾いて行っている。 2時間ほどで日が暮れるだろう。

ベレとコールの話声がして、優は下をのぞいた。 2人は安全のための警報装置を引いていて、優に気付いて手を振ってきた。


『やっほ!』 『見えてました』 『ええー? つまんない』

『打ち明けると、ここ何日かで、アリスさんの気配がわかるようになりました』

『ホントにー?』 

アリスが優を脅かそうとして、失敗した。


優 「あれ? そのかごはもうお風呂ですか?」


アリス 「はい。 ナト君たちが出たら入ろうと思って。 ダンテさんがどうせ長湯するんだから、早いうちから入ったらって」


そこへ、ハンナが小走りに降りてきた。 ハンナはかごを2つ持ってきた。


ハンナ 「お待たせ、優。 はい、卵サンド。 師匠もよかったら」


アリス 「わたしは、いいわ」


ハンナ 「あ、それと、これでいいですか? パンと干し肉とお酒」


アリス 「うん。 でも、もっと、少なくてもいいくらいよ」


ハンナ 「そうなんですね」   アリス 「“気持ち”だからね」


優は興味があって何のことが聞くと、御者の精霊への差し入れらしい。

アリスは『あとで運ばせるから置いておいて』とハンナに言った。



ハンナ 「さぁて、おチビさんたち。 そろそろ出ますよぉ」


そう言って、ハンナはタオルをもってナトとウリを呼び出す。 『どう? 楽しかった』 ピッカピカになったウリを優に預けて、ナトに服を着させる。


ハンナ 「お風呂入ったんだから、あんまりバタバタしちゃダメよ?」   ナト/ウリ 「はーい/ウリィ」


『なんか、すっごく仲良くなってる』とハンナが笑う。


ハンナ 「優、悪いけどウリとナトをテントまで連れてって? 私と師匠はお風呂にするから」


優 「ああ、お風呂、ちょっと待ってて。 お湯がぬるくなってるから、戻ってきて丸石を変えるから」


ハンナ 「あぁ、それじゃぁ、わたしが連れて行くわ。 優はこっちお願いね」


ハンナはウリを受け取って、ナトと手を繋ぐ。


アリス 「ハンナ? 優君の着替えも持ってきてあげたら?」


ハンナ 「師匠? 敢えて聞きますけど、どうしてですか?」


アリス 「ほら、背中を流してあげたり、流してもらったりするじゃない?」


ハンナ 「師匠も私と入るんでしょ?」


アリス 「わたしはいいわよ? もうこの年だから、優君に見られても減るものなんてないわ」


優 「オレが困ります!」


アリス 「そう? じゃぁ、わたしが入るの待ったげようか?」


ハンナ 「はいはい、師匠もその辺で。 ダンテさんに言いつけますよ?」


そう言ってハンナは背を向けて、『アギゃ?』と聞いてくるウリとナトを連れて広場へ歩き出す。


アリス 「ダンテさんは、思い出は作ってもいいって言ってたわよ? ねぇ、優君?」


優 「 … 」   ハンナ 「 … 」


アリス 「わたしは、2人が思い出を作るまで、外で待っててもいいって言ってるんだけどなぁ」


優 「 … 」   ハンナ 「 … 」


優 「さて、丸石を交換しなくちゃ」


『ねぇねぇ、優君。 お話ししようよ?』  『恋バナ以外なら、お付き合いしますよ?』  『ええ!――』

優は、すこぶる面倒くさそうだ。

『そうだ、アリスさん。 魔法について教えてくださいよ。 オレも知識として、知っておくべきだと思うんで』

『うーん、今はしんどいな。 また今度… あっ、それはハンナに仕込んでいくから、ハンナから教えてもらいなさいよ』

優は『しんどいのはオレだ』という顔をしている。


アリスは昨日から魔力を回復するための期間に入っていて、ダンテにほとんど何もさせてもらっていない。 そして、肝心のダンテは今、お昼寝中だ。 退屈なのだ。 平たく言って…

自己中心的なのは元深窓の令嬢の悪いところだ。 この1点において優は、いつもアリスの近くにいるベレとコールには大きな尊敬の念を抱いている。

丸石を風呂から出して、適当に焼けてる方と取り替えたら、優はそこから逃げ出した。

『御者のおじいさんのところに届けてきますね』と紙袋を持って走り出した。



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