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#06 ウリ

けんかと仲直り



ハンナたちがウリともめていた頃、風呂場のかまどには火が入れられていて、石が焼かれていた。


お湯が沸くのを楽しみにしていたナトは、今はテントでお昼寝中だ。

はじめの方は水に落とされた真っ赤な石が『ブシュ―――』と湯気を出しながら沈んでいくのを面白そうに見ていたのだが、ナトが思っていたようにお湯が沸かないらしかった。 何度も何度も、石を焼いてはお湯を温めていく地道な作業に飽きて寝てしまった。

石は一度に60個ほど投入され、次の石が焼けあがったらまた水から取り出されてかまどに戻される。 

かまどの2階部分には、何順か目の丸石が天上付近までいっぱいに積まれていて、下の方が赤くなり始めていた。

日はまだまだ高いが、夜になると冷え込むから、昼間の内から湯を沸かしておくことにしたようだ。

夜には十分に温まったお湯を保温するだけに石を投入するようにしたいらしい。 アリスになるべく魔法を使わせたくないダンテの工夫だ。


ダンテは、火の番をバテバテのベレとコールに任せて、湧き水の下にもう一つ溜まり水を作るための工事に取り掛かっていた。 たまっている洗濯物を洗うための場所だ。

アリスは風呂の温まった上の水をくみ取って、大きな桶にためてそこに洗剤を入れて、洗濯物をつけ込んだ。

その上からアリスは、ガウチョパンツの裾を目一杯引っ張り上げて洗濯物を踏んでいく。 お湯で多少の揉み洗いをして、ダンテが作っている溜まりの湧き水に一晩さらすつもりらしい。

日当たりの良いところに、干すためのロープは張っているが、それが使われるのは明日だ。

   

1回目の洗濯物の桶をアリスが頭の上に乗せてダンテのもとまで下りてくる。

『ちょうど、終わったとこだ』と言って、桶を受け取って溜まりに洗濯ものを入れる。 ひょうたん型に掘られた水溜まりは、ひょうたんの“口”の方から湧き水が出ていくようになっている。 アリスは小さい方の溜まりで服をすすいでから、大きい方に入れていった。


ダンテ 「大きさは、これで間に合うか?」   アリス 「ええ、十分です。 これで、余ります」


アリス 「残りの洗濯物は、この桶に3回くらいで全部です」


アリスは洗濯物をすすぎながら、ニコニコとダンテに言葉を返す。 アリスはこういうのが好きみたいだ。


アリス 「あっ、そう言えばあの2人は遅いですね」   ダンテ 「あ、ああ。 2時間くらいか?」


アリス 「ええ。 でも、優君がついてるから、大丈夫ですね」


明るい声を響かせながら、アリスが風呂場までダンテと戻ってくる。

ダンテから桶を受け取って、洗濯の続きをする。 アリスが桶によごれものを移すと、2つあった洗濯かごの1つは空になった。

ダンテが『どうだ?』とベレに聞くと、『オレの肘くらいまでは、熱くなってますよ』と答えていた。

ダンテは『よしっ、仕事を終わらせよう』と気合を入れると、切り出してきていた松の木を斧で裂き始めた。 



『ハァ... やっと着いた。 思ったよりだいぶ遠くに行ってたのね、私たち』 ウリを抱っこしたハンナは、肩で息をついている。 『この子、けっこう重い』 そう言ってハンナは優にもたれかかる。


優 「ハハハ、だから言ったじゃん。 オレが持つって」


そんな優とハンナの後ろから、アリスがテンションの上がった声をかける。


アリス 「あっらぁー。 ずいぶん仲良しになって帰って来たんじゃなくってー? 何してたのぉ?」


疲れているハンナは、面倒くさそうに『あぁ、もう、うるさいです。 師匠』とあしらう。

だが、アリスはハンナに文句を言う前に、ハンナの抱えているものに気付いた。 『えぇぇええ! 何? 何なの、こ、子供ぉ?』 アリスの甲高い声が宿営地に響いた。 『すっごい、何それ?』 アリスのテンションはかつてないほどのMAXだ。

アリスが『わーきゃー』言っている向こう側で、風呂場への下り口から大きな咳払いが聞こえてきた。

『優、ちょっと来なさい』と優がダンテに呼ばれた。 突然のことで優は首を傾げるが、ハンナにことわってダンテの元へ向かう。

『ちょっと、行ってくる』  『えっ、うん』

優はハンナとアリスを置いて、風呂場の方へ何事かと下っていった。


アリス 「ね? 抱かせて? それ、大丈夫なんでしょ?」   ハンナ 「えっ? ええ、いいですよ」


ウリ 「ヴ...? うヴりぃ?」   アリス 「か、かわいいいい」


ハンナ 「わかりますか? 師匠も」


体力が戻ってきたハンナもテンションが上がり始めた。 ウリはアリスに抱かれて戸惑っている。


アリス 「ええ! もちろんよ、ハンナ」   


ハンナ 「私も初めて見た時、師匠と同じでした。 師匠も可愛がってあげてください。 名前はウリです!」


急に騒がしくなった宿営地の音に、ナトも目が覚めたらしい。 目をこすりながらトボトボと起きてきた。

でも、すぐにナトの高い声も響いた。 『何、その変なのー!? 見せて!!』


ハンナ 「ええ? 変? ウリっていうの。 かわいいでしょ?」


アリス 「ほらぁ、うりぃ。 ナト君だよぉ?」


アリスに抱えられたウリが、脇をもたれてナトに向けられる。

だが、ナトを見たウリの反応はアリスの時とは明らかに違う。 大きな目を細めて、斜めからナトを見ている。


ナト 「ねぇ? 抱っこしてもいい?」


アリスとハンナが答える前に、ウリが手を出した。 「ぺちっ」 小さな手がナトの頬をはたいた。


ナト 「えっ?」   ウリ 「グルッテナァ、ソガギぃ」   ナト 「こ、このやろう!」


ナトの方も手を出そうとするが、ウリはさっとアリスに抱き付いた。 アリスは『え?』と固まっている

『くっ!』 ナトがとどまると、『グルッテナぁ、そガギぃ』とまた言って『ケケクッ』と笑った。 ナトがまた怒って手を構える。

ウリが大きく目を見開いて、ナトに向けて魔法を発動しようとしたその時、『ペシッ』とハンナの平手がウリに飛んだ。

ナトが『うわぁぁぁ』とハンナの腰に泣きついて、ウリがハンナを見ながら目をしばしばさせる。


ハンナ 「ダメでしょ? 手を出したら? 魔法もメッ!」


ウリの大きな目にも涙が浮かんで、ウリはアリスに泣きついた。


アリスはウリの背中をトントンしながら『よしよし。 『変なの』って言われて怒ったのよね? でも、今のはウリが悪いわよ? 先に手を出した方が悪いわ』と言う。 アリスの優しい声にウリも『キアァァ』と泣き声を上げる。


アリス 「この子、魔法...?」   ハンナ 「えぇ、洗脳するような魔法を使います」


アリス 「… …何気にすごい子ね? 大丈夫なの?」


ハンナ 「えっと、私には全然効きません。 優はちょっと頭が痛くなる程度だって… でも、悪い子じゃないと思いますよ」


アリス 「ええ、ちょっと意地悪みたいだけど、かわいいから、いいわ」


ハンナ 「はい」


アリス 「よしよし、ウリ? 仲直りするわよ。 ほら」


アリスはそう言って、ウリをハンナに返した。 ウリはうつむいたまま、ハンナに抱かれて『オッジプラッシ...』と小さく言った。

ハンナはナトとウリの背中をトントンとして『もう、いいわよね?』と聞いた。

ハンナは腰を下ろして、ウリを膝の上に乗せてナトと目線を合わせる。 『はい、仲直りよ?』 ナトとウリは、頭を下げた。


ハンナ 「よっし! お風呂を見に行きましょ? 楽しみねぇ、ナト?」   ナト 「…うん」


アリス 「その子もお風呂入れるかしら?」   ハンナ 「どうでしょうねぇ? ウリも入ってみる?」


ウリはコクコクとうなずいてみせる。


アリスとハンナは、子供2人を連れて風呂場へ向かった。



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