#06 宿営地
宿営地の風景です。
宿営地
宿営地には5つのテントが立てられた。 1つの簡易タイプのテントは調理場で、残り4つは就寝用に使われる。
組み立て式のベッドが組まれて、薄いエアマットの上にラグマット、その上に柔らかいウレタンマットを敷いてシーツをかぶせて出来上がり。 さっそくナトがのって飛び跳ねる。 子供の特権だ。
ダンテ 「ナト、仕事を頼めるか?」 ナト 「えっ? 仕事?」
ダンテ 「そうだ、仕事だ。 誰か誘ってこの麻袋に松ぼっくりをいっぱい拾ってきてくれ」
ナト 「わかったー」
ナトが麻袋を2つもらって、ハンナたちの方へかけていく。
アリスが『子供の扱いが上手ですね』と言って笑う。
『優! ついでに薪も頼む』 ダンテが声を上げる。 優が荷物を運ぶためのラックとロープをもって手を振る。
ダンテ 「ベレとコールは引き続きベッドの組み立てを頼む。 それが終わったら、12本、柱になりそうな木を切って水場まで持ってきてくれ」
ベレ 「わかりました。 斧を使います。 長さはどのくらいあれば?」
ダンテ 「ああ、使ってくれ。 2mより長ければ十分だ。」
コール 「竹でもいいっすか?」
ダンテ 「おっ、そうだな。 全部竹で十分だ。 じゃぁ、多めに頼む」
ダンテとアリスは、湧き水へ露天風呂を作るために下った。
岩の間から湧き出た水は、針葉樹の木々の間を流れて低地の藪の中へ続いている。
藪までの間は岩盤で、傾斜の角度もきつい。 『うわぁ、お風呂を作るには、ちょっと厳しそうですね...』とアリスがつぶやく。
『ベレたちに上まで水を運ばせましょう』とダンテに言う。 風呂をあきらめるという選択肢はないようだ。
ダンテが『ハハハ』と笑って、『それは可哀そうだ』と答える。
そして、『やってみよう。 少し離れていてくれ』とダンテは言って、静かに錬を練って強化系の気武を発動した。
湧き水の出ている場所から2mほど横に移動して、50㎝ほど上の岩の隙間にバールを差し込んでひねる。 ボコボコっと岩が浮き上がり、剥がれた岩を下に転がしていく。 これを数回繰り返すと、傾斜の途中に平らな場所ができた。 『もう少し、広げよう』
10分くらいの作業で、3m幅の5mの長さの広場ができた。 『すごいです』 と喜んでいるアリスに、ダンテが聞く。 『風呂の大きさはどうしようか?』
アリス 「“できれば”ですが、2人で足を伸ばして入れるくらいは可能でしょうか?」
ダンテ 「そうだな、2人となれば、燃料の制限が出て来るな。 足を伸ばすとなると、浅くなってしまうがそれでもいいか?」
アリス 「ダンテさん、わがままを言ってもいいですか? 熱量の足りない分はわたしに魔法を使わせてください」
ダンテ 「ハハハ、わかった。 そうだな。 じゃぁ、石焼き風呂にしよう。 これなら、ある程度は保温が効くはずだ」
ダンテはバールを器用に使って、広場の湧き水から遠い方に長さ2mx幅1,5mx深さ0,5mの穴を掘った。 そして、湧き水に面している1,5mの方の面を、さらに50㎝ほど深く掘り下げた。 焼き石を投入するために、はじめから深く作っておいたのだ。
作業時間はこれも、ものの20分程度。 そして、焼き石を投入する穴の近くの石の土手をもう少し掘り出して、そこに石を焼くためのかまどを作った。 かまどは2階建てになっていて、1階は燃料、2階は石を入れるスペースで、天井は熱が逃げにくいように狭められている。
竹を運んできたベレたちが『すげぇ、もう出来てる』と驚くのも無理はない。 あっという間に露天風呂の基礎は出来上がっていた。
『すごいっすね、ダンテさん。 もう出来てる』 というコール。
ダンテ 「ああ、竹はそこに立てといてくれ。 次は水漏れしないようにするために、粘土が必要だ。 できれば、クドゥラスの巣の土がいいんだが、わかるか?」
首をかしげる2人にアリスがため息をつきながら、『わたしが行ってきます』と言った。
ダンテ 「ああ、頼む。 バケツに半分もあれば足りる。 じゃぁ、代わりにベレとコール。 河原で丸石をたくさん拾ってきてくれ。 できるだけ大きい奴がいい」
汗をかいた2人は顔を見合わせるが、『行くわよ!』とアリスの一喝で頭を下げていなくなる。
一人残ったダンテは、ゴリゴリと露天風呂の内側の石の角を削っていく。
ハンナ 「ナトはお昼ご飯何がいい?」 ナト 「えっと… きのこ!!」
ハンナ 「ははは、ナトはそればっかり。 じゃぁ、ボルチーニクリームパスタね」
優 「うーん、それだとまた、おなか空くかも」 ハンナ 「えっ? 今日は修行しないってダンテさん言ってなかった?」
ハンナ 「まぁ、でも、おなか空いたら言って、その時何か作ったげるから」 優 「うん」
優たちが薪をもって広場に戻ると、ダンテのところへ行こうとしていたアリスが、手を振った。
アリス 「みんな! おいで、すっごいお風呂よ!」
アリスのテンションが高い。
『あと、ダンテさんが、薪はこっちだって!』 アリスが先に下りていく。
松ぼっくりを調理場において手ぶらのアリスとナトが下りていって、キャリーラックに薪を積んでいる優がゆっくり後に続く。
ナト 「わぁお、すっごい。 ダンテおじちゃんが作ったの?」
ハンナ 「すごいわねぇ、ナト?」 ダンテ 「はっはっは、今日は大きいお風呂に入れるぞ」
竹で作られた小屋があって、その中に風呂が出来上がっている。 ダンテが、岩の割れ目のパテ塗りを仕上げたところだった。
ダンテ 「アリス、今何時だ?」 アリス 「もうすぐ、10時半です」
ダンテ 「よし、いい感じだ。 ちょっと、休憩しよう。 お昼を食べたら水を入れて、水漏れがなければ完成だ」
ハンナ 「すごいです。 でも、露天風呂じゃないんですね?」
ダンテ 「ああ、そうだな。 予定が変わってな。 小さい風呂だったら露天でもよかったんだが、広くしたから熱が逃げにくいように囲ったんだ」
ハンナ 「なるほど。 ナト、すっごいね。 おっきいお風呂だね」 ナト 「うん!!」
アリスが持ってきていたレモンティーをコップについで配って、クッキーと飴玉の入った紙袋を開けた。
優がキャリーラックを引いてきた。 『薪はここでいい?』 ダンテが『ああ、そこだ』
アリス 「優君も、お疲れ様。 はい、レモンティー」 優 「ありがとう」
優 「すごいね。 あっという間だね。 お湯はここで沸かすの?」
ダンテ 「いや、石焼き風呂だ。 そこで丸石を真っ赤に焼いて、ここに放り込む」
優が『なんか、凄いね』感心しながら、見て回る。
ハンナが声を上げる。
ハンナ 「ああ! 師匠、その手」 アリス 「そう、粘土を取りに行って、クドゥラスの巣を壊したら、噛まれちゃった」
ハンナが『大丈夫』というアリスを置いて薬を取りに走る。
ベレとコールが入れ違いに、3回目の丸石を運んできた。 『ヒィ、もうムリっす』 『バテました』
ダンテ 「おお、ご苦労さん。 優? この2人が一休みしたら、もう1回行くから、手伝ってやってくれ」
ベレ/コール 「「そんなぁ!!」」
そんな、宿泊する準備がほとんど整った宿営地の朝の風景だった。
南の空には、まだ異常は見られない。