#05 3人の共通点
異人種
3人はテントから出て、火の回りで寝転がってる。 アリスが、星がキレイだと言いだしたからだ。 でも本当は、トイレがしたかったアリスが誰かに近くにいてほしくて、2人をテントの外に誘っただけだ。 アリスは暗闇が苦手だ。
優が焚き火の薪をくべなおしたから、よく燃えていて暖かい。
ハンナが思いついたかのように、手をポンとたたいた。
ハンナ 「ここにいる私たち3人は、共通点があります」
2人が聞き返すと、ハンナが得意げに話し出す。
ハンナ 「私がエルフでしょ。 優がヤマトで、アリスさんはハーフリングです。 みんな変わった血を引いていますね」
優が『そうかぁ』と言う。 しかし、アリスはまた驚いて固まっている。
アリス 「優君はやまとってあのヤマトなの?」
優 「はい、オレは母さんがヤマトなんで、ハーフですけど」
アリス 「――なるほど… ダンテさんも大事なことは何も言わないんだから。 道理で優君は優秀なわけよね」
優 「…」
アリスはハンナに、『ははは、でも面白いわね、考えてみると』と笑いかけた。
ハンナ 「ええ。 アリスさんが隔世遺伝のハーフリングで、優はヤマトのハーフで、私がエルフのクオーター」
優 「なんか、STEIGMAから追い出されてここにいるみたいに感じますね」
アリス 「ハハハ、それ面白いわ。 わたしたちが逃げてきたんじゃなくて、追い出されてるのね。 …しかも、ここには元貴族が2人もいる。 感慨深いものがあるわ。 偶然にしても面白いわね」
アリスは膝を抱えて笑う。
アリス 「ハンナは、生んでくれたお母さんも覚えてないの?」
ハンナ 「わぁ... 何にも覚えてないです。 だから、優や師匠が少しうらやましいです」
アリス 「なるほどねぇ… だけど、ホントに今日は驚かされたわ。 フフフ」
3人は顔を見合わせて笑った。
アリス 「そうだ。 ハンナはジーナさんの“娘”なのよね?」
ハンナ 「えっ? ええ、一応そう言ってもらってますけど?」
アリス 「わたしは、ジーナさんの娘を娣子にしてるのねぇ。 これも、わたし的にはすごいことなのよ」
ハンナ 「師匠はジーナさんと何かあるんですか?」
アリス 「あっ、いいえ。 わたしが一方的に憧れてるの。 ほら、ジーナさんかっこいいでしょ。 わたしは、あんなふうになりたかったなぁ」
ハンナ 「師匠、それ、すっごくよくわかります。 私も初めてあった頃、こう何か胸が『ドキ―ッ』てしてました!」
アリス 「でしょー? 私の場合、ダンテさんと対等な立場で生きてるってのがたまんないのよね。 女性なのによ?」
優 「 … 」
アリス 「そうだ、ハンナ。 あなたにちょうどいいものがあったわ。 国庫から持ち出した宝石の中にヒスイのネックレスがあるわ。 エルフは成人したらヒスイを身につけるらしいから、明日あなたにあげる。 わたしからのプレゼントよ」
ハンナ 「いいんですか? うれしいです、師匠」
アリス 「よかったわ。 話しができて、話が聞けて… でも、今日はもう寝ましょう?」
アリスが起き上がってテントへ移動する。
ハンナは『はい』と返事をして、ダンテたちが眠るテントへ戻ろうとした優の袖をつまんだ。
『へっ?』となった優はアリスと目が合った。 アリスは『わたしはいいわよ』と優に柔らかく言って丸まって寝転がった。
何故か『師匠、ありがとうございます』とハンナが優の代わりにお礼を言って、ハンナはテントの中へ優を引っ張り込んで寝転がった。
国境まであと、10㎞。
3重に敷かれている警報装置が鳴ることはなかった。
ほのぼのとした3人の夜の風景でした。
前編が終わります。