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#05 アリスの過去 3

ハンナ



  ハンナに八つ当たりをされながら、優はアリスに話の続きをふった。

アリスは、若い2人のじゃれ合いをほほえましく見ていて、『えっ、もう終わったの?』と寂しそうに言った。

  ハンナも姿勢を正して向き直る。 『仕方ないわね』と話し手のアリスの方が少し“飽き”が来ている。


  アリスも仕切りなおして姿勢を変えると、炎を見つめて頬を摩りながらしゃべりだした。


アリス 「ヴィセス公の最後はあっけなかったわ。 ダンテさんが立てた計画通り、地下の柱をたった一本抜くだけで床が抜けて、ヴィセス公は地下まで落ちてきた。 瓦礫に挟まれたヴィセス公は偶然にも喉がつぶれて声が出なくなってたわ。 わたしたちの姿を見て何かを言いたそうにしていたけど、わたしは計画通りに配管のパイプを壊して、水が溜まるまでそこに隠蔽魔法をかけたままにした。 正直、何とも言えない気持ちになったわ。 親の仇が討てたことはうれしかったのだけれど、ダンテさんと会う口実が無くなってしまうことの方が悲しかった。 ダンテさんと別れたらもう会えない気がしたの。 もの凄い喪失感だったわ。 父も家もなくして、何もなくなったわたしには、もうダンテさんしかなかったしね…」


アリスはフッと笑って言った。


アリス 「たぶんあの時、わたしの顔には全部出ていたのでしょうね。 ダンテさんは不意に、わたしのシーフとしての能力はダンテさんには必要だから、力を貸してほしいって言ってくれたの。 そして、近いうちに仕事を頼むために会いに来るからと言ってその時にって別れたの。 わたしは楽しみに待ったわ。 そのまま3ヵ月も待たされたけど…  はははっ、しかもその約束の日はただの雑談をして帰っていったわ。 そんな人よねダンテさんって」


ハンナも『何となくですが、わかります!』とアリスに強く共感して、優を見て苦笑した。


アリス 「それから、優君に会ったのが半年後くらいよ? そこからは知っての通り、移住のための準備と情報収集よ。 もっとも、移住計画はダメになったけど… これでいいかしら?」


優 「ええ、ありがとうございます。 なんか申し訳ないです。 いろいろしゃべらせてしまって」


アリス「いいのよ。 わたしも話しができてよかった。 優君にはわたしの気持ちを知っていてほしかったし、優君の気持ちもうれしかった。 改めてお礼を言うわ。 ありがとう、2人とも」


ハンナはうなずいて、優は『こちらこそ』と返した。


ハンナは気になっていた最後の質問をした。


ハンナ 「師匠は、ダンテさんに想いは伝えてないんですか?」


アリス 「うーん、何ていうの。 なかなかタイミングがなくて。 ダンテさんの方もわたしを避けているような気もしないでもないし… 後、いろいろとこの頃は忙しかったしね。 でも、この旅が終わったらちゃんとダンテさんを捕まえて話を聞いてもらうつもりよ――」


ハンナは、『なるほど』とうなずいた。


アリス 「――優君の気持ちが先に聞けて良かった。 わたしももう30過ぎちゃったし、子供も欲しいし…   あっ、ごめんなさい」


優 「大丈夫です。 アリスさんの気持ちは分かりますよ。 複雑ですが、オレもそこまで子供でもないんで、気にしないでください」


アリス 「…ありがとう、優君」


  失言でちょっと気まずくなったアリスは、ハンナに話を振った。


アリス 「それじゃあ、優君のことはだいたい知ってるから、今度はハンナのことを聞かせてくれる?」


ハンナ 「えっ? ああ、そうですねぇ… わたしは特にこれと言って語れるほど人生は送っていませんが…」


優 「そんなことないと思うよ、オレなんかよりずっと大変な人生だよ?」


ハンナは、『そう?』と言いながら、姿勢を正す。


ハンナ 「私の名前は、ハンナ・Kilnies。 幼少の頃――」


『ブ―――ッ』 アリスが何倍目かのカモミールティーを吹き出す。


ハンナ 「大丈夫ですか、師匠?」


アリス 「――あなた、大貴族様じゃないの、Kilniesって!」


ハンナ 「あぁ、はい。 でも、私は(めかけ)の供なんで、どうということはありません」


アリス 「あっ、ああ。 そうなのね。 でも、それでも、どうして下町に?」


アリスは、落ち着きを取り戻し『ごめんなさい、遮っちゃって。 続けて』とハンナに話を戻す。


ハンナ 「はい。 言いましたが、母はKilnies当主の(めかけ)で、私が2歳の時に死にました。 母はハーフエルフで――」


『ブ―ッ』 また、アリスが中断させる。 アリスは口を拭きながら言う。 『今度はエルフね... 通りでその容姿なわけね。 ごめん、ハンナ、続けて』


ハンナ 「母と暮らしていた私はそのまま、Kilnies家に引き取られました。 ですが、そこから、7歳くらいまでの記憶がありません。 私は何かの事情があって、7歳くらいから城下街に移されたのですが、そこで育ててくれたエマという女性によると、私は“ギャクタイ”にあっていたみたいです。 いじめの一種だとエマから教わりました。 そのせいで記憶がないらしいです。 でも、エマが代わりに私にたくさんのことを教えてくれました。 あっ、医療技術もエマが教えてくれました。 あと、料理も。 それから――」


ハンナの色違いの目から涙が出てきた。 優はこうなることが分かっていたのか、すっと自分のタオルをハンナに渡した。


ハンナ 「ごめんなさい。 エマのこととなると… エマは、私にたくさんの物をくれました…」


アリスは、口角を上げてうなずく。


ハンナ 「でも、そんなエマも重い病気にかかり… 亡くなる少し前に、私に『16歳を迎えたから縁談の話が来るだろう』と教えてくれて… その時初めて、私がKilnies家で育てられていた理由を知りました。 エマは私にKilnies家を捨てなさいって言ってくれました。 そして、私が逃げるための準備もしてくれていると教えてくれました。 エマは死ぬ間際まで、私のために準備をしてくれていたんです… それを聞かされてからは、あっという間でした。 エマが亡くなって、2日後に縁談の話を告げられて… 気付いたときは、私はもう下町にいました」


アリスが一息おいたハンナに言った。 『あなたの明るい性格も、エマさんからもらったものなのね』


ハンナ 「あぁ、そうなのかも知れませんね。 ふふ、きっとそうですね。 生前のエマはよく笑う人でしたから――」


ハンナは笑って涙を拭いた。


ハンナ 「下町では、歩いている所をジーナさんに拾われて… それから、ジーナさんには“娘”とまで呼んでもらって… ずっと、お世話になりっぱなしなんです、いろんな人たちに… サテラさんやダンテさんにも。 もちろん、優にも。 優は私とナトのために命までかけてくれたものね」


ハンナはもう一度涙をふくと、優にタオルを返してほほ笑んだ。


ハンナ 「私は、エマに育ててもらい、ジーナさんに拾ってもらって、皆から居場所をもらってここにいます。 そして、今は、師匠、 貴方に娣子入りしてお世話になっています」


ハンナは、そう言ってたれ目をいっぱいに下げて笑った。



ハンナにしてはきれいにまとまった方なのだが、アリスは何か引っかかるようだ。


アリスはハンナにうなずいた後、『何故かしらね? 詳しくは聞いてなくても凹むわ。 先にこの子の話を聞いとけばよかったわ』と優を見て言った。

優もうなずいて答える。


「アリスさん、それ、わかります! オレも別に不幸自慢したいわけじゃないんですが、その、次元が違うというか…」


アリスと優がうなずきあう。


ハンナ 「師匠? 何がですか? 優?」


  上には上がいる。

自己嫌悪する2人もそれなりに大変な人生を送ってはいるが、ハンナの不幸に比べれば霞んでしまう。

2人には少なからず、自分の歩んだ人生に対して“苦労したけど頑張った”という自負があった。 それを“思い上がりだった”と反省したのだった。 

2人はそれでもハンナの質問には答えなかった。


ハンナ 「あぁあ! 仲間外れはダメじゃないんですか、師匠?」



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