#00 ブナの森 2
優たちとアリス
時々、突風が何処からか吹いてきて、濃い緑の葉を残して黄色く色づいた葉を散らす。
優たちの少し後ろを歩きながら今度はハンナが、昨日のことを思い返していたようだ。
一度はあきらめかけたハンナの幸せは、今は数歩先を歩いている。 そのことが本当に嬉しいのだろう。
しかし、その他のことも一緒に思い起こされてしまったようで、赤面して下を向いた。
ハンナは時々喜んだり、顔をしかめたり、赤らめたり百面相している。
そんなハンナに優も気が付いたようだったが、優にも何のことかすぐに見当がついたのだろう。
気まずくなりそうなのでそっとしておいたみたいだ。
そんなハンナの直ぐ後ろで突然、
「すごいじゃない!」
と愛らしい声がした。
ハンナが驚いて振り向くと、岩の上からアリスがのぞき込んでいた。
「びっくりした。 アリスさん、脅かさないでください」
ハンナが胸を抑えたまま、『またですか…』とあきれ気味に言うと、アリスは楽しそうに、しばらくご飯の心配はなさそうね』と、にこにこ籠を指さしながら言った。
ベレがいい汗をかきながら数十メートル先を、丘の上の方から下って来ていた。
50匹くらいのスクウォルを棍に紐でつないで担いでいる。 スクウォルは木ネズミの仲間で1匹500grくらいはある。 重そうだ。
アリスの腰にも籠がぶら下がっている。
「アリスさんこそ、さすがですね」
優が言うと、アリスは更に明るくなって、『シーフの家系ですから』と胸を張った。
アリスは魔導師と呼ばれるより、シーフと呼ばれたいらしい。
優の気持ち
アリスは、彼女たちが来た方にヘーゼルナッツの木が生えていたことを教えた。
アリスのポケットから出てきたナッツを見て、ハンナの目は再び輝きだした。
優は苦笑した。
優はナトの手を引いてハンナの後を追いかける。
汗一つかかずにハンナはヘーゼルナッツの木まで着いていた。
少し後をナトに手を引かれながら、優も丘を上ってきた。
時期が良かったらしい。
キレイな実だけを集めても、あっという間に籠の1/4が埋まってしまった。
『これでクッキーが毎日食べられる』溜まったナッツを覗き込んで、ハンナはますますご機嫌だ。
「ハハハ、いいね。 ――でも、そろそろ時間だよ? 戻ろう?」
優は少し考えて、ハンナの背負ってきた籠を右肩に担いだ。
とっさに手を出したハンナに優が、
「…やっぱり、これは男の仕事だよ。 お願いだから、運ばせて」
と言うと、ハンナの方も口元を緩めてうなずいた。
籠は少し重そうだったが、優の居心地はこれでずっと良くなったみたいだ。
戻り際、馬車が見える所まで来て、優はクセのある蔓に気が付いた。
ハンナの肩を右手でトントンとすると、ハンナも気付いた。 図鑑で見て知っていたのだろう。
アピオスだ。 マメ科の芋でたくさんでんぷん質を含んでいて美味しい。
ハンナは籠を担いで汗をかいた優をみてクスッと笑い、『スコップもって戻ろっ』と手を繋いできたナトに言った。