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#04 斥候

ヴィルカスウォルフ



  馬車の後方でコールの呼ぶ声がする。 『お嬢! 左後方の森の中を見てください。 何かいるっす』


アリス 「あらあら。 ダンテさんと(うわさ)したからかしら。 ヴィルカスウォルフね。 ついてきてる。 でも、1匹ね。 斥候(せっこう)かしらね」


すると、御者(ぎょしゃ)の精霊が珍しく口を開く。 分からない言葉で、アリスに何か言う。 『あら、ホントだわ。 前にも2頭いるわよ? ベレ? アナタ寝てたの?』 アリスが厳しい口調で詰める。


ベレ 「すっ、すみません!! 確かにっ! 2頭… いえ、もっといます。 4頭くらいが森の中を並走してます」


アリス 「こいつらは、全部斥候(せっこう)ね。 ベレ、アナタ装備は?」


ベレ 「はい、片手なのでサーベルがここに! それと手りゅう弾が一つです」


アリス 「いいわ! 抜刀して降りて、ジルガスの横を走って。 コール! (やり)を後ろで構えてなさい。 ハンナはわたしの短剣を抜いて」


「「「 はい 」」」


アリス 「そんなに気張らなくてもいいわ。 威嚇してわたしたちがエサじゃないことを分からせればいいの。 それと、ヴィルカスウォルフに大きな傷を負わせないで。 追い払うわよ? 音に備えて」 


  アリスが両手を広げて、目を閉じる。

赤黒い球体がアリスの指の数だけ出来上がる。 『みんな! うるさいわよ‼』 アリスが玉をばら撒く!

雷鳴が近くで鳴ったような音がして、『キャイ~~~ン』と何匹かがひるんだ。

ジルガスも少し驚いて飛び上がり、馬車がガチャガチャと前後に揺れる。


  前方を走っていたヴィルカスウォルフの1匹が道に飛び出てきた。

だが、今回のベレは反応が良かった。 ベレのとっさの回し蹴りを(あご)らって『ギャワワン』と馬車の後方に転がっていく。

  態勢を崩したベレも、後方のコールに手を借りて、走り続ける馬車に飛び乗る。

『ベレ、いい蹴りだったわ』 アリスは言うと、もう一度赤黒い球体を作って、後方にばらまいた。

今度は、一度に破裂しないで一つずつ雷鳴のような音を響かせていった。


アリス 「もう、大丈夫。 だけど、ダンテさんたちをびっくりさせちゃったかな」


そう言って、アリスは気にするそぶりを見せたが、すぐにハンナが時計を見て、『もうすぐ、1時間ですから』と笑って返した。


ベレ 「――!? はんなさん? 何か雰囲気、違いませんか?」


アリス 「よく気付いたわ! そうなの、ハンナの目よ。 目が開いたの!」


コール 「えええええ、もうっすか? やっぱ、天才っすかね」


ハンナ 「そんなに変わりました…? わ、わかりますか?」


ベレ 「わかります」  コール 「わかったっす」


アリス 「ハンナ? この2人は唯一目だけは良いのよ。 でも、ベレもコールも、精進なさい? ハンナにぬかれるわよ」


ベレとコールは『はい』とだけ答えた。 アリスの口調は普段と比べて、それほど刺々(とげとげ)しくもなかった。


  『『『 !? 』』』 

トトンと馬車の荷台に優が乗ってきた。 『大丈夫...ですか? ...さっきの音は?』 


アリス 「早いわね、優君。 ヴィルカスウォルフが出たわ。 でも追い払ったから大丈夫よ」


優はみぞおちの辺りをつかんで、肩で息をしていた。 雷鳴を聞いて全力疾走で戻ってきたのだろう。 『...よかっ...た』と優は息を途切れさせながら言った。

  そして、ハンナを見て優も気付いた。 優が『どうしたの?』と言う顔で、息を整えながらハンナの傍に寄ると、ハンナは顔を上げて優に向き直った。


ハンナ 「ど、どう?」   優 「あっ... ごめん... きれい...だと思うっ... はぁ、はぁ... ちょっと待って」


優は『ばてたー』と言うかのように、手を後ろについて足を伸ばした。

ハンナがかいがいしく、優の世話をやく。 水を持ってきて、飲ませて、汗を拭いて。

『目が開いたの』とちょっと恥ずかしそうにハンナが言うと、息をつきながら優も左右の目が、色違いなことに気付く。 優の口角があがって、ハンナもそれを見てほっとしたのか、向かいに腰を下ろした。



  『ドンッ』と馬車が揺れて、ナトを肩に乗せたダンテも戻ってきた。 ダンテも少しだけ肩で息をしている。


ダンテ 「大丈夫か、アリス」


アリス 「はい。 驚かせてごめんなさい。 ヴィルカスウォルフの斥候が何匹か来たので、追い払いました」


『ああ、そうか』とダンテは言って、珍しくダンテも腰を下ろして休んだ。 ナトはハンナの隣へ行って、ちょこんと座る。

アリスはフフフっと笑って、ハンナから水を一杯貰ってダンテに渡す。 ダンテが一気に水を飲み干してしゃべりだす。


ダンテ 「ばてたか、優? ハハハ」


アリス 「早かったですよ、優君。 最初の爆発から3分ってとこです」


ダンテ 「ああ、先に行って時間を稼げって送り出したんだ。 しっかし、確かに若い奴は軽くて速いな。 まぁ、何もなくてよかった」


優 「あー... でも、ホントばてた。 こんなに思いっ切り走ったのは久しぶりだ。 ふーっ...」


ハンナ 「ははは、だいぶ落ち着いてきたね。 ナトは、楽しかった?」


ナト 「ううん、さっき帰ってくるときは怖かった。 ダンテおじちゃんも走る――?」


『ハンナ姉ちゃん? その目?』 水をもらって飲んでいたナトもハンナの変化に気が付いた。

  ダンテも気付いて身を乗り出した。


ダンテ 「オッドアイか? アリス?」   アリス 「あっ、え?」


ダンテ 「どうだ? 優――?」   優 「――うん、色は違うけど、光り方が母さんと同じだ」


「「 !? 」」



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